読売テレビ解説員の岩田公雄は、気になることがあれば、手元のメモに書き残していくという。メモすることによって、知識の引き出しが増えるため会話が膨らみやすくなると語る。
※本稿は、『30秒で人を動かす話し方』(PHP新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
琴線の触れあいは“情報の引き出し”がある人に訪れる
相手と琴線を触れあいたいから、著作がある方と会うときには、最低でも執筆された本を読むといいましたが、これは相手との共通項を探すプロセスでもあるのです。相手との共通項が多ければ、話に広がりが生まれるので、会話が弾みます。会話が弾めば、話題の深掘りもできるからです。
私はふだんからそうした材料をストックしておくために、仕事に関するものは当然ですが、趣味で読んだ本や雑誌、新聞(ちなみに新聞は読売、日経、朝日、毎日、産経ほか数紙に毎日、目を通します)から印象に残った箇所、大事だと感じられた部分があれば、その部分に線を引いたり、ワードを抜き出してメモもしています。
家の中には書斎だけでなく、リビングルームにもメモ用紙が置いてあって、気がついたらペンをもちます。
こうして私はできる限り教養や知識を補強しょうと心がけてきました。
これは、情報が洪水のように溢れている中で、情報を整理分析し、何が自分にとって重要なポイントなのかを把握する判断力を磨くために行なっています。
会話する対象を十分に理解・認識しなければ、的確なコメントは述べることは不可能ですし、対象事例を自分で理解できなくては、コメントして相手に伝えることができません。
生半可な理解と言葉では、話すことが空疎になり、相手の心に響かない。会話はしていても、印象に残らなければ人間関係をそれ以上、深めていくことはむずかしくなります。1回、会っただけでその縁はあとには続きません。
それでも、私はほかの人に比べて有利な点があって、歴史に残るような大きな出来事を記者という立場から現場に出かけ、取材してくることができました。ですから、環境的に対象事例についての情報量は多いほうだと思います。
たとえば、アメリカの2001年の 9・11テロ、北朝鮮の金日成80歳祝賀行事のライブ中継、中国では1989年の天安門事件、アフリカの1994年のザイール・ルワンダ取材でのツチ族大虐殺など(くわしくは、テレビで言えなかったニュースの裏側!』(学習研究社)を見てください)……に出かけているので、その分、目で見て耳で聞き、鼻でにおいを嗅いだ強みから、持論の展開はほかの人よりも容易かもしれません。
しかし、私のような体験をしていないビジネスパーソンでも、人と話をしたときに印象に残った話やワードを自分の引き出しの中にストックする習慣づけをしておけば、対象事例について語れるようになります。
同業者の中でも、現場経験が少なくても、情報整理能力にたけていることで、大活躍している人たちはたくさんいます。独自の視点でこうした引き出しをつくり、そこにワードを入れていく地道な作業を続けている結果だと思います。
ということで、あなたがどれぐらい引き出しをもっているのか簡単なテストをしてみましょう。
第1問、国連の加盟国はどれぐらいあるか知っていますか。
答えは、193カ国(2012年1月1日現在)です。2011年11月に南スーダンが加盟してこの数になりました。
第2問、日本のGDPは世界何位でしょうか。
2011年2月に内閣府は、2010年の名目国内総生産を発表しましたが、5兆4,742億ドルとなり、中国の名目GDP5兆8,786億ドルを下回りました。43年ぶりに2位から3位に転落しました。ちなみに1位はアメリカ、2位は中国です。
どうでしょう? 答えられましたか。
このほかに、EUの加盟国とか、日本の借金などは、ビジネスパーソンであれば、最低限ストックしておきたいものです。
芸術、文化、スポーツなどもいいかもしれません。幅広い年齢層や性別を問わず、会話をする相手と心を響き合わせる会話まで広げていくには、いい話材です。
1つか2つは、得意な分野をつくり、ワードをたくさんストックしておきたいものです。
私は、18代目中村勘三郎さんが、勘九郎の時代からのファンです。歌舞伎のことや勘三郎さんのことはたぶん、ちょっとしたファンの方より語れます。そんな私が勘三郎さんに会ったときに選んだワードが、
「ベビーギャングのころからのファンなんです」
という内容。とても喜んでもらえました。子役時代からやんちゃで知られた勘三郎さんは、出演した映画からこんなふうに呼ばれていたことを知っていました。私は、いまもこうした一面をのぞかせるときもありながらも、梨園のリーダーの1人として活躍しているところが大好きです。
もし、梨園の情報を集めていきたいなら、歌舞伎鑑賞に出かけたときに、パンフレットを読んでみるとか、いまはインターネットでも、簡単に調べられるので思い立ったときに、こまめにメモします。そこからはじめるのでもいいと思います。
スポーツの引き出しでいえば、私は野球が好きなので、多少は情報がストックされていると思います。プロ野球解説者であり、タレントでもある坂東英二さんとはじめて会ったときのことです。初対面の挨拶の後に、
「なんといっても板東村椿の記録映画は何度も見て、興奮しました」
と、私が話したらとても喜んでくれて、すっかり打ち解けてしまいました。板東さんからは私と9歳、歳の差があるので、
「岩田さんと随分と年が違うのにねぇ」
と、驚かれたのですが、野球少年だったことから高校野球の名勝負にはくわしいのです。
ちなみに、板東村椿とは、1958年の甲子園、準々決勝で徳島商業・板東英二さんと魚津高校・村椿輝雄さんの投手戦のこと。
壮絶な投げ合いになり、板東さんは18回まで投げ、25の三振を奪ったのですが、相手チームの村椿投手の軟投も打たれることなく、引き分けのまま翌日、再試合をした伝説の試合のことです。徳島商業が勝ち、次にコマを進めたのでした。
そんな野球から食生活のことまでの話は発展し、当時は日本全体が貧しくて、弁当の中身が、毎日、かぼちゃ2切れだけの子どもが平気でいたという昔話にしばし花が咲いたのです。
こんな私も、最近、若い人たちに人気のAKB48の話やメイドカフェの話になると、からきしついていけないのですが、これではいけないと最低限の知識はストックするようにしています。
迎合するつもりはありませんが、「団塊の世代だからいまの若者のことはいい」というのでは、世代を超えた関係で、いい会話はできないと自分にいい聞かせてもいます。
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