東証プライム市場に上場している「ドリームインキュベータ(DI)」は、「ビジネスプロデュース」という事業を行なっている。大企業の次の柱となる、数百億、数千億円規模の新規事業を生み出すというものだ。これを行なう「ビジネスプロデューサー」を延べ数百人も育成してきた中で、DI社長の三宅孝之氏が気づいたことがあるという。
※本記事は三宅孝之著『「共感」×「深掘り」が最強のビジネススキルである』(PHP研究所)の内容を一部抜粋したものです。
「深掘りタイプ」と「共感タイプ」
私たちは、社内で延べ数百人のビジネスプロデューサーを育ててきました。その経験からわかったことは、人によって、大量の資料を調べて分析し、数値化・定量化し、思考を深めるスキルが得意なタイプと、数多くの人たちに会いに行き、話を聞くスキルが得意なタイプがいるということです。
前者のスキルを「深掘り力」と呼び、それが得意なタイプを「深掘りタイプ」、後者のスキルを「共感力」と呼び、それが得意なタイプを「共感タイプ」と呼んでいます。
深掘りタイプは、ある物事をトコトンまで深く掘り下げて調べたり、分析したり、考えたりすることが得意なタイプです。様々な角度から論理的に考えることができ、数字にも強く、何事も自分が納得いくまで粘り強くやり切ることができます。そのため、研究職やコンサルティング職などでその能力を遺憾なく発揮し、活躍している人が数多くいます。
しかし、人付き合いや他人と話すことは苦手です。そのため内にこもりやすく、独りよがりになる傾向があります。また、せっかく深く調べたことを、ポイントを絞ってまとめることができず、他人にわかりやすく伝えるのも不得手です。あらゆる面で作業が遅いという最大の弱点も抱えています。臨機応変に動くのも得意ではありません。
共感タイプは、人の気持ちを察して、仲よくするのが得意なタイプです。人と話すのが上手いので、相手から色々な話を聞き出し、その要点をさっとまとめてアウトプットすることができます。その作業のスピードは速く、内容も割と的を射ています。
学生時代、あなたの周りにも、友達から借りたノートのコピーで勉強して試験を乗り切ってしまう要領のいい人がいたのではないでしょうか。そうしたタイプの人たちのことです。
ただ、物事を調べて深く掘り下げて考えることが苦手なため、思考が浅く、ある程度考えてわからなかったり、やってみてできなかったりすると、飽きて、放置してしまいます。
突き詰めて考えることをしないので、相手の発言に脊髄反射で言葉を返すなど、何事においても拙速になりがちです。他人の発言に左右されやすく、考えがブレやすいという弱点もあります。
深掘りタイプと共感タイプは、コインの裏表の関係です。深掘りタイプが得意なことが、共感タイプは苦手です。逆に、共感タイプが得意なことは、深掘りタイプが苦手なことです。
つまり、深掘りタイプは共感力が弱く、共感タイプは深掘り力が弱いのです。
「Aさんは共感タイプだな」「Bさんは深掘りタイプだ」などと、具体的にイメージできる人が身近にいるのではないでしょうか。
講演で「自分はどちらのタイプだと思いますか?」と聞いて手を挙げてもらうと、だいたい半分ずつに分かれます。商社では共感タイプが少し多く、メーカーでは逆に深掘りタイプが少し多い印象があります。
なぜ得意な能力だけではダメなのか?
ビジネスプロデューサーになるためには、両方の能力を兼ね備えなければなりません。深掘り力と共感力の高次元でのハーモニーが、ビジネスプロデュースを成功に導く一番重要なファクターだと言っても過言ではありません。
また、1プレイヤーからマネジャーへ、さらにトップマネジメントへと昇進していくことを考えるなら、ビジネスプロデューサーでなくても、両方の能力を鍛えることが必要です。
例えばコンサルタント(特に戦略コンサルタント)は、論理的に考えることに長け、調査・分析・定量化することが得意な深掘りタイプが多い印象を持っています。
これらの能力でコンサルティングを行ない、コンサルタントとして深掘り力を日々駆使することで、深掘り力がより鍛え上げられ、どんどん高度化していきます。その結果、コンサルタントとして大成します。
しかし、コンサルタントであっても、チームをマネジメントする立場になれば、メンバーをまとめあげるために、また、顧客と高度なコミュニケーションをとるために、共感力が必要となります。コンサルタント職に限らず、深掘りタイプが、深掘り力だけで、ポジションを上げていくことは難しいでしょう。
深掘りタイプが、共感力を高めることなく、深掘り力のさらなる向上だけに邁進すると、どうなるか。おそらく「職人」と呼ばれるような人になります。職人タイプを目指すのであれば、得意な深掘り力で、得意な専門分野をどんどん究めていくのもいいかもしれません。
一方、共感タイプが、深掘り力を鍛えることなく、共感力のさらなる向上だけに邁進すると、どうなるでしょうか。おそらく「社内政治家」と呼ばれるような人になります。高い共感力を駆使して、社内を上手に泳ぎ回りながら出世していくタイプです。
共感力が高いだけの社内政治家が社内の主要ポストを占めている企業がどうなるかと言えば、まず間違いなく衰退していくでしょう。社内政治ばかりはびこる企業が、画期的な商品やサービスを創出できるはずがありません。
まして、既存の本業が耐用年数を超えてしまっていて、経営の柱となる新規事業創造が喫緊の課題なのだとしたら、共感力だけでできることには限りがありそうです。
深掘り力と共感力をバランスよく鍛え、両方をバランスよく身につけた人が、ポジションを上がっていくのが理想です。ですから、経営者はもちろん、大企業の役員クラスなら、少なからず両方の能力を身につけており、場面場面でタイプを切り替えて、それぞれの能力を発揮しているはずです。