AFTER AI時代に「求められる人材」とは? 身につけておきたい3つのスキル
2024年09月25日 公開
テクノロジーの進化は私たちの生活を豊かにすると同時に、社会構造や働き方にも大きな影響を与えています。特に、AIの登場は、ビジネスのあり方や求められる人材像を大きく変えつつあります。この記事では、AI時代に求められる能力の変化について、書籍『AIが答えを出せない 問いの設定力』より解説します。
※本稿は、鳥潟幸志著『AIが答えを出せない 問いの設定力』(クロスメディア・パブリッシング)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
時代の変遷に合わせて、変化が求められる能力
人類が誕生してから現代に至るまで、「思考・創造性」は一貫して人間が持つ特別な能力と思われてきました。それが、テクノロジーの急速な発展によりごく単純な思考作業を皮切りに、少しずつ代替される可能性が見えてきました。
この技術トレンドの前後で、私たちに求められる能力にはどのような変化があるのでしょうか? BEFORE AI(後期)からAFTER AIにかけて、必要な能力がどのように変化するのかを表した図を参照してください。
図の左側に示されている内容からみていきます。まず、BEFORE AI(後期)については、コンピュータとインターネットが普及した後の2000年代以降をイメージいただきたいと思います。
この時代には、スマートフォン、SNS、動画共有サービスなど新しいテクノロジーを土台に便利なサービスが数多く誕生しました。その過程で多くのスタートアップが日本でも生まれることになり、私たちの日常生活も一変しましたが、私たちが普段使うサービスの多くを生み出したのは日本企業ではなく米国を中心としたグローバル企業です。
一方で、日本のGDPの多くは、依然として大企業を中心に生み出されています。そしてそれらの大企業は、1980年代以降に成長した製造業や通信業、金融業などを母体とする企業です。これらのビジネスで重要な要素は、製品・サービスの「品質」や効率的なオペレーション構築による「コスト削減」にあります。そのため、多くの大企業が中央集権的でオペレーションを重視した形で組織を運営しています。
現在、イノベーションの重要性が叫ばれ、さらに人的資本開示の流れもあり、多くの企業が組織のあり方を変化させようと努力をされていますが、その変革の道のりは長く続くと言えるでしょう。
これとは対照的に、多くのイノベーションを生み出し、柔軟に変化し続けている組織はこれまでと異なるパラダイムで組織運営を行い、そこで活躍する人材も新しい能力を身につけ、アップデートをし続けています。ここからは、ビジネスパーソン個人の能力に焦点を当てながら、BEFORE AI/AFTER AIの求められる能力の変化をみていきたいと思います。
「正解の発見力」から、「問いの設定力」へ
以前の事業環境では、組織や上司が設定した課題や目的を正確かつスピーディに解決することが重視され評価されてきました。営業目標を達成する、業務処理をミスなく遂行する、コスト削減をする、お客様からの質問に正確に回答するなど、日常に溢れる作業の多くには"正解"が存在し、そこにいち早く辿り着ける人がエリートとされてきました。
それは、私たちの幼少期からの教育システムも同様です。テストには必ず1つの正解があり、その正解を正確にスピーディに導ける人が"優秀"とされ、良い学校へ進学し、良い就職先に入社することができるという具合でした。それは、大量生産・大量消費時代のビジネス環境には最適な教育システムだったのかもしれません。
しかし、現在のように変化が激しく、そもそも唯一の正解が存在しない、もしくは課題を正しく特定することすら難しい状況では、誰かに与えられた課題を解決するだけの能力は、指示待ち人間として評価が下がっていくだけではなく、その解決能力そのものがキカイに代替されてしまうリスクがあります。
そのため、正解を発見し解決する能力に加えて求められてくるのが、そもそも何を解決するべきなのか? 何を理想とするべきなのか? といった、問いを自ら設定する能力です。
適切なタイミングで、適切な順番で、適切な問いを設定し、思考を促し行動できる人材が、これからの社会では求められると考えられます。
「判断を仰ぐ力」から「決める力」へ
次に意思決定にかかわる内容をみてみましょう。創業社長や個人事業主以外の、組織に所属するほとんどの社会人には、上司が存在するでしょう。当人と上司の関係にもよりますが、与えられた権限の範囲内で仕事をこなし、それを超える範囲については上司に報告・相談して物事を進めることが一般的です。なぜならば、経験や知識も豊富な上司の方が、物事を適切に判断できるとされてきたからです。
この時に、情報を適切に収集し、選択肢を示し、上司に判断を仰ぐ力がとても大切になります。組織規模が大きな組織でマネジャー職にある方にとって、現場の情報を正しく把握することは非常に困難です。そのため、自分が現場に降りるのと同時に、部下が報告する情報に頼る必要があります。
その際に、「緊急度・重要度」が高い情報を適切に取捨選択し提供する部下は、とても頼りになるものです。そして、そのような能力を持つ部下は上司に評価され、より上のポジションに引き上げられていくこともあります。
部下から上司へ組織の課題を相談する際に、部下本人の意見を加えて相談することもありますが、それでも最終的な判断はあくまで組織の上司が行うことが一般的でした。しかし、変化の激しい現在の社会においては、あらゆることを上司に相談し指示を仰ぐだけでは、対応スピードが遅くなり、結果として成果を出すことが難しくなってきています。
仕事の進め方に「PDCA」というサイクルがあります。長期的な見通しがあり、計画通りに進めることが重要な職場では、とても有効なフレームワークです。一方で、環境変化の早い業界では、P(計画)を練っている間に状況が変化してしまい、D(実行)の意味がなくなってしまいます。
刻々と状況が変わるシーンの意思決定のあり方について、OODA(ウーダ)という考え方があります。米空軍のパイロット、ジョン・ボイド氏が提唱したとされるこのモデルでは、Observation(観察)、Orientation(状況判断)、Decision(意思決定)、Action(行動)のサイクルを回すことの重要性が提唱されています。
まさに前線にいる人が観察して、状況判断し、意思決定し、自分の責任の元で行動する。このような動き方が、これからの時代には求められてくるのではないでしょうか。
一方で、これまで上司や組織に判断を仰いでいた人にとって、「自分で決める」ということは難しいものです。これまで見てきた通り、生成AIを活用することで複数の選択肢や"もっともらしい"回答を瞬時に得ることが可能になります。
しかし、その内容を取捨選択し判断するのは、あくまで私たち人間です。