50代も半ばを過ぎると定年退職が視野に入り、シニア以降の生き方や働き方についての悩みが生じることも。残り少ない会社人生をどう過ごすか、そして定年後をどう生きるか。いまのうちに考えておくことが重要です。大塚寿氏が解説します。
※本稿は大塚寿著『今からでも間に合う!会社人生「55歳の壁」突破策』(かや書房)を一部抜粋・編集したものです。
55歳以降がホントの人生
あなたの「会社人生」は、最初に思い描いた通りのものになりましたか?
山あり、谷あり、良いこともあったし、眠れないくらいに理不尽で、とんでもないことにも遭遇したといったところでしょうか。会心の仕事の手ごたえも経験されたでしょうし、組織や職場の人間関係、顧客、家族に振り回されたこともあったでしょう。
あなたは、何がやりたくて今の会社や組織に入ったのですか? そもそも、その初心を覚えていますか? やりたいことが実現しましたか? それらを全部ひっくるめて、あなたの本意が満たされたのか、逆に不本意と感じることのほうが多かったのか、そのバランスはどんな感じでしょうか?
「会社人生」が100%「自分の本意」になることは考えにくいとは思いますが、肌感覚で構わないので、自身の「本意:不本意比率」をはじき出してみましょう。
なぜ、もうやり直しができない「会社人生」の終盤戦に、全体を振り返る必要があるのでしょうか。仮に「本意:不本意比率」が2:8だったとしても、今さらその数字を逆にすることなんてできないのに......。
それは、これまでの「会社人生」を断ち切ってほしいからです。「会社人生」はもう終わりで、これからあなた自身の「ホントの人生」が始まるので、その区切りをつけ、「ホントの人生」をより良いものにするために、いったん振り返りをして、あなたの傾向を知っておきましょう――ということです。
もっと分かりやすく言うと、これまでの「会社人生」はリハーサルで、55歳以降が本番、55歳以降がホントの人生ということです。リハーサルは練習試合と同じで、様々な欠点や弱点が表出しますから、それらを修正して本番に臨みましょうという意味合いなのです。
辻堂魁さんの「ホントの人生」は定年後から始まった
リアルな例を紹介しておくと、これはある出版社の社長から直に聞いた話ですが、人気時代劇小説家、辻堂魁さんは60歳で定年退職してから初めて時代劇小説を書いたそうです。そもそも、作家志望だった辻堂さんは同人誌でも芽が出ず、その道を挫折、小さな出版社で定年まで過ごしました。
しかも、時代劇に興味があったわけでも、時代劇のジャンルで勝負しようと思っていたわけでもありません。ただ、時代劇文庫ブームとなり、職業柄、「時代劇小説の書き手不足」「時代劇ドラマの脚本家不足」という事実を知っていただけなのです。
これは辻堂さんの元同僚からの伝聞ですが、決して編集者として仕事ができた人ではなかったそうです。「誰でもいいから時代劇小説を書いて」という業界事情から、定年後の暇に任せて時代劇小説を書き始めたのです。
初めての文庫書き下ろしの発売時、大阪でサイン会が企画され、その記事がたまたま朝日新聞で紹介された結果、ヒットして今日の地位にまで登り詰めたわけです。
どう考えても辻堂魁さんは、定年退職後の人気小説家としての人生が「ホントの人生」で、小さな出版社での「会社人生」はリハーサルだったのではないでしょうか。