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日本人が握ると値段が変わる...寿司職人が驚いた「海外のSUSHI店事情」

小川洋利(寿司職人)

2024年05月24日 公開 2024年05月24日 更新

日本人が握ると値段が変わる...寿司職人が驚いた「海外のSUSHI店事情」

寿司職人の小川洋利さんは、日本のすし文化を全世界に広めるため、世界50カ国以上にわたって、すし指導員として外国人シェフに調理指導をされています。そんな小川さんが驚いた「海外のスシ店事情」とは?

※本稿は、小川洋利著『寿司サムライが行く! トップ寿司職人が世界を回り歩いて見てきた』(キーステージ21)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

欧米人には区別がつかないアジア人

私は、アメリカ、ヨーロッパ、南米、アジアなど、世界50か国ぐらいに行っていますが、寿司店のカウンターの裏にいる調理人は中東系・アフリカ系の方たちが働いていて、表のカウンターはほとんどアジア系の方だったりします。

最初は人種差別かなと考えたりしたのですが、オーナーが言うには、アジア系の人が握るとお金が取れるらしいのです。だからわざと立たせていると......。

ヨーロッパに行くと、調理場には中東系・アフリカ系の人、接客は、現地の人々、カウンターに
いる人たちはアジア系という店が多い。とくに多いのは中国人とタイ人。

タイ人はとても仕事に対して真面目だし、手先が器用。オーナーとしてはよく働くのでうれしい限りなのです。しかも、私たちから見れば日本人じゃないとわかりますが、欧米の人たちから見ると、まったく区別がつかないらしいのです。

ネームプレートには「鈴木」など日本人の名前が書いてありますが、話しかけると日本語がわからないという職人もいます。日本人に似た人たちが、白衣をピシッとつけると、日本人が寿司を握っているように見えます。日本の寿司を日本人が作っていると思うと、お客様の反応がちがいます。

私たちがフランス料理を食べに行っても同じように、フランス人がフランス料理を作っていると、イメージ的にやはりポイントが高いですよね。中国人が中華料理を作っていたり、インド人がカレーを作っていたりすると、なんだか本格的だなと感じます。

海外の寿司店でも同じで、寿司店のカウンターで日本人に似たアジア人が握ることによって、お客様が安心して注文してくださるのです。

実際は中国人だったり、タイ人や韓国人が握っています。海外で働いている日本人の寿司職人は実際にはそこまで多くないのです。海外で活躍している日本の職人もいますが、本当にごく一部で、実際に働いているのは、日本に出稼ぎで来て修行経験のあるアジア人だったりします。

 

貧富の差が影響する海外の寿司店事情

昔は職人というと、学がない人や、生活環境があまりよくない人が多い職業でした。どちらかというと、中学卒業後すぐに職人の世界に入る人が多く、家庭の事情があったり、住み込みで入門したりというのが、昔のイメージでした。

今から25~6年前に私が寿司屋に修行に入ったときには、先輩の寿司職人のなかには入れ墨が入っている人もいました。それだけ昔の職人には、よいイメージがありませんでした。

それが最近だんだん変わってきて、今でいうと、寿司職人というよりも「寿司シェフ」というイメージになってきました。最近では料理人がテレビでも活躍する時代になり、マイナスイメージがうすれ、「私、料理人が好きなの」なんていう若者も増えてきました。

とくにすごい国はフランスなのですが、この国には昔ながらのフランス料理という食文化があって、フランスのシェフは職業としてすごく地位が高いのです。周囲からとてもリスペクトされています。

中国も食文化があるので、料理人にそんなにひどいイメージはありません。でも、食文化がなかったり、そこまで自分の国の食文化が進んでいない国では、料理人というのは誰でもなれる仕事、というイメージを持たれているようです。

アメリカでは、表に出る接客は、現地の人たちがサービスしています。でも実際に調理場に入ると、スペイン語が飛び交っていたりします。みんな南米、メキシコとかウルグアイ、ベネズエラなどから出稼ぎに来ている人たちです。そういう人たちは、安く働く労働力です。

では、南米のほうに行くとどうかというと、さらに貧しい人たちが調理場で働いています。家がなかったり、スラム街に住む人たちです。給料を聞くと口に出せないくらい低賃金で働いている。

でも彼らは、食べていけるから料理人になる。私がよく目にしたのは、お客様が残した料理をビニール袋に詰めて持って帰る光景です。そして、家族にそれを食べさせる。要は食べられれば生きていけるという感覚です。

それはもう、やるせない気持ちになります。自分の国やヨーロッパでは職人として、ちゃんとした職業として働けるのに、海外に行くと、「料理人は貧しい人がやる仕事」というイメージがあって、料理人に対する扱いがひどいのです。

このような国では、料理人は朝から長い時間ずっと働かされています。海外ではウェイターやウェイトレスのほうが、職としては料理人よりも上です。チップをもらえるし、お客様と直接の接客があり、プロ意識がある。

フランスでは、接客も料理人も、両方ともそれなりに地位がありますが、食文化がない国は、接客するほうが直接お客様と接するので、立派な職業になります。料理人はチップがもらえない店もあり、給料も安い。

でもまあ、まかないを食べられるから命はつながるというのが、私としては心苦しいというか......。料理人の地位があまりにも低い。そう思ったのが、私が海外で寿司の指導を始めるきっかけでした。

料理人はお客様を幸せにしてナンボだと思います。お客様においしかったとよろこんでもらってナンボ。お客様を幸せにできる料理人を育てていけば、私一人が直接お客様に料理を提供するよりも、もっともっと多くのお客様をよろこばせることができます。

このことが私のこれからの人生のやりがいだと強く感じました。私の使命である「料理人を幸せにできる料理人になりたい」という思いがここで強くなっていったのです。

私は寿司職人ですので、いろいろな国でせめて寿司職人の地位を上げたい、という目標でやっています。

日本はすごくよい環境にあります。若いときにコツコツお金を貯めて、保証協会や公庫などをうまく使えば、自分で店を持てるという夢を持つことができます。

海外では、貧富の差が非常に激しくて、料理人がオーナーシェフというのが、まずない。店を出すってすごいことなのです。一般の人がお金を貯めて出せるような額ではなくて、だいたいみんなシェアオーナーがメインです。何人かのお金持ちが集まって、店を経営するというパターンが多い。

海外の料理人はプロ野球選手と同じで、人気があって仕事ができる料理人を、オーナーがお金を出して雇うのですが、ほかの店の料理人が有名になったら、さらに高い給料を払ってトレードしてくる。だから料理人は移動が多いのです。腕があれば給料が上がって、どんどんよいポジションに行ける。

それを私も海外で働いてわかったので、とにかく彼らの技術向上を応援するために、年に一回「ワールド・スシ・カップ」を東京で開催しています。それによって、その人たちが一番下のランクのキッチンハンドから、料理長クラスに上がっていくことで、給料も上がっていく。そんなふうに私の中では今、世界中の料理人の技術向上を目指しています。料理人の幸せを、今、このようなかたちで目指しています。

 

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