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生き続ける「ヤマトは我なり」のDNA

瀬戸薫(ヤマトホールディングス会長)

2012年08月29日 公開 2022年12月01日 更新

※本稿は、『PHP Business Review 松下幸之助塾』2012年9・10月号 Vol.7 』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

昨年3月の大地震発生からの数日間、各地の被災地には、無償で働くクロネコヤマトの社員たちの姿があった。宮城県気仙沼市や岩手県釜石市では、社員が市に申し出て救援物資の分類・管理や、避難所を回る配送ルートの作成を担い、社用車を使ったボランティア配送まで行なっていた。

情報が寸断されていたこの時期、これらの活動は、本社はもちろん支社にも上司にも相談されることなく現場の判断でなされていた。

そして数日後、会社は社員の自主的な活動を追いかける形で「救援物資輸送協力隊」を発足させ、全社的な救援活動へと結びついていく。
社員たちを自主的な活動へと動かしたのは、「ヤマトは我なり」のDNAだった——。
(取材・構成 加賀谷貢樹 / 写真 永井浩)

 

[創業理念の継承]“現場重視”が自然な伝播・浸透を後押しする

一、ヤマトは我なり
一、運送行為は委託者の意思の延長と知るべし
一、思想を堅実に礼節を重んずべし

1931(昭和6)年以来の歴史を持つ「社訓」の3カ条が、ヤマトグループの基本である。

この「社訓」をもとに「経営理念」「企業姿勢」「社員行動指針」を具体的に明文化したのは1995(平成7)年のことで、それから17年がたつ。

「社訓」は、企業が存在するおおもとの根本である。また「経営理念」は会社の運営上の原則であり、同時に、われわれが社会に対してどんな役割を果たしていくのかを規定する。その意味で、「経営理念」は「社訓」を補完するものだと私は理解している。

「社訓」の最初に記されている「ヤマトは我なり」とは、「自分自身=ヤマト」という意識を持ちなさいということを意味し、経験を踏めば踏むほど、味わいの出てくる言葉だ。

特に当グループの場合、セールスドライバーが車で外出して1人になったとき、何を行動の規範にすればいいのか迷うことがある。だが「自分自身=ヤマト」であり、自分がこの地区でヤマトを代表する存在だということが分かっていれば、どうすればお客様に喜んでもらえるのか、そのためにどんな行動を取るべきか、おのずと答えが出てくるはずだ。

社員たちは、日々の仕事のさまざまな場面で、「『ヤマトは我なり』とは、こんなことを言っているのか」と感じているのではないかと思う。

あの東日本大震災のときも、気仙沼市で働く社員が同市と直談判し、震災3日後の3月14日には、救援物資の管理と避難所への配送支援を自主的に始めていた。

各被災地のセンター(営業所)と連絡が取れるようになったあと、ヤマトホールディングス本社は現地のそうした動きを追認し、全国からグループの応援を含めた車両200台、スタッフ500名で構成される「救援物資輸送協力隊」を組織し、被災地の復旧活動をバックアップした。

これは、なにも特別なことではない。私もそれが普通のことだと思っている。だが、特に今回は社員たちの自主的な動きを目の当たりにして、「ヤマトは我なり」のDNAが、確かに生き続けていることを実感した。

 

代々受け継いできた「サービス第一」の精神

私は間近で直接薫陶を受けてきたのでよく知っているが、小倉昌男元会長(創業者小倉康臣氏の長男で2代目社長。宅急便を開発した)は俳句が上手で、「社訓」を短いキーワードで自分なりの言葉に置き換え、皆にメッセージを発信するのが上手だった。

小倉さんがよく話していたのは、基本的に「サービス第一」と「全員経営」の2つである。たとえば小倉さんは、全国の支店やセンターなど現場での会議のときに、利益があがったとか、あがっていないとかいうことを、一度も言ったことがない。

もちろん本社での会議は別だが、現場での会議では「どうすればサービスを向上できるか」の一本で行く。「全員経営」と言ったら、とにかく全員経営を社内に浸透させる。

生活道路を活動の場としているヤマトグループにとって、「安全」「人命尊重」は義務であると同時に、広い意味でのサービスであり、小倉さんも特に重視していた。そのキーワードは「安全第一、営業第二」。

比較対象としての「第二」を明示することで、何が「第一」であるかを一目瞭然にする。それが、小倉さんの理念の伝え方だった。

また「良い循環」が小倉さんの得意の論法で、「良いサービスを提供すればお客様に喜んでいただける。お客様に喜んでいただければ荷物が増え、荷物が増えると、エリア当たりの荷物の個数が増えて密度化が進む。密度化が進むと生産性が上昇し、自然に利益が出るから、とにかく良いサービスを提供することだ」と現場には言っていた。

その一方で、本社の幹部に対しては「やり方が悪いから利益が出ないんだ」と厳しい言葉も厭わなかった。われわれが今やっていることも、基本的にはその延長である。

私が最近グループ内でよく話しているのは「世のため人のため」という言葉であり、これが意思決定の基準になっている。われわれが直接荷物を届ける「エンドユーザーの立場に立って物事を考えよ」ということも、かなり口を酸っぱくして話している。言葉は違っても、「サービス第一」という基本的な姿勢は変わっていない。

こうした理念をグループ内に浸透させるため、私なりに気を配っているのは、目的をはっきり伝えることである。

たとえば「セールスドライバーが朝早くセンターを出られるように集配改革をしよう」と言うとき、「それは、エンドユーザーへのサービスが第一だから」と、必ず目的を話す。

ちなみに当グループには、宅急便の料金をお支払いいただくクライアントと、われわれが荷物をお届けするエンドユーザーという両方のお客様がいる。

その中で、センター発でエンドユーザーの立場に立ったソリューションモデルをつくり、それをクライアントに提案する「センターソリューション」という取り組みを進めているところだ。

あくまで現場発の提案によって、エンドユーザーとクライアントの双方にメリットが生じることが先であり、どうすれば当グループにも利益が出てくるかを考えるのは、そのあとのこと。

まさに、小倉さんが遺した「サービスが先、利益は後」という言葉がすべてである。

 

 瀬戸薫(せと・かおる)

ヤマトホールディングス会長
1947年生まれ。’70年中央大学法学部卒業後、大和運輸 (現ヤマトホールディングス)入社。北九州主管支店長、営業推進部宅急便課長、人事部労務課長、中国支社長等を経て、’99年取締役関西支社長に就任。取締役人事部長、常務執行役員を経て、2006年ヤマトホールディングス代表取締役社長。’11年より現職(ヤマト運輸取締役を兼務)。

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