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さらば、「決断できない」政治

中田宏(元横浜市長/大阪市特別顧問)

2012年07月03日 公開 2022年12月27日 更新

さらば、「決断できない」政治

GDP比で1997年に100.5%だった国債残高は、2012年には219.1%に増え、年間の自殺者は3万人台を続けている。いつまでも議論だけが繰り返され、物事を決められない政治が、国民の痛みを長引かせている。

このように語るのは、横浜市長を務めた経歴を持つ中田宏氏だ。

※本稿は、中田宏 著『改革者の真贋「決断できない政治」』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

決断できない政治が、国民の痛みを増大させる

橋下市長と私の意見が一致するのは、「政治家なんて長くやるもんじゃない。やることやったら、とっとと身を引く」ということだ。

「どうにも機能していない政治に対して、任せておけないから政治家になった」というのが私の本心だ。割に合うか合わないかなどと考えたら、とてもやっていられない。

時間、エネルギー、精神――これほど、割に合わない立場はない。ひたすら使命感に突き動かされているだけだ。政治家を真面目にやれば、大げさではなく、心身ともにポロポロになる。当たり前のことだ。

市長だったら、市役所の備品発注から数百億の施設整備まで、毎日が決裁の連続だ。人命に関わることについて議を論じ、断を下すこともある。

反対する人たちの突き刺さるような言葉を浴びながら、それでも決断をするのが政治家の役割なのである。ニコニコと愛想よく、ダラダラと務めているだけの政治家は無価値だ。

「政治が機能していない」というのは、「決めるべきときに、決めるべきことを決めていない」ということではないだろうか。日本の政治に欠けているのは、期限を決めて約束したことを実行に移すという緊張感である。

そもそも、どんな仕事だって、時間のけじめをつけて仕事をしなければ、いい仕事などできない。期限を決めないで「いつかはする」「少しずつやる」と言うことは、「やらない」と言っているのと同じなのだ。

とくに行政の改革は、渾身の力をもってスピーディーにやらなければ、成果が出ないどころか「痛み」だけが増大する。

国政においては、「改革」と言ってきたはずなのに、GDP比で1997年に100.5%だった国債残高は、2012年には219.1%に増え、年間の自殺者は3万人台を続けている。

いつまでも議論だけが繰り返され、物事を決められない政治が、痛みを増大させながら長引かせている。

 

仕事とは、期限を決めてするもの

2002年3月、私が横浜市長選挙で掲げた公約は「日本プライド構想2010」という名称だ。当初から、2期8年ということを打ち出して選挙を戦い、市長になった。2010年までの期限で財政再建すると約束し、その道筋をつけたから、私は市長を退いた。

責任を自覚する政治家ならば、「何を、いつまでに」と約束するのが本来の姿だと思う。もっとも、政策と期限を明記したマニフェストが出されても、民主党のように、根拠もやる気もないというのでは話にならない。

我が国の国政は、首相がコロコロ替わることが問題だが、地方行政では逆に、首長の多選という問題がある。

私が横浜市長選挙に出ることになった経緯も、当時、3期12年を終えた現職市長の4選出馬が引き金だった。「相乗り選挙=オール与党議会」の問題はすでに述べたが、それに加えて多選市長までセットになれば、財政破綻への道をまっしぐらである。

一昔前までは、4期16年や5期20年、それ以上の長期政権も地方行政で多く見られた。長期政権からは、しばしば汚職事件が発生したり、事件まではいかなくても、例外なく行政組織の硬直化がもたらされていた。

だから私は、公約の1つに横浜市長の多選禁止条例の制定を掲げ、これは2007年に横浜市議会で可決成立した。これにより、横浜市長は長くても「3期12年まで」となったのである。

繰り返すが、仕事は期限を決めてするものだ。1人の人間が組織を運営すれば、どんな組織でも硬直化する。それは、民間企業でもいかなる組織でも同じだ。

だが、公権力を行使する行政組織が腐敗、硬直化することは許されない。行政組織は、民間企業と違って自ら稼いで利益をあげているのではなく、公権力で国民から義務的・強制的に税金を納めてもらい、そのお金でマネジメントするのである。

腐敗、硬直化しないように自ら予防する仕組みをつくっておく必要があるのだ。

首長の多選を禁止する法律案は、1954年以来これまでに3回、国会で議員提案されていたが、いずれも廃案になっていた。ここにも「決められない」国会の姿があるが、法律によって一律に多選を制限することは地方分権の流れに逆行するので、これはこれでよかった。

私は、現行の都道府県や政令指定都市などは、積極的に多選を制限すればよいと思う一方で、人口数万人の市町村では、同じように多選を制限することを求める必要はないと思う。それぞれの自治体が自ら判断する「自治原則自治主義」でよい。

 

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