離婚を経験し、自信を失った40代女性の心を埋めた“サーフィンへの挑戦”
2023年11月24日 公開
サーフィンに魅了され、挑戦を続けるダイアン。海に入ってすべる感覚を味わいたい、そして、はてしない多幸感と解放感をもっと味わいたい。へたでもなんでも関係ない。
離婚のショックから立ち直りたいわけでも、自分を変えたいわけでもなく、気づけば「もっとやりたい」「うまくなりたい」そんな単純で素直な心の声を拾っていた。
サーフィンを通じて海に救われ、彼女は確実に変わりつつあった。
※本稿は、ダイアン・カードウェル著・満園真木訳、『海に呼ばれて ロッカウェイで"わたし"を生きる』(&books/辰巳出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
数カ月ぶりの海
"やっとあたたかくなってきたので、これから毎週金曜日は海に出る"とロッカウェイのサーフィン・スクールのフランクからメールが届いた。"今度の金曜はずる休みにうってつけの日になりそうだよ"
わあ、それは素敵。そう思い、午前中休んでサーフィンに行けないかと仕事の予定をチェックした。4月の末近くで、そろそろ海に戻りたいとまさに考えはじめたところだった。
この数カ月は感情が激しく揺れ動く日々だった。父が感染症にかかって複数の臓器不全に陥り、年のはじめごろの寒い2週間でゆっくりと死に向かうのを見守った。父が弱っていく姿の記憶が頭から離れず、わたしはそれを洗い流す海水セラピーを切実に求めていた。
ロブとのトレーニングでは確実な進歩が見られ、おかげで膝の心配はほぼ消えていた。ジムを端から端までカニ歩きできるようになり、バランスボードの上でスクワットしながら1分近く安定を保てるようになり、腕立て伏せもバーの高さを目盛りいくつぶんかさげてもできるようになった。
ジムでの成果が海での成果につながるのかたしかめたくてたまらなかったので、金曜日にロッカウェイへ行くチャンスに飛びつき、プライベートレッスンを予約した。幸先のいい週末になりそうだった。
その日の10時少し前、アーヴァーンでA系統の高架駅から通りにおりてみると、前回来たときよりずいぶん雰囲気がよくなっていた。
古ぼけた黒いプラスチックのひさしつきの信号はあいかわらずだったが、駅からすぐのところにスーパーマーケット〈ストップ&ショップ〉の広い郊外型店舗が新しく建ち、海までの道に並ぶ家々では白い柵の向こうに緑が茂りはじめていた。
サーフィン日和
ネズの茂みのなかの砂の道を進み、ささくれた木の階段をのぼってボードウォークにあがると、ビーチにいたスクールの経営者のフランクが駆け寄ってきた。
「やあ、どうも。よく来てくれたね。今日はプライベートレッスンだったよね?」
「ええ。海に入るのが本当に楽しみ!」
「いいね。ボードをとってこなきゃいけないんだけど、きみは先にビーチでスーツを着てて。すぐ行くから」
わたしはビーチにいた数人の生徒にまじってウェットスーツを着はじめた。フランクがメールに書いてきたコンディションの予想は大当たりだった。
晴れていてあたたかく、腿から腰くらいの高さの比較的なめらかな波が立っている。その波をつくりだしているうねりはおもに南東から来ていて、南東を向いた海岸線にまっすぐ向かっている。
西から南西の風が吹いているがさほど強くはなく、波の前面に向かって横から吹きつけているとはいえ、波のフェイスやリップにあたって、サーフィン用語で言うところの面が少しざわついている程度だった。
風が沖から岸に向かって吹いているオンショアの場合、波に後ろから吹きつけて頂点を押しさげ、不明確でとらえにくい波になる。
逆に風がオフショア、つまり波の正面に向かって吹いてくる場合、波が盛りあがってから砕けるまでの時間が長くなり、より切り立って面がなめらかなピークができ、"クリーン"とか"グラッシー"と呼ばれる理想的な状態の波になる。