面白い文章を書くには、読者を引き込む「つかみ」を作ることが必要です。おいしいネタを出し惜しみしていると、読み手は途中で読むことをやめてしまうことも。本稿では、文才が無い人でも「つかみ」を作るテクニックを、ライターの杉山直隆さんが紹介します。
※本稿は、杉山直隆著『文章は「つかみ」で9割決まる』(日本実業出版社)より内容を一部抜粋・編集したものです。
「つかめるつかみ」は誰でも書ける
「文章のつかみ」を書くポイントとして最もお伝えしたいのは、「飛び抜けた文才がなくても、誰でもできることをすれば、『つかめるつかみ』はつくれる」ということです。
読み手の心を惹きつける「つかみ」を書くために、私はさまざまな「つかみ」から、自分の文章にも取り入れられそうなものを探すようになりました。
有名な作家の小説、人気エッセイストのエッセイ、一流ライターのノンフィクション、新聞や雑誌の記事、Webメディアのインタビュー記事など、幅広くアンテナを張ってきました。
そのなかで気づいたのが、よく使われていて、手軽に取り入れられる「つかみ」の手法があることです。一流の書き手の超絶テクニックは簡単にマネできませんが、そうした手法を活用することで、「これは読み手の興味を惹けるのでは!?」という「つかみ」が書けるようになりました。
おすすめしたいのは、「最もおいしいネタを出し惜しみしないで『つかみ』に持ってくること」です。
「最もおいしいネタ」とは、「最も読み手の興味を惹きそうな話」「ストーリーのなかで最も面白いところ」と言い換えてもいいでしょう。
たとえば旅行記を書くなら、その旅行で最も心に残った光景やハプニングのエピソード。何らかのノウハウについて書くなら、最も重要なノウハウを「つかみ」に持ってくるのです。
「最もおいしいネタ」を「つかみ」に持ってくることで、読み手の心を惹きつける。これこそ、まさに誰でも取り入れやすい方法でしょう。
ところが、せっかくのおいしいネタが「つかみ」に使われることなく、途中に埋もれている文章をよく見かけます。そして、「わかりやすいけど、無難すぎる『つかみ』」を使ったり、「手あかのついた『つかみ』」に頼ったりするわけですね。
なぜ、おいしいネタを出し惜しみしてしまうのか。理由はいろいろあるでしょう。
私自身、ネタを出し惜しみしていたことに身に覚えがあり、理由の1つは「最もおいしいネタをいきなり出すよりは、あとにとっておいたほうが文章が面白くなるのでは」と考えていたことでした。
「コース料理でも、メインディッシュをいきなり出すのではなく、まずは前菜から。文章だって同じでしょ?」と思ったのです。
「最初に一番面白いネタを持ってくると、あとが尻つぼみになる」ことを気にしていたこともありました。「なんだ、期待外れじゃないか」と思われたくなかったのですね。
みなさんのなかにも、かつての私と同じような考えを持っている人はいませんか?
しかし、読み手は自分の文章を何十行も根気よく読んでくれるとは限りません。最初の数行の「つかみ」で惹きつけられなければ、いくらそのあとに面白い話が書かれていたとしても、読んでくれないのです。これでは、まさに宝の持ちぐされです。
私は講師を務めるライター講座で、受講生の文章を添削しています。そのときも、おいしいネタが埋もれている文章を読むたびに「このおいしいネタを前に持ってくれば面白そうに見えるのに、もったいないなぁ...」と思うのです。
すべての文章でおいしいネタを最初に持ってくればいいわけではありませんが、多くのケースで使える手法です。私も文章を書くときは、「最もおいしいネタは何か」「それを『つかみ』に持ってこられないか」と一度は考えるようにしています。
「つかみ」にしやすい「最もおいしい」3つのネタ
「最もおいしいネタ」のなかでも、次の3つは「つかみ」に持ってくることを検討してみてください。それぞれ見ていきましょう。
(1)最も伝えたいポイント
(2)印象的な情景・シーン
(3)気持ち・感情