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生き方

89歳まで現役...ピアニスト・ルービンシュタインに学ぶ「老後が充実する」秘訣

戸田智弘(作家)

2023年10月02日 公開

 

89歳まで現役ピアニストだったルービンシュタイン

アルトゥール・ルービンシュタイン(1887~1982年)は、ポーランド出身のピアニストである。卓越した技術もさることながら、レパートリーの広さでも抜きんでており、リサイタルではさまざまな曲を弾きこなすことで知られていた。

そんな彼も高齢になるにつれて、若いときと同じレベルで演奏することが難しくなっていった。そこで彼はある戦略を実行した。

まずコンサートで演奏する曲を厳選することにした。曲を絞り込むことによって、若いときよりも一つの曲に時間をかけて繰り返し練習できるようになった。

さらに、彼は若い頃にはしていなかった手法を取り入れることにした。速い手の動きが求められる部分の前の演奏をこれまでよりも遅くすることで演奏にコントラストを生みだし、速い部分をより印象づける手法である。

ルービンシュタインは、80歳を過ぎても素晴らしい演奏活動を続けたことで知られ、89歳まで現役で活躍した。

 

歳をとっても張り合いのある生活を送るには?

紹介した逸話は、SOC理論(Selective Optimization with Compensation:選択最適化補償理論)を説明するための事例としてしばしば使われるものだ。

人は歳をとるにつれて、様々な機能が低下し、若い頃なら難なくできていたことが、だんだんとできなくなっていく。

では、歳を重ねていく中で体力や筋力が衰えても、これまで通り、楽しく有意義な人生を送っていくにはどうしたらいいのだろうか。そこで役に立つのがSOC理論である。簡単に説明していこう。

私たち人間は年齢を問わず、何らかの目標を定め、それに向かって生きている。目標は大きなものから、日常的な小さなものまで様々である。そういう目標が達成できれば嬉しいし、逆に目標が達成できなければ落ち込むことになる。

つまり、張り合いのある毎日を送るには、その人なりの目標を持って、それを達成することが重要なのだ。

目標を達成する一連の過程は、①目標の選択(Selection)、②資源の最適化(Optimization)、③補償(Compensation)、の3つの要素に分けられる。ルービンシュタインの逸話を重ねながら、①目標の選択、②資源の最適化、③補償について説明しよう。

①目標の選択:目標を絞り込んだり、目標を切り替えたりすること。ルービンシュタインの場合は、彼に伴って今まで通りに演奏することが難しくなったため、曲目を減らすという戦略をとった。

②資源の最適化:自分の所有する資源(お金や時間、能力、体力、意欲など)をどのように使えば自分の目標が達成できるかを熟慮すること。ルービンシュタインは厳選した曲(①)を繰り返し練習しつつ、新しい手法(③)の習熟に努めた。

③補償:他者からの支援を受けること、機械や道具を使って心身の機能の衰えを補うこと、これまで試していなかった手法を導入すること。ルービンシュタインの場合はテンポに変化をつけることで速さを際立たせる手法を取り入れた。

若い頃のように動けないことをただ嘆いていても仕方がない。目標を切り替えること、自分の所有する資源の使い方を見直すこと、他者や器具の助けを借りることで、張り合いのある生活を送ることは十分に可能である。

【戸田智弘(とだ・ともひろ)】
1960年愛知県生まれ。北海道大学工学部・法政大学社会学部卒業。著書に『働く理由』『続・働く理由』『新!働く理由』『学び続ける理由』『ものの見方が変わる 座右の寓話』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、『海外リタイア生活術』(平凡社新書)、『就活の手帳』(あさ出版)、『「自分を変える」読書』(三笠書房)、『読めば読むほど知恵が身につく まほうの寓話』(幻冬舎)など。

 

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