60代を迎えて体の不調が徐々に出現し、残りの人生を消化試合のように考えている人がいます。しかし、悔いの残らない人生を送るには「やりたいこと」に思いっきり注力することが重要なのです。和田秀樹さんが60歳からの生き方について語ります。
※本稿は、和田秀樹著『60歳からは、「これ」しかやらない』(PHP研究所)より、一部を抜粋・編集したものです。
お金は、使わないほうがもったいない
日本人は昔から、好きなことにお金を使うことを、悪いことのように思う傾向があるようです。きちんと節約して、蓄えに回すことを美徳とする考え方です。若いころならば、それも必要でしょう。自分自身が生活していく資金や、子どもを養っていく資金に備えていかなくてはならないからです。
しかし、60歳を過ぎれば、もうその責任を負う必要はありません。にもかかわらず、高齢者の財布の紐は、必要以上に固いようです。
2023年9月に日銀が発表した「資金循環統計」によると、同年6月末時点での個人金融資産は約2115兆円と、過去最高を記録したそうです。日本人の個人金融資産は年々増えていますが、うち6割を、60歳以上の高齢者が持っていると言われます。
お金は、本当に貯め込むばかりでいいのでしょうか?
60歳を過ぎたら、お金に対する考え方を変えてほしいと思います。お金は、持っているより、使うことに価値があります。頭も体もしっかりしているうちに使わないと、人生を楽しめません。
人生の残り時間は、おそらく向こう数十年。頭と体がしっかりしている時間は何年あるかわかりませんが、限りある時間であることは確かです。その時間を楽しんで、味わって過ごさないほうが、はるかに「もったいない」のではないでしょうか。
貯蓄は1500万円程度あれば十分
高齢者の医療に携わっているとわかることですが、頭と体が動かなくなってからは、使うお金が減ります。寝たきりや認知症になれば移動が難しくなりますから、外に出てお金を使う機会が少なくなるのです。
ですから、体が動くうちにお金を使って、少々資産が減っても問題ありません。
とはいえ、一文無ではさすがに心配でしょう。では、最低限、どれくらい貯めておけばいいのでしょうか。ジャーナリストの荻原博子さんと対談した際に、おっしゃっていた目安を紹介しましょう。
介護を受けている人にかかった費用の総計は、平均約600万円だそうです。とすると、夫婦二人で1200万円あれば大丈夫です。医療費は、高額療養費制度などがあるので、200万円で十分。そこへ、お墓代に100万円を足せば、合計1500万円。だいたいこれくらいの貯蓄があれば、あとは全部使っていいとのことでした。