離婚を経験し、自信を失った40代女性の心を埋めた“サーフィンへの挑戦”
2023年11月24日 公開
波に乗る
波ができる様子をながめていると、海岸線から水平線まで同じように見えるところで、あるときは3つ相次いで盛りあがったり、あるときは急にどこからともなく生まれたりしている。
夜中にインターネットを読みふけり、これが砂州──絶え間なく行ったり来たりする水の動きによって、海底で砂が盛りあがったり寄り集まったりならされたりしてできる山や畝──の場所を反映していて、海面の光景は海底の輪郭線に対応しているということは理解していた。
が、最近出くわした新しいコンセプトはよく理解できずにいた。波が盛りあがってピークに達するときに見えているのは、水の動きではなく、ジャック・ロンドンがかつて"振動の伝わり"と書いたものだというのだ。彼はエネルギーが水と置きかわることなくそのなかを伝わる様子に言及していた。
分子から分子に振動が伝わり、そのエネルギーが浅瀬近くで臨界点に達してついに水をひっくりかえす──位置エネルギーがその最後の瞬間に運動エネルギーに転じるのだという。
"波を構成している水は動かない"と1907年、オアフ島のワイキキでサーフィンを観察し、その後実際にやってみたロンドンは書いている。
"もし動くのなら、池に石を投げこんで、さざ波が外に向かって広がっていくとき、中央には穴ができてそれがどんどん大きくなっていくはずだ。しかしそうならない。波を構成する水は動いていない。したがって、ある特定の範囲の海面を見たとき、そこでは連続する千の波が次々に伝える振動によって、同じ水がその場で千回上下しているのを見ているのである”
わかったようなわからないような。高校で物理や微積分をやらなかったわたしには、ちょっと頭がくらくらする感じがした。
まあどんなしくみかはどうでもいい、乗る波がありさえすれば。わたしは嬉しくてぴょんぴょん飛び跳ねたくなるのをこらえた。頭が変な人と思われたくなかったのと、レッスンのためにエネルギーをとっておかなければいけなかったから。
うまくなりたい
サイモンが11フィートのボードをつかんで軽々と肩にかつぎあげ、わたしをブレイクに案内した。さわやかな潮のにおいを嗅ぎながら冷たいブルーグレーの海に脚を入れると、着ているネオプレーン生地にしみこんできた海水がひやっとしたが、やがてあたたまってきた。
ウェットスーツは一般に、生地の内側に体温であたためられた水の薄い層をつくることで断熱効果を発揮し、スポンジ状のゴム生地に含まれる窒素の細かい気泡が熱が逃げるのを防いでくれる。
何回サーフィンをしたことがあるか(4回だけ!)、どんなところを練習したいか(全部!)など、ふたりで少し話したあと、サイモンが足を止めてボードを岸に向けた。まずわたしがパドリングし、彼が押して何度か試してみたが、うまく立てない。
「ちょっと見させてくれ、ダイアン」次の波が近づいてくると、サイモンがボードの後ろに回りながら言った。わたしはボードが加速するのを感じて、腕で押して起きあがったが、膝立ちにしかなれず、かかとに体重がかかってボードの後ろ側に落ちた。ボードが宙を飛んで着水した。
「それだ! きみの問題がわかったぞ!」サイモンが金を掘りあてたみたいに興奮した叫びをあげた。
「爪先を移動させてないからだよ!」またあの訛りが出てきていた。彼が両手を広げ、こっちに身を乗りだした。
「きみのサーフィンがうまくなる何かが見つからないかと思ってたんだけど、わかったよ! 爪先を移動させるんだ! ポップアップのとき、爪先をノーズのほうに移動させるんだ!!」
ふたたび挑戦してみる。爪先をノーズに移動、爪先をノーズに移動──うまくいった。立ちあがり、黄緑色のデッキの上の黒いゴムに包まれた足を見おろしながら、波に乗る感覚を味わい、ボードが進み続けることに驚いていた。
急に波がくずれ、わたしは暴れ馬から投げだされるみたいに海に落ちた。冷たい海水が鼻に入り、ウェットスーツにも流れこんできた。質がさほどでもないスーツの難点で、あたたまった海水の層がいきなり新しい海水と入れかわった。
「いいじゃない、これで目がさめる!」
浮かびあがり、海水を吐きだしながらひとりごとを言った。アイスクリームを食べたときのように頭がキーンと痛くなったが、それもボードを拾ってサイモンのところに戻るまでには消えた。
そのあとも何回か乗ることはできたものの、半分くらいは立ったときか、波がくずれたときの衝撃でボードから落ちてしまった。体力が切れてきて、少し休憩したいとサイモンに言った。