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営業の目が段々うつろに...「数値目標ばかり追い続ける企業」の末路

加藤芳久(株式会社ファイブベイ取締役・副社長 )

2023年08月22日 公開 2024年12月16日 更新

 

人間関係の改善は1on1より全共有 

皆さんは、歯が痛くなったときに歯医者に行かず、鎮痛薬でごまかしているうちに虫歯が悪化してひどい目に遭った経験がありませんか?

ビジネスの世界でも、それと似たような状況はよく起きます。

私が以前、営業職向けの研修を担当していたときのことです。研修では「お客様にこうアプローチすれば契約を取れます」「お客様をリピーターにするためにはこう考えればいい」と方法を伝えていました。問題解決のために、関係の質ではなく、思考の質や行動の質を先に改善していたのです。

参加者がその通りに実践すると成績は劇的に改善し、その企業の業績は目に見えて上がりました。

参加者は「こんなに契約をとれたのは初めてです!」と喜び、企業の人事部も「加藤さんのお陰です!」と大喜び。私も人の役に立てた喜びを噛みしめていました。

やがて、私の役目はその企業では終了となり、別の企業で同じように営業研修で営業の底上げを図る毎日でした。どこの企業でも営業の成績は飛躍的に上がり、私は着々と実績を築いていました。

ところが、しばらくすると「また売上が低迷してきたので、研修をお願いしたい」というリピート依頼が相次いだのです。

研修の場で再会した参加者は、みな目がうつろ。事情を聞くと、「売上を達成しても、また数値目標が高くなるだけだから、仕事が厳しくなってツライ」と完全にやる気を失っていました。数か月前、キラキラした目で営業の面白さに目覚めたと、熱く語っていたのに。

リピートしてもらうのは、私にとって営業的には悪いことではありません。しかし、「コンサルタントが離れたら元に戻ってしまうのは、本当の意味での解決になっていないのではないか?」と疑問が湧いてきました。いわば、自分がしていたのは虫歯の痛みを一時的に止める鎮痛薬のようなものなのだと悟りました。

営業に数値目標が必要なのはわかります。

しかし、営業の本質はお客様の役に立ち、お客様に喜んでいただけること。それが自分にとっての喜びにもなるのだと私は研修で伝えてきましたが、いつの間にかノルマ達成のための手段として私の教えたノウハウは使われていたのです。

これでは何度教えても、短期的には効果を上げても、すぐに元に戻り、根本的な解決にはなりません。

私は、徐々に現場の仕事の仕方を変える前にやるべきことがあるんじゃないかと思うようになりました。

数字よりも大切なことがある。技術や方法論だけを教えても意味がなく、社内全体で解決策を考えないと、「やらされ感」を生み出すだけではないか。そのような想いが募り、私は組織全体を変えるような研修の仕組みを整えることにしました。

そして、さまざまな方法を試すうちに、すべての方法に共通する一つの法則を見つけました。それは、「すべてを共有すれば、人のつながりが強くなる」というシンプルな法則です。

1on1ミーティングで上司と部下が二人だけで共有するのではなく、チーム全員ですべてを共有する。時代に逆行する方法かもしれませんが、それが、私が提唱する"シェアリングリーダー"になるための基本です。もちろん、言いたくないことまで無理に言う必要はありません。あくまで、本人の気持ちを尊重します。

喜びも悲しみも嬉しさも怒りも、迷いや決断も、すべて共有すれば、年齢もポジションも超えて人は人とつながれます。それも、想像以上に深く、強く。

チームの絆が強くなると、リーダーが何もしなくても、みんなは自分で考えて行動するようになります。数値目標など立てなくても、各人が自分で目標を立てて自走できるでしょう。何か問題が起きても、自分たちで話し合って解決する。そのようなチームに生まれ変わった瞬間を、私は何度も目にしてきました。

ぜひ、みなさんも、リーダーと部下の関係の質を高めるために、チーム全員ですべての情報や感情を共有し、チームのつながりを強固にする"シェアリング"に取り組んでみてください。

 

【加藤芳久 (かとう・よしひさ) 】
株式会社ファイブベイ 取締役 副社長 。情報経営イノベーション専門職大学 客員教授 リーダー育成と組織変革を得意とする経営コンサルタント。情報経営イノベーション専門職大学客員教授。 大学卒業後、大手旅行会社、コンサルティング会社を経て、2016年に株式会社加藤経営を設立。日本ハム、三井ホームなどの大手企業を中心に、これまで200社以上に対して人財育成の体系化・組織風土変革を支援。台湾、シンガポールなど海外にも活躍の場を広げている。 2022年には、株式会社ファイブベイ(FiveVai)設立、取締役副社長兼CHO(チーフハピネスオフィサー)に就任。著書に『売上を追わずに結果を出すリーダーが見つけた20の法則』(かんき出版)などがある。

 

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