1. PHPオンライン
  2. 仕事
  3. 今でいうカスハラを「相手との関係構築のきっかけ」に変えた1つの対応法

仕事

今でいうカスハラを「相手との関係構築のきっかけ」に変えた1つの対応法

林健太郎(合同会社ナンバーツーエグゼクティブ・コーチ)

2024年11月28日 公開

今でいうカスハラを「相手との関係構築のきっかけ」に変えた1つの対応法

人とトラブルになったはずなのに、なぜかそれをきっかけに受注につなげたり、自分のファンを増やしてしまったりする人がいます。そんな「できる人」は、なにを意識しているのでしょうか?

プロのコーチとして、これまでに2万人以上のリーダーを対象にコーチングやリーダーシップの指導をしてきた林健太郎さんは「ピンチの場面にこそ、その人の個性や人となりがあらわれる」といいます。書籍『「ごめんなさい」の練習』より解説します。

※本稿は、林健太郎著『「ごめんなさい」の練習』(PHP研究所)から一部抜粋・編集したものです。

 

危機への対応に「個性」「人となり」が出る

「ごめんなさい」の伝え方がうまくなると、仕事の強力な武器になります。ピンチの場面でこそ、その人の真価が問われるからです。別の言葉でいえば、「個性」「人となり」が出るといえます。

やるべき仕事を滞りなくおわらせるという通常運転の範囲内では、その人らしさはほとんど表に出ることはありません。あるいは、成果が出た場合も、そこでわかるのは優秀さであって、その人の個性や人となりではありません。

一方で、なにかミスやトラブルがあった場合は、どうでしょうか。危機への対応には、その人の個性や人となりが、はっきりと出るものです。そして、そのあとの相手との関係性が大きく変わっていく可能性があります。

対応が悪ければマイナス100点ですが、よければプラス100点になることもある。その場合、トラブルがなかったことになるどころか、信頼や好意を得られるチャンスになります。

つまり、ピンチのときこそ、相手と深い関係を結べる可能性があるのです。

 

わざと非常事態をつくる人

今では、ほとんど見かけなくなりましたが、かつては、相手との関係を深めるために「わざと非常事態をつくる人」がいました。

私が20歳のころ、母が経営する印刷所で営業をしていたときのことです。お客様から「おい、注文と違うぞ! どうしてくれるんだ!」などと、怒りの電話がしょっちゅうかかってきました。

正直、そういった電話のほとんどは、言いがかりのようなものでした。「指定した色と違うじゃないか!」と言われて、内心「うーん、同じだけどな......」。

とはいえ、そこで「それは誤差の範囲内ですよ。間違いじゃありません」などと言ってしまうと即アウト! 得意先を1つ失うことになります。

逆に、「うわぁ! ごめんなさい。本当に違いますねぇ」と言えば、「しょうがねえな! 今回は大目に見てやるよ」となるわけです。そのひと言が、「合格。これからもよろしく」というサインです。

面倒くさいですよね(笑)。今なら「カスタマーハラスメント」と言われそうな話です。

ですが、その気持ちもわからないわけではありません。これは私の経験を元にした見解ですが、印刷物のクオリティーは、どこの業者に頼んでも似たり寄ったりで、ほとんど差が出ないと思っています。それならば、好感の持てる個性や人となりを持つ人間と仕事がしたいと思うのが人情でしょう。

令和の世では、ここまで露骨なやりとりはないかもしれませんが、たとえ時代が変わっても「この人と仕事をしたいかどうか」の基準に、個性や人となりは、とても大きな要素でありつづけるでしょう。

 

ピンチをチャンスに変えた母の「ごめんなさい」

また、別のときには、こんなこともありました。ある日、私はお得意先の名刺を断裁していて、少しだけ「台形」にゆがんでしまったことがありました。

お客様に納品をするときに、私はこう言い訳してお渡ししました。「断裁機には誤差が生じることがありまして......」。すると、お客様はカンカンに。「社長を呼べ!」と怒声が飛びました。

そこで登場した社長(母親)の対応はというと......。

「あら〜、たしかに曲がってる。ごめんなさい! でも、珍しいんじゃない? こんな台形の名刺を持っている人いないですよ」

「これはお客様がさらに怒るぞ......」

びくびくしながら横で聞いていると、お客様は「それもそうだな。ガハハ。おもしろいから、だれかに渡してみよう! いいネタをありがとう」と笑っているではないですか!

当時の私は「えっ、本当にこれでいいの!?」とびっくりしましたが、今ならわかります。母は「ごめんなさい」の技術を使って、ピンチをチャンスに変えたのだと。そう、「ごめんなさい」には、状況をひっくり返す力があるのです。

 

著者紹介

林健太郎(はやし・けんたろう)

合同会社ナンバーツーエグゼクティブ・コーチ

2万人以上を指導したコーチ。リーダー育成家。合同会社ナンバーツーエグゼクティブ・コーチ。一般社団法人国際コーチ連盟日本支部(当時)創設者。1973年、東京都生まれ。バンダイ、NTTコミュニケーションズなどに勤務後、エグゼクティブ・コーチングの草分け的存在であるアンソニー・クルカス氏との出会いを機に、プロコーチを目指してアメリカで経験を積む。帰国後、2010年にコーチとして独立。2016年には、フィリップ・モリス社の依頼で、管理職200人以上に対するコーチング研修を実施。これまでに日本を代表する大手企業や外資系企業、ベンチャー企業、家族経営の会社などで、2万人以上のリーダーを対象にコーチングやリーダーシップの指導を行なう。『否定しない習慣』『子どもを否定しない習慣』(ともにフォレスト出版)など著書多数。

関連記事

アクセスランキングRanking

前のスライド 次のスライド
×