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再生工事をすれば何十年と住める? 安心して“古民家暮らし”を始める方法

松井英子(一級建築士)

2024年02月08日 公開

再生工事をすれば何十年と住める? 安心して“古民家暮らし”を始める方法

古民家で暮らすために必要なお金や手続きは? 施工の実例とあわせて、一級建築士の松井英子さんにお話を伺いました。

(取材協力:認定NPO法人日本民家再生協会)
(取材・構成・文:クリエイティブ・スイート)

※本稿は、月刊誌『PHPくらしラク~る♪』2024年2月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。

【松井英子(まつい・えいこ)】
一級建築士・松井建築研究所副代表、認定NPO法人日本民家再生協会相談員。一級建築士として古民家再生の相談、設計、建築に取り組む。長き時を人々の生活と共に生き抜いてきた民家の力強さ、よさを現代に生かしつつ、耐震診断、耐震補強に力を入れた民家再生を行なっている。

 

古民家を探すことが、最初の一歩になる

古くて木組みのあたたかみのある古民家での暮らしって憧れますよね。でも、古民家での生活は田舎暮らしとセットというイメージはありませんか? 

田舎で生活をしたいなら問題はないと思いますが、田舎に住みたいとは思わないな、という人もいるはず。じつは伝統工法(木組み)でつくられた、古民家は好きな土地に移築することもできるんです。

土地や建物をもっていない場合は、誰かからゆずり受ける必要があります。古民家を「ゆずりたい」人と「ゆずり受けたい」人をつなぐサイトを利用しましょう。日本民家再生協会でも「※民家バンク」というページで、いろいろな地方の古民家が紹介され、引き取り手を探しています。

※民家バンクHP https://minka.or.jp/minkabank

 

必要な工事と時間は「建物の状態次第」

一般的には、日本の伝統工法(木組み)でつくられた家を、古民家と呼んでいます。昔の建物は、襖などの建具を取ると全部の部屋がつながるつくりになっています。広々と使うことができますが、耐震性のある壁が少なく、耐震工事が必要です。

ほかにも、基礎の補強工事や寒さ対策などの工事が必要ですが、しっかりとした再生工事を行なえば、何十年と快適に生活できます。そのためにどんな工事が必要か、入念な事前調査が必須です。

また、伝統的な工法を取り入れる場合は、特別な構造計算や手続きが必要となり、より時間とお金がかかります。古民家は再生方法により苦労する点は変わりますので、どんな家に住みたいのかよく考えることが一番大切です。詳しくは後半で解説します。

 

古民家再生はこうして進める

古民家には設計図などの基礎資料がないことが多いため調査に時間がかかることも。一般的な引き渡しの目安は、相談を含めておよそ1年ですが、古民家の規模や工法によって期間は大きく変わります。ここでは大まかな再生の流れをご紹介します。

1. 調査期間

古民家が決まったら専門家に相談して、調査・企画業務契約を結びます。建物の用途、規模、予算、敷地の諸条件など、いろいろな角度から調査・検討をしてもらい、現状の図面を作成してもらいます。

さらに、どのように使うかの希望を簡単な計画案にしてもらい、その概算予算計画書が作成されます。期間は1~1.5カ月くらいが目安です。

2. 基本設計・実施設計期間

調査・企画内容がよければ設計・監理契約を設計者と結び、基本設計に入ります。具体的な要望を打ち合わせして、図面に反映。基本設計図書が作成されます。次に、施工に必要な詳細図面が作成され、実施設計図書として提出されます。期間は3~4カ月が目安です。この完成設計図書で、数社の施工会社に見積もりをしてもらいます。

3. 工事期間

提出された見積書を検討、1社を選び、工事請負契約を結んで工事がはじまります。設計者は設計図書通りに工事が行なわれているかを監理し、その都度、建築主に報告します。工事期間は、短くて4カ月、普通は6~8カ月かかり、1年以上かかる場合もよくあります。相談から完成まで、1~1.5年はかかると見ておいたほうがいいでしょう。

\Key Word/

・現地再生
現地再生は古民家がある場所で再生、修繕工事する再生方法です。移住や商業施設としての利用などさまざまなケースがあります。たまに、ほとんど手を入れなくてもいい民家もありますが、大抵は調査、修理などが必要です。

・移築再生
移築再生は建物のみを引き取り、解体し新しい場所に移す再生方法です。土地は新たに探す必要があります。現地再生より時間がかかることが多々ありますが、比較的自由に減築、増築ができます。

・古材利用
古材、建具などを現在の家に利用し、古民家の雰囲気を演出する再生方法。店舗やマンションでもインテリアとして利用できます。

 

古民家再生の実例を見てみよう!

再生する古民家の規模が大きければ工事費も高くなります。なかには1億円になるケースも。今回紹介するのはあくまで一例で、再生する際に規模を小さくすることで金額を抑えることもできます。古民家の状態によっては少しの手直しで済む場合もありますよ。

【Case1】
場所:茨城県
工事費:3,400万円(税別)
工事期間:約8カ月

築約100年の古民家を現地再生しました。建築主は30代のご夫婦。2人の息子さんと4人暮らしです。壁が少ないという古民家の特徴を活かし、家族が集まれる大きな部屋や、部屋を見渡せるキッチンなどを設置。外観は古民家のよさを活かすため、建築当初の姿に戻すことに。増築された箇所を撤去して、耐震性を高める工事を行ないました。

【Case2】
場所:宮城県
工事費:2,400万円(税別)
工事期間:約5カ月

建築主は仙台市にお住まいでしたが、退職後に田舎暮らしを望まれ、相談時には移転先の土地を入手されていました。たまたま別の市に、古い倉庫を解体する人がいたため、解体費用を負担し、古材を無償でゆずり受けることに。

柱などの傷みが激しいものは新材と交換し、古色仕上げを施して、古材との風合いのバランスを損なわないように移築再生しました。

【Case3】
場所:宮城県
工事費:2,200万円(税別)
工事期間:約5カ月

秋田県にあった築100年以上の蔵を宮城県に移築再生しました。2階建ての蔵で、1階部分は居住空間でしたが、2階は貯蔵空間で、人の住める環境ではありませんでした。耐震性や暖房設備など、現代技術を取り入れ、住居として再生。玄関も蔵の扉をそのまま利用するなど、古材のよさを活かした設計で、エコを感じられる家になりました。

【Case4】
場所:埼玉県
工事費:4,000万円(税別)
工事期間:約7カ月

山形県で17代続いた旧商家の文庫蔵の解体部材をゆずり受けて、埼玉県に移築再生しました。1階をフレンチレストラン、2階をギャラリースペースにしています。懐かしさを感じられるレストランでの食事や、屋根を支える大きな梁を間近で見られるギャラリーでの作品展や落語会を通して、地域活性化の拠点となっています。

古民家再生の事例は『民家再生の実例 全国事例50選』(2009年発行)、『よみがえる蔵 全国再生事例44選』(2012年発行)〈いずれも日本民家再生協会編〉より引用。工事費などは当時のもの。

 

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