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生き方

いつも不安で憂鬱な人は「頭が良すぎる」から...気持ちを楽にする「脳の使い方」

枡田智(森林療法士・マインドフルネス瞑想指導者)

2024年06月26日 公開 2024年12月16日 更新

いつも不安で憂鬱な人は「頭が良すぎる」から...気持ちを楽にする「脳の使い方」

不安で憂うつ、イライラ、頑張ってもなぜか空回りばかり――。誰もが忙しい日々を送る中で、「生きづらさ」や「メンタルの悩み」を抱えている人は多いと思います。自身もそんな悩みに長年苦しんできたという枡田智さんは、メンタルが不安定になる原因は「左脳と右脳の使い方」が関係していると指摘します。

※本稿は枡田智著『瞑想メソッドで始めるメンタル強化法 もう“左脳”に振り回されない』(大和出版)より、一部を抜粋編集したものです。

※左脳・右脳の特徴については、ジル・ボルト・テイラー博士の『奇跡の脳』の内容がベースになっています。

 

思考が苦しさを生み、感覚が安らぎを生み出す

私たちの頭の中はいつも「思考」でいっぱいです。たまの休日も、休み明けにやらなければならないことが頭の中を巡り、そのせいでウツウツ、イライラ。俗に言う「サザエさん症候群」のようになると、うれしい、楽しい、美味しいといったポジティブな「感覚」がどんどん抑え込まれてしまいます。

なぜ、こうしたことが起こるのか。そこには「左脳」と「右脳」の働きが関係しています。

物事を論理的に整理し、言語化し、理解する。こうした論理的思考は、主に左脳が担当しています。新しい知識や技術を学んで、それらを仕事や生活に活用していく。様々な情報をもとに計画を立てたり、段取りを決めたりする。変化し続ける社会の中でより良く生きていくためには、左脳の働きがとても重要になります。

かたや右脳は、感覚的な処理を担当しています。すばらしい景色を見て美しさを感じたり、心に響く音楽を聴いて感動したり、大好きな人と過ごして安らぎや幸せを感じたりする。言葉で論理的に説明できないような感覚を処理しているのが右脳です。

「思考(左脳)」が優位になると、ウツウツ、イライラが積み重なっていく。
「感覚(右脳)」が優位になると、安らぎを覚えたり、幸せを感じたりする。

このように捉えると、「左脳は苦しみを生む」「右脳は安らぎを生む」と考えることができるのではないでしょうか。

仕事や生活を行っていく上で、思考をゼロにすることはできません。特に、論理的思考は仕事のスキルに直結しているため、「もっと論理的思考力を高めなければ!」と思っているビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。

メンタルの悩みを抱えている人が着目すべきなのは、崩れてしまっている「思考と感覚のバランス」です。実はそれが「生きづらさ」を生み出している原因なのです。

逆に言えば、そのバランスを修正できれば、「生きづらさ」から脱出できるというわけです。

 

「生きづらさ」の原因は、人間の頭がよすぎるから?

現代人の生きづらさの原因の多くは、「思考が強すぎること」にあります。思考が強すぎて、それにガチガチにとらわれてしまっているのです。

なぜ、思考が強すぎると苦しくなるのか。そこには「動物の本能」が関係しています。

動物は身に危険が迫ると、不安や恐怖、怒りなどを感じて、「逃げるか、戦うか」どちらかの反応をします。これは「逃走・闘争反応」と呼ばれる本能的なものです。そして、恐怖や怒りを感じると、心拍が速くなって呼吸が荒くなり、体は緊張して戦闘態勢に入る。これは、逃げるか戦うかの準備をしているのです。

私たち人間が感じる不安や恐怖、怒り、それによる様々な反応も、すべては本能的に起こるものなのです。

しかし、人間と動物が違うのは「人間は頭がよすぎる」という点です。人間はその賢い頭を使って、まだ起きていない未来の危険を予測したり、起こりうる出来事にネガティブな意味づけをしたりします。

例えば、「今度赴任してくる上司は、どうやら厳しい人らしい」といった噂を耳にしたとします。実際に赴任してきたわけでもなく、怒られたわけでもないのに、「仕事の進め方にダメ出しされないだろうか」「ミスをしたらこっぴどく怒られるかもしれない」などと、ネガティブな未来を考えただけで不安や恐怖を感じてしまう。

厄介なことに、このような不安や恐怖はなかなか解消できません。「目の前にはない不安や恐怖の対象」には、対応しようがないからです。

人間は頭がよすぎるからこそ、過剰に予測や意味づけをしてしまいます。頭の中の思考が強ければ強いほど、予測や意味づけも強くなり、感じる不安や恐怖も強くなってしまうのです。

 

「思考と感覚のバランス」の整え方

それでは、「思考と感覚のバランス」はどのように整えればいいのでしょうか。
ポイントは、強すぎる「思考(左脳)」を静めて、「感覚(右脳)」を目覚めさせることです。

例えば、自然に囲まれた山道を一人で登っている様子を想像してみてください。澄んだ空気の中、聞こえるのは風の音と鳥のさえずりだけ。周りには誰も人がおらず、さらに進んでいくと、立ち込める霧の先に深い緑の森が広がっている。

そんな時は、まるで自分が森にやさしく包まれて、溶け込んでいくような感覚になるはずです。「自分と世界がひとつになっている感覚」と言い換えられるかもしれません。

あるいは、美術館を訪れて美しい絵を眺めていたら、思わず見入ってしまい、あっという間に数時間が経っていた。そんな経験をしたという人もいるのではないでしょうか。まるで自分の周りだけ時間がゆっくりと流れている、もしくは「頭から時間の流れが消えたような感覚」になっているのかもしれません。

このように、人が自然や芸術にふれ、その美しさを深く感じている時、おそらく思考は静まり、感覚優位になっているはずです。それは、左脳(思考)が静まり、右脳(感覚)が活性化している状態と言えます。

強すぎる「思考(左脳)」を静めて、「感覚(右脳)」を目覚めさせるためには、とにかく頭を空っぽにして、なるべく思考は使わず、五感を総動員し、感覚で自分の周りにあるもの全てを感じる。

こうしたことを続けていると、少しずつ自分の周りにあるものの「見え方」が変化していきます。
葉っぱや木の表面の質感、道端に咲く花の色の鮮やかさ、風のにおい、空の青さ、太陽の輝き。すべてが生々しく、美しく、生き生きとしたものに感じられるようになるはずです。

苦しみから逃れる方法を考えるほど、私たちはますます思考を強くしていきます。論理的思考力を高めていけば、この苦しみから抜け出せるはずだ、と。しかし、思考を使った努力は、自分を苦しめている殻をさらに硬く、頑丈にするだけで、ますます苦しさから抜け出せなくなってしまいます。

それならば、一旦思考することから離れて、感覚だけに身を委ねてみてはどうでしょうか。今まで自分を覆っていたモノクロの硬い殻が割れ、急に視界が開けて、目の前にカラフルでリアルな世界が現れたような感覚になった時、私たちの左脳(思考)は静まり、右脳(感覚)が活性化している状態になるのです。

著者紹介

枡田智(ますだ・あきら)

森林療法士・マインドフルネス瞑想指導者

上智大学大学院で物理学と情報工学を学ぶ。修了後、大手メーカーで新規技術の開発に従事し、特許を多数取得。その一方で、長年メンタル不調に悩まされていたが、本書で述べるあるきっかけから、たった3日で不調から脱出。
その後、森林療法を学ぶとともに、アメリカで著名なマインドフルネス瞑想の指導者に師事し、数年間かけて、瞑想の理論、実践、指導方法を修得し、独立。これまで1000名以上に瞑想を指導。
元理系研究者のスキルを活かし、わかりにくい瞑想をクリアに図解・言語化し、「とにかくわかりやすい」「あいまいさがなく明快」「他講座でわからなかったことがすんなりとわかる」と高い評価を受けている。

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