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「なんとかなる」の感覚はどうやって身につく? 漠然とした不安の対処法

舟木彩乃(公認心理師)

2023年12月19日 公開 2024年12月16日 更新

「なんとかなる」の感覚はどうやって身につく? 漠然とした不安の対処法

人生のさまざまな場面でやってくるストレスに対して、うまく対応していく力、それが首尾一貫感覚です。

この首尾一貫感覚は、生まれつきの能力(先天的能力)ではなく、育っていく過程で後天的に獲得していく能力です。したがって、自分の努力で後天的に高めることができるとされています。

ここでは、首尾一貫感覚を構成する3つの要素「把握可能感」「処理可能感」「有意味感」のうち、「処理可能感」を高めるレッスンをお伝えしていきたいと思います。

(イラスト:kikii  クリモト)

※本稿は『「なんとかなる」と思えるレッスン 首尾一貫感覚で心に余裕をつくる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を一部抜粋・編集したものです。

 

処理可能感は「なんとかなる」「なんとかできる」という感覚

【「資源」を活用して乗り越える】

ここでは、「処理可能感(Sense of Manageability)」についてお話ししたいと思います。

私がカウンセリングをしていて、打たれ弱い人、ネガティブな思考にとらわれている人、ストレスフルな状況にいる人などは、「なんとかなる」と思える感覚が弱いと感じます。

そして、この「なんとかなる」「なんとかできる」「乗り切ることができる」という感覚を「処理可能感」といいます。

この処理可能感をもっと詳しくいうと、

「自分にふりかかるストレスや障害に対処できるという確信」
「問題を抱えたり、トラブルが起きたりした場合にも、 自分やまわりの助けを借りながら、 乗り切ることができる自信」

などといえます。

なぜ、この処理可能感をもてるのかというと、乗り越える際に必要となる「資源」があるからです。

「資源」には、「人脈」「知力」「経験」「お金」「権力」「地位」などがあります。この「資源」はもっていることも大切ですが、タイムリーに引き出せることが重要です。

 

処理可能感を高めるために大切なこと

仕事の要求度・コントロール度モデル

【小さすぎず大きすぎない負荷】

「処理可能感」を高めるにはどうしたらいいでしょうか。

アントノフスキー博士は、処理可能感を高める「良質な人生経験」として、「過小負荷と過大負荷のバランスがとれた経験」をあげています。

「過小負荷」とは、「心理的にほとんど負荷がない、ストレスを感じない状況」のことです。「過大負荷」は、逆に「過度に大きな負荷を強いられた状況」のことで、本人の能力を超えた仕事量や難しい仕事を指示された場合などがこれに当たります。

つまり、「過小負荷と過大負荷のバランスがとれた経験」とは、がんばれば乗り越えられる程度のバランスのとれたストレス下での経験を指しています。

普通に考えると、ストレスをまったく感じない状態が一番いいように思われますが、処理可能感を高めるには適度な負荷やプレッシャーがあったほうがいいことになります。

職場のストレスモデルとして有名なモデルに「仕事の要求度・コントロール度モデル(Job Demands-Control model)」があります。

これによると、やりがいを保ちつつパフォーマンスを発揮できるのは、「要求度」(上司などから仕事の量や質について期待されていること)と「コントロール度」(期待に応えるために必要な裁量権を与えられていること)の両方が高い状態といわれています。

このような状態のもとで仕事をクリアしていくことが良質な人生経験となって、次にもっと難易度が高い仕事がきても「なんとかなる」(処理可能感)と思えるようになり、より大きな仕事、困難な出来事にも対処できるようになります。

つまり、適度な課題を与えられてクリアしていくことによる「成功体験」が、処理可能感を高めることに大きくかかわっているのです。

したがって重圧に耐えかねるような仕事で、結局うまくいかなかったりしたら、処理可能感を培うことにはつながりにくいといえます。

「なんとかなった」経験があるから、次も「なんとかなる」と思えるのです。

一方で、「資料のコピーを100枚、15時までに」などのようなストレスのほとんどない仕事で成功しても、これもまた処理可能感を育みにくいといえます。

大きすぎず、小さすぎないストレスのかかった仕事を経験し、うまくいくことによって育まれるのが処理可能感です。

 

【「できた体験」から培われる】

この「成功体験」は、人に助けてもらった結果でもかまいません。あるいは、座学で学んだ疑似体験であったり、人に教えてもらったりしたものでもいいのです。

例えば、一人で仕事を抱え込んでしまって終わりが見えず、「どうしよう」とパニックになっていた社員Kさんのケースです。

上司から「あの仕事は、今日が締め切りでしたよね。どうなっていますか?」と聞かれて、Kさんは「実は、ほとんどできてません......」と答え、泣きつきます。

ここで上司は、「そうか、じゃあみんなで手伝って仕上げようか」と言って、他の社員に仕事をふったり、締め切りを数日遅らせたりして、テキパキと指示を出します。

数日後、仕事は、同僚や先輩に手伝ってもらいながら、無事に終わりました。

たしかにKさんは、自分ひとりでは仕事が終わらず迷惑をかけてしまいましたが、みんなで無事に終わらせたことで「成功体験」「できた経験」になっています。

結果、Kさんは、「早めに他の人に助けを求めること」「わからないことは人にきくこと」「必要なときは上司の力を借りること」などを学んでいきます。こうした体験からも、「こうすれば、次もできる」といった「なんとかなる」感は培われていくのです。

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著者紹介

舟木彩乃(ふなき・あやの)

ストレスマネジメント専門家、公認心理師、株式会社メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長

一般企業の人事部で働きながらカウンセラーに転身、その後、病院(精神科・心療内科)などの勤務と並行して筑波大学大学院に入学し、2020年に博士課程を修了。博士論文の研究テーマは「国会議員秘書のストレスに関する研究」。
これまで一般企業や中央官庁、自治体などのメンタルヘルス対策や研修に携わり、カウンセラーとしての相談人数は、のべ約1万人以上。ストレスフルな職業とされる議員秘書のストレスに関する研究で知った「首尾一貫感覚(別名:ストレス対処力)」に有用性を感じ、カウンセリングにとり入れている。
Yahoo!ニュース エキスパート オーサ-として「職場の心理学」をテーマにした記事、コメントを発信中。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館)、近著に『過酷な環境でもなお「強い心」を保てた人たちに学ぶ「首尾一貫感覚」で逆境に強い自分をつくる方法 』(河出書房新社)がある。

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