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マスク事業参入で大赤字...「まずはリサーチ」で始める事業が失敗に終わるワケ

内田和成(早稲田大学名誉教授)

2023年08月10日 公開 2023年08月10日 更新

マスク事業参入で大赤字...「まずはリサーチ」で始める事業が失敗に終わるワケ

新商品を開発する際、新市場に参入する際「まずはリサーチだ」というのは、おそらくほとんどの会社で行われていることだろう。しかし、「それで成功する確率は限りなく低くなっている」と指摘するのは、早稲田大学名誉教授の内田和成氏だ。「情報を集めてから動く」というアプローチの問題点とは?

※本稿は内田和成著『アウトプット思考 1の情報から10の答えを導き出すプロの技術』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

Chat GPTで質が上がるとは限らない

ITの発達により、情報収集および整理・分類は格段にやりやすくなった。かつては手書きで相当な時間がかかっていた情報を書き写す作業は、いわゆる「コピペ」により一瞬で済むようになった。

ネット上の情報を気軽にクリッピングできる「Evernote(エバーノート)」などの便利なツールも登場した。「Evernote」は私も愛用しているが、デジタルならば1つの情報に複数のラベルをつけることも容易であり、カードによる情報整理の問題点はほぼ解消されることになった。

では、情報収集および情報整理が容易になったことで、我々の生産性はどれほど高まったのだろうか。アウトプットの質はどれだけ向上したのだろうか。

もし、情報収集や情報整理の巧拙が生産性に直接結びつくというのなら、当然、以前よりもアウトプットの質も量も向上していなくてはならないはずだ。

だが正直、情報収集・整理の進歩によって目立った業績を上げたという人を、私は寡聞にして知らない。

最近はやりの「対話型AI」と呼ばれるChat GPTのようなツールが普及しても、作業の効率は上がるかもしれないが、質が上がるかは別問題である。

 

「情報通」であることは、もはや差別化にはならない

それはなぜか。理由の1つとして、「情報を持っていること」が差別化の要因になりにくくなったことが挙げられるだろう。

いわゆる「情報通」がもてはやされたように、かつては「たくさんの情報を持っていること」は、それだけで価値となった。

だが、1970年代にパソコンが登場し、その後インターネット、スマホに代表されるネットワークがここ20年くらいで急速に発展したことにより、その常識が変わりつつある。

例えば以前なら、豊富な商品情報を持つ小売店の店員は大きな価値を持っていた。インターネット普及以前において、商品情報が欲しければ、メーカー各社に連絡してパンフレットを送ってもらうか、店舗に直接行って実物を見るしかなかった。店員の持つ豊富な商品情報は、購買検討の際には不可欠だった。

だがいまや、商品情報はネットでいくらでも手に入る。ほとんどの人が事前にネットで調べてから店舗に足を運び、中には店員よりよほど豊富な商品情報を持つ顧客もいる。

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かつて有料だった情報がどんどん「無料」に

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