誰でもコミュニケーションの達人になれる「たった1つの心がけ」
私がお世話になった方の1人に、「コミュニケーションの達人」と思われる人がいる。と言っても、「達人」という言葉から連想されるような年配の方ではなく、私とそう歳は変わらない。
いつも見ていて「なぜ」と思うのだが、彼はすぐに誰とでも友だちになってしまう。しかも、さまざまな話題に非常に精通しており、話題に幅があるので、誰とでも話が盛り上がる。小説、政治、哲学、アニメ、ゲーム、アイドル、音楽、テレビ、あらゆるジャンルだ。
私は「なぜ、彼はこんなにもコミュニケーション能力が高いのか」ということに大きな興味を持った。私は長いこと、「コミュニケーション能力」に関わる研修をさまざまな企業の方に提供してきた。その内容はというと、概ね次のようなものである。
「聴くスキル〜傾聴しよう〜」
「話すスキル〜うまいプレゼンテーションの技術を学ぼう〜」
そして、その研修の中身は、「このような場合にはこのようにすればいい」といったインスタントなスキルで大半が占められていた。
たとえば、「聴くスキル」の研修では、「相手の話が終わるまで話さない」であったり、「相づちを打つ」であったり、要は「今日からすぐ使えるスキル」を教えるのだ。
もちろん、これは「研修を受講する側のニーズ」に基づいた結果、このようなカリキュラムになったのである。なぜならば、概ね企業経営者が欲している研修は、「すぐに効果が出て」「従業員が変わったことがわかりやすい」研修だからだ。
しかし、彼はそのような「スキル」を駆使しているわけではなさそうだった。ビジネススキルの研修なども、「受けたことがない」し、そういったビジネス書についても「あまり読んだことがない」と言う。
そこで私はなんとかして彼の秘密を探りたいと思い、いくつかの会合にともに出席し、あるいはビジネスの場に呼んでもらい、彼がどのようにコミュニケーションをとっているか、調べたのである。
最初は同行しても、その秘密がさっぱりわからなかった。が、いくつかのそういった場を経て、私はある1つのことに気がついた。
彼は、人と会うときは、初対面の人にはとくにそうだったのだが、「その人の趣味や、好きなもの」を必ず聞くのだ。そして、彼はそれについて必ず最後にこう尋ねる。
A :私におすすめはありますか? 何か良いものがあれば、教えてほしいのですが。
もちろん相手は、好きなもの、詳しいことなので、喜んで彼にそれを教えてくれる。彼はそれを余さず聞くのだ。
私は、「なるほど、相手の好きなことを聞くのは、コミュニケーションをとっていくうえでいいことなのだな」と、それに納得した。そして、後日彼に会った。驚いたことに、彼はそのときの会合で教えてもらった作品を「すべて見た」というのだ。私は驚いた。「話を合わせていただけじゃなかった」と。
A :いただいたアドバイス、仕事で試してみました。
A :本、読んでみました。
A :アニメ、見てきました。
A :iPhoneのケース買ってみました。
A :雑誌、買って読みました。
A :サイトを見て、使ってみました。
A :サービスを利用してみました。
A :お店に行ってきました。
彼はよっぽど高額なものや、多くの時間を必要とするもの以外は、「基本的に全部試してみる」というのだ。そして、教えていただいた方に再会すると、それについて感想を伝える。
もちろん良い感想のときも、悪い感想のときもある。が、相手は快く話に応じてくれ、ほとんどの場合、話は盛り上がる。すると、もう友だち同士になっているのだ。
人は自分の好きなことに興味を持ってくれる人が好きである。そして、それについて初心者に教えることはもっと好きである。教えてもらったら、とりあえず試す。その「素直さ」が、コミュニケーションの秘訣ということだ。