『もしドラ』で初心に立ち返れ
仕事である程度ベテランになると、基本がおろそかになったり、初心を忘れて真摯さを失ったりすることがあります。そのようなときに読みたい本が、≪3≫ 『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』です。ご存知のとおり、ドラッカーの経営思想を女子高生の視点から、誰にでも理解できる平易な言葉でまとめた本です。
この本の元となる 『マネジメント』は、20年ほど前に書かれた本ですが、ビジネス環境がこれだけ変化した現代においてこそ必要な経営の基本や、コミュニケーションの重要性などが真正面から論じられた、まさに経営の教科書といえます。
書かれていることはごく当たり前のことですが、「少しくらい守らなくても許されるかな」といった甘えを積み重ねた結果、本来やるべきことができない組織があまりにも増えてしまったように感じます。これからの時代をリードしていく人たちこそ、ドラッカーの経営基本に立ち返ってほしいと思います。
その意味で、若い人には『マネジメント』を一読していただきたいものですが、経営についてわかったような気になってしまっている40代以上の方には、ドラッカーにもう一度真正面から向き合う本として、あえて『もしドラ』をお勧めします。
『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』
岩崎夏海著
ダイヤモンド社/1,680円
ビジネスへの真摯さを取り戻す
ドラッカーの『マネジメント』を野球部のマネジメントに生かしていく女子マネージャーの話。夏野氏は、20代には本家『マネジメント』を勧めるが、中間管理職や経営者には、初心に立ち返る意味であえて『もしドラ』を読むことを勧める。「私が『マネジメント』を読んだのは学生のころです。当時は、『なんて当たり前のことが書いてあるんだろう』と思いました。しかし、後にビジネスでいろんな会社に関わるなかで再読してみると、ドラッカーの説く『ビジネスへの真摯さ』が心にしみました。『もしドラ』もそういう効果があります」
自分自身を俯瞰して健全な心を取り戻す
ビジネスの世界に浸かっていると、どうやって稼ごうかとか、どうすれば人間関係がうまくいくかとか、下世話なことばかり考えがちです(笑)。
そんな現実世界から少し離れて、客観的に自分を見つめ直したいときに読み返すのが、≪4≫ 『心の社会』です。人の心や精神はどのように成り立っているのか、自分とは何かという科学的で根本的な問いに対して考え方を示唆する本です。しかも、エッセイ風に書かれているので、専門的な知識がなくても気軽に読めます。
こういうことを時折考えることは、大事なことだと私は思っています。たとえば「嫉妬という感情はどこから生まれてくるのか」などと思いを巡らすと、人間の精神がいかに複雑にできているかに驚き、生きていること自体が奇跡に思えてきて、仕事での悩みなどちっぽけに思えてくるのです。
人間社会や生物社会のなかの自分の存在について、ちょっと考えてみるきっかけになる本です。本書にかぎらず、読書が物事を深く考えるきっかけを与えてくれることは多いと思います。
『心の社会』
マーヴイン・ミンスキー著 安西祐一郎訳
産業図書/4,515円
自分を客観的にみつめ直す
人間の心は「こうだからこう反応する」といった単純な関係性で説明されるものではない。この複雑きわまりないシステムに革命的な考え方を提示したのが本書だ。エッセイ風に書かれていて読みやすいのも特徴。「この心の動きはなぜ起こるのだろう、などと人間の精神の複雑性に想いをはせると、目の前の仕事の悩みがちっぽけなものに感じます。現実世界から少し離れ、自分を客観的に見つめ直すきっかけを与えてくれます」
恋愛小説や漫画も参考になる!
「ビジネスマンこそ小説を読むべき」という夏野氏。「企業小説だけでなく、SFや恋愛小説からも学ぶことが多い」という。夏野氏は以前、林真理子氏と会う機会があり、化粧品業界で働く女性を主人公にした林氏の著作『コスメティック』を読んだ。
「それまであまり恋愛小説を読んだことがなかったのですが、読んでみたら面白くて驚きました。赤裸々に表現された女性心理に「なるほどjと思ったのももちろんですが、化粧品業界のことが詳しく書かれているので、化粧品業界の小説としても楽しめました」(夏野氏)。
漫画も数多く読んだそうだ。勧めてくれたのは、報道現場を描いた『ラストニュース』(猪瀬直樹原作/弘兼憲史画)と、政治家が主人公の『加治隆介の議』(弘兼憲史)。
「ポイントは、人物描写ですね。人間描写が短絡的だと、感惰移入できず話に入り込めません。漫画でも小説でも、主人公になったつもりで読むのが面白いんです。