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なぜ隙のある人は信頼される? 「相手を惹きつける人」の言葉選び

下間都代子(声・話し方の総合プロデューサー)

2024年07月10日 公開

なぜ隙のある人は信頼される? 「相手を惹きつける人」の言葉選び

職場や取引先、初対面の相手と良好な人間関係を築くには、どんなことに注意する必要があるでしょうか。アナウンサーの下間都代子さんは、相手に信頼されるには「言葉遣い」が重要だと語ります。本稿では、敬語の使い方や、質問の仕方など、信頼される人になるための具体的なテクニックを紹介します。

※本稿は、下間都代子著『「この人なら!」と秒で信頼される声と話し方」(日本実業出版社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

言葉遣いで丁寧な関係を構築する

【敬語の持つ信頼感】

上司と部下、友人や家族など、相手によって言葉遣いが変わることは、社会人であればご存知だろう。とはいえ、その正しい使い方、特に「敬語」については、年齢問わず理解できていない人が結構いる。

私がテレビを見ていて気になっている言葉遣いがこれ。

「いただいてみてください」

例えば、司会者がゲストに対して、名物のお菓子の味見をしてもらうときに言うひと言である。何がおかしいかわかるだろうか?

「いただく」は、謙譲語であり、ゲスト自身が「ではいただきます」と言うならわかる。それを、司会者がゲストに対して言うのはおかしい。本来は尊敬語「お召し上がりください」または丁寧語「お食べください」これが正しい使い方である。

双方ともに敬語の使い方を理解していないなら問題ないだろうが、片方は理解していて、片方は理解できていないとなると問題である。敬語の使い方ができていないことで、相手に対する「信頼感」が薄れることもあるかもしれない。完璧でなくとも「知らないより知っているほうが良い」「できないよりできるほうが良い」。これが私の考え方だ。

友人や家族など親しい関係においては、必ずしも敬語を使う必要はないので、ここでは「知り合い」「取引先」「職場」「初対面」の相手であることを前提に説明する。

このような相手と話すときは、基本的に、相手が年上であろうが年下であろうが、「丁寧語」を使うのが良い。丁寧語の代表は文末の「です」「ます」と、名詞の上につく「お」(「ご」の場合もある)と、動詞の上につく「お」などがある。

なかでも「信頼」されるためにぜひ使いこなしたいのが「動詞の敬語」である。特に本稿では、関係性を深めるための質問力を重要視しているので、【質問するときの敬語】をいくつかご紹介しよう。

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●質問するときの丁寧語と尊敬語

【丁寧語】       【尊敬語】

知っていますか?   ご存じでいらっしゃいますか?
好きですか?       お好きでいらっしゃいますか?
持っていますか?   お持ちでいらっしゃいますか?
気に入りましたか?  お気に召していただけましたか?
どう思いますか?   どのようにお考えになりますか?
どうでしょうか?   いかがでしょうか?
理解できましたか?  ご理解いただけましたでしょうか?

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このように、質問をするとき、相手に応じて丁寧語、尊敬語を使い分けることで、「自分はこの人に丁寧に扱われている」という印象を与えることができる。それは心地良いものであり、安心感にも繋がるので、「信頼」に直結しやすくなる。

また、【相槌を打つときに、ぜひ使ってもらいたい敬語】があるので紹介しておく。

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●相槌を打つときの丁寧語と尊敬語

【丁寧語】       【尊敬語】

そのとおりです    おっしゃるとおりです

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である。私にとって、この「おっしゃるとおりです」という言葉は日常的に使っているのだが、
あまり馴染みがない、または使い慣れていない人も多いようだ。

ある日、夢実現プロデューサーでベストセラー作家の山﨑拓巳さんにイタンビューしていたときのこと、私が「おっしゃるとおりですね!」と言うと、「わあ、素敵な言葉」と言われた。

自分にとっては当たり前のように使っているし、ビジネスシーンではお馴染みなので意外に思ったが、拓巳さんからすると違ったようだ。確かに、敬語はビジネスマナーとして扱われるが、日常の話し言葉の中でもスマートに使えることによって、ある種、【品格】を醸かもしだすのかもしれない。この品格についても、「信頼」に大きく結び付く考え方があるので続けてご紹介する。

 

信頼される人のバランス感覚

先ほど述べたとおり、敬語を使える人には【品格】を感じる。言葉遣いだけでなく、「芯のある声」や、「丁寧な話し方」、例えば、相手に応じて話すテンポを変えてあげたり、絶妙な相槌を入れたりなど、これができるだけでも【品】を感じさせることができる。

声にはその人の「人柄」が現れ、話し方には「人間性」が現れる。そこに【品】のあるなしも感じられる。手前味噌ではあるが、私がナレーションをすると「作品の格が上がる」と言っていただけることがよくある。それは、声の分析をしてもらった結果と繋がるのだが、私の声が、人間にとって聴きやすい周波数であることと、倍音(声の膨らみや厚み)が多いことに由来すると考えられる。

ただ、「この人なら」と信じてついていきたくなる人は、「完璧なまでに品が良い人」なのか? というと、必ずしもそうではないと思う。「信頼される人の共通点」には次のようなものがあった。

裏表がない・感情が豊か・正直・素直・バランス感覚がある・ユーモアがある・愛がある・隙がある・明るい・好かれようと思っていない

この中の「裏表がない」という特徴について考えてみよう。

「裏表がない」ということは、「正直」とも言える。正直に意見を言う分、人から嫌われることもあるだろう。「好かれようと思っていない」という特徴にも繋がってくる。誰に対しても丁寧で品格の高い人ではあるが、誰からも好かれようとは思っていない。一種相反するイメージでありながら、この絶妙なバランス感覚を持っている人に、人は信頼感を覚えると言える。

 

毒は毒でも少しだけ

ここで注目したいのが「少しの毒」というキーワードである。

毒草の「ベラドンナ」は大量に摂取すると意識障害を引き起こし、幻覚や痙攣を起こすが、解毒剤としての効能も持っており、風邪薬に配合されている。また、あの猛毒の「トリカブト」も命を奪う危険があるものの、根っこの部分を使って作られた漢方薬は夜間の頻尿に効くそうだ。

では、人間性においての「毒」はというと、コミュニケーション上、有害となり、ときには人間関係を壊してしまう猛毒となることがあるので注意が必要だ。

しかし、先ほどの毒草と同じで、「毒」の出し方、見せ方によっては、「効能」もある。その人の「魅力」ともなり得る。

例えば、「ただ可愛いだけ」のアイドルよりも、「ほんの少しの毒」となるユーモアやウイットのある発言をするアイドルのほうが人気が高く、芸能人として長続きする。今のメディアでは、「華やかで、品があり、少しの毒がある」、この3つがバランスよく備わった人物が求められている。

同じように、「信頼される人」も、誰にでも意見を合わせる八方美人よりも、相手の意見に対して、時には違う意見をはっきりと言ったり、時に少し毒っ気のあるウィットに富んだ発言をするなど、場の空気をピリリとさせる人のほうが信頼される。

さらに、その際、正しいことを真っ向から主張するのではなく、相手の逃げ道を確保してあげた上で、ユーモアを交えながら意見を伝えることができると、「少しの毒」におさえられ、コミュニケーション上での「薬」として効果的に使える。

 

隙のある人は信頼される

「完璧なまでに品の良い人」よりも、何かしら失敗経験があったり、抜けているところがあったりするほうが、かえって親近感を与え、「信頼」に繋がることがある。これは、「少しの毒」というより「少しの隙」と言うほうがふさわしいかもしれない。

このように、ユーモアに繋がるような「隙」をどこかしらに持っている人は、周りから愛される。そして、「いじられる」ことで、周囲が意見を言いやすい空気感を出す。

ある一面では非常に「信頼」できるものの、違うある一面では「ちょっと頼りない」ことによって、「この人のために自分が協力してあげたい」と思う。

ここで大事なのが、そう思ってもらったときに、その人に「任せられるかどうか」である。「信頼される人の共通点」の中に、「隙がある」があったことを思いだして欲しい。完ぺきすぎると近寄りがたく、隙があるからこそ、親近感が湧き安心して任せたいと思える。

あなたはいかにも「私は完璧」という雰囲気を出している上司に対して、意見を言いやすいだろうか。「きっと聞いてもらえない」と感じてしまい、何も言えなくなってしまうだろう。

一方、少し隙がありながらも「信頼」できる上司には、意見を受け入れてくれる器の大きさを感じ、自分の考えが間違いであったとしても一度は伝えてみようという勇気を持つことができるだろう。

「話すことは聞くこと」。これができなければ「信頼」には至らない。裏表がないこと、ユーモアがあること、隙があることなど、それを完全な「毒」ではなく、「ほんの少しの毒」にとどめることが大切だ。

裏表がないからといって、本音を言いすぎれば「猛毒」となり、相手を傷つけることがある。ユーモアの域を越えれば「ハラスメント」になる。隙も度がすぎれば単なる「馬鹿」となる。このようなバランス感覚を持ち合わせているかどうかも、信頼される要素だろう。

さて、ここまで紹介してきたこれらの「毒」だが、実は、「声」と「話し方」のスキルによって、「ほんの少しの毒」に和らげることができる。

「華と品と毒」そのすべてをバランス良く備えた人は魅力的であり、それは「声を操るナレーターにも同じことが言える」と、日本のナレータープロダクショントップの株式会社べルベットオフィス代表取締役である義村透さんは言う。

さらに、「声の華」は、明るさ・艶・張り「声と話し方の品」は、爽やかさ・丁寧さ・柔らかさであるというのが義村さんの見解だ。

つまり、話す内容に毒があっても、この「声の華」と「声と話し方の品」があれば、「ほんの少しの毒」に変わる。不思議なことに、明るさや爽やかさ、柔らかさのある「声」と「話し方」のおかげで「猛毒」が「ほんの少しの毒」に変わるではないか。男女問わず試して欲しい。

「凡人ですね」

TBSのテレビ番組『プレバト!』の「俳句コーナー」の先生として辛しん辣らつなコメントが
人気の俳人、夏井いつきさんのズバリ言う発言を聴いていると、スカッとする。

いつきさんの「凡人ですね」のひと言は、ともすれば「毒」のある言葉だが、にこやかな表情で明るく、ハリのある声で言われると笑いに変わる。知的で着物姿がかっこいいだけではなく、そこには品を感じさせるため、少々きつい言葉にも愛のある正直さが伝わるのだと思う。

「毒」が強すぎれば下品になる。同じ「毒」でも、「少しの毒」を絶妙な分量で絶妙なタイミングで使えるバランス感覚を持っている人が信頼される人となる。

 

著者紹介

下間都代子(しもつま・とよこ)

声・話し方の総合プロデューサー,アナウンサー

元FM802 アナウンサー。現在フリーのアナウンサー、ナレーターとしてテレビの報道情報番組やCMほか声の仕事で多方面に活動。また話し方、コミュニケーション、発声の講座や個人コンサルの講師としても活躍中。阪急電鉄の車内放送、京阪電車の駅構内放送などで関西では特に著名。指導歴としては声優・ナレーター養成所やタレントプロダクション、NHK文化センターなどで、ボイストレーニングや話し方、ナレーションの講師を歴任。30年以上3000名を超える指導経験を持つ。また、より朗読の神髄を極めるためナレーター槇大輔氏のもとで10年に渡り学び、朗読や朗読劇などの舞台に出演。

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