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幼少期に心の傷を負った人が“生きづらさ”を手放す4つの方法

ロバート・ウォールディンガー(ハーバード大学医学大学院教授)、マーク・シュルツ(ハーバード成人発達研究副責任者)

2023年07月24日 公開 2024年12月16日 更新

幼少期に心の傷を負った人が“生きづらさ”を手放す4つの方法

ハーバード大学の84年にわたる「幸福研究」が導き出した、幸せな人生を生きるための条件とは「よい人間関係」だという。わたしたちの多くが一番最初に築く一番身近な人間関係とは親やきょうだいといった「家族」だろう。この研究が示す「家族」の重要性とは?

※本稿は、ロバート・ウォールディンガー、マーク・シュルツ著『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(&books/辰巳出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

家族が人生に及ぼす影響

さまざまな人間関係の中でも、家族は特別だ。良くも悪くも、幼少期や成長期に最も深く関わり、生涯で最も長く付き合うことになる。親は私たちがこの世に生を享けたときに初めて目にする人間だ。私たちを初めて抱き、支え、育ててくれるのも親だ。親密な関係に何を期待するのかについても、親から多くを学ぶ。

兄弟姉妹は、最初に付き合う同世代の人間になり、場にふさわしい振る舞い方や問題になる行動を教えてくれる。親戚との付き合いからは集団とはどんなものかを理解する。

しかし、どんな形の家族でも、家族は単なる集団以上の存在だ。非常にリアルな意味で、自分の人格と切り離すことができないのが家族だ。だからこそ家族関係は非常に重要だ──家族の特徴は私たちのウェルビーイングに甚大な影響を及ぼしうる。

しかし、家族が与える影響の質や規模については、心理学者のあいだで今も議論が続いている。幼少期の家族との経験が人となりを決めるという意見もある。家族の影響は過大評価されており、遺伝子の影響のほうが重要だとする説もある。

人は誰でも自分の家族との長い付き合いを身をもって経験している。だから、家族がどんな存在であるとか、家族が自分の人生をどのくらい左右し、決定づけるのかについては、それぞれ持論がある。

私たちはこうした個人的な経験から、家族(生まれ育った家族と自分が築く家族)にできることとできないことついて、思い込みをもつようになるし、そうした思い込みが往々にしてその人の人間関係のあり方を決定する。

例えば、自分の家族のありようはいつまでも変わらないものだ、関係は揺るぎないものだ、と考えてしまうことがある。また、子ども時代や今の家族との関係を、白黒つけて絶対的に評価してしまう傾向がある。

「私の両親は最悪だった」「子どもの頃はのんびりしていた」「私の家族は無知だった」「義理の家族は押し付けがましい」「私の娘は天使だ」──という具合だ。しかし、家族の絆は本当にずっと変わらないものなのだろうか?

花の形が一つひとつ違うように、家族のあり方も一つひとつ違う。一見、他の家族と似ていても、よく観察すれば唯一無二だとわかるものだ。家族とは、自分が帰るべきあたたかい場所だと思う人もいれば、疎外感、あるいは恐怖を覚える人もいる。

たいていの人にとって、家族は複雑なものだ。この複雑さゆえに家族の研究は難しいのだが、数十年にもわたり数百組の家族を緻密に追跡してきた本研究は、多様な家族のあいだに重なる部分を見出し、家族関係の特徴を決定する共通点を明らかにしてきた点で唯一無二の研究だ。

本稿では、本研究の重要な発見を紹介し、さまざまな「レンズ」、つまり読者のみなさんが自分の家族の特徴を理解するためのさまざまな視点を生み出していく。なぜなら、家族が重要だということ、これこそが、本研究において筆者らが繰り返し見出してきた明らかな真実の1つだからだ。

 

「家族」とは誰のこと?

運命は自分の力で操れる、と思いたいものだ。だが実際には、人はみな、自分を取り巻くさまざまな生態系に組み込まれており、そうした生態系が人を形づくる。経済や文化、サブカルチャーはみな、人の思考や行動、人生の歩みにおいて重要な役割を果たす生態系だ。そして何よりも重要なのが、家族という生態系だ。

しかし、そもそも家族とは何だろう? 家族といえば、たいていの人は「自分の」家族を思い浮かべる。

だが、実の両親や兄弟姉妹、子どもたちで構成される家族もあれば、親の再婚によって生まれた家族もあるし、義理の家族やいとこやまたいとこ、姪や甥を含む大家族である場合もある。あるいは、血縁を超えた大切な絆が家族をつくる場合もある。

家族にはさまざまな形があり、親密さの度合いや距離もそれぞれ違う。家庭のあたたかさに触れられなかった、そばに寄り添ってもらえなかった、虐待された、理解してもらえなかったといった理由から、大人になってからの人間関係に家族のようなぬくもりや支えを求めようとする人もいる。

父親が不在でも、叔父や祖父母、あるいはサッカーのコーチや親友の母親など、家族以外の大人と強い絆を築く人もいる。また、家族とは別の集団に家族のような絆を見出す人もいる。

ニューヨーク市やデトロイトなど米国都市部には「ボール・カルチャー」と呼ばれる文化がある。これは非伝統的家族の典型例だ。LGBTQ+コミュニティのメンバー(多くは黒人やラテン系)は「ハウス」と呼ばれる集団に所属し、「ボール」と呼ばれるパーティーイベントでパフォーマンスを競い合いつつ、生活面でも支え合う。

ハウスは共通の経験や目標、価値観を中心として構成され、メンバーが必要とする家族のような絆をもたらす。一つひとつのハウスは血を分けた家族のように機能し、ハウスの「母親」や「父親」が伝統的家族の親の役割を果たし、ハウスの「子どもたち」の多くは幼い頃に得られなかったポジティブな人間関係や絆を育む。

何より重要な点は、人格の形成に影響を与える親密な集団がさまざまな場所から生まれ、さまざまな人を含み、さまざまな名で呼ばれるという事実だ。誰を家族と見なすかだけではなく、最も親密な関係が人生においてもつ意味も重要だ。

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