「教え上手な人」が自然に意識している3つの視点
2025年01月09日 公開
大人を相手に教えるって難しいですよね。大人は子どもと違って、経験があり、自分なりの考えを持っています。多様な背景を持つ大人に対して、教えた経験もない、技術も知らない「素人」がいきなり教える立場に立つ。
これが、大人相手に教える際に感じる難しさの原因です。だとすれば、「大人に対する正しい教え方」を知っておくことで、その難しさが解消されるかもしれません。
新人や後輩を教える立場になった先輩社員に対して、豊富な研修実績を持つ関根雅泰さんの書籍『改訂新版 オトナ相手の教え方』より教え方の本質を紹介します。
※本稿は、関根雅泰著『改訂新版 オトナ相手の教え方』(クロスメディア・パブリッシング)を一部抜粋・編集したものです。
まず「教えることの本質」を押さえておく
教える立場に立った時、誰もが最初につまずくのは、「教え方も教わったことがないのに、教える立場になってしまった」ということでしょう。教える技術も分からなければ、教える姿勢もわからない。
そもそも、「教える」って何なのでしょうか。
確かに、教え方には様々な方法があるかと思いますが、ここでは2つの本質――「相手の立場に立つ」「学習の手助け」を取り上げ、その2つを中心に教えることについて話していきたいと思います。
一見すると、たいしたことないように見えるかもしれませんが、この「教えることの本質」を押さえておくと、大人相手に教えることが楽になります。
教え上手な人は「相手本位」
「教える」とは、「自分」と「相手」という2人の間で行われる行為です。当たり前ですが、自分1人であれば教えるという行為は発生しません。そこに「相手」がいるから、教えるという行為が生まれます。ここに教えることの本質、「相手の立場に立つ」という考え方が隠れています。この本質を忘れるといわゆる「教え下手」になってしまいます。
・物腰が柔らかい
・説明が丁寧
・ポイントが明確
・こちらの気持ちを分かってくれる
・何が分かっていないかを把握した上で教えてくれる
・こちらの話も聞いてくれる......etc.
これまで私が関わってきた企業研修では、大半の参加者が「教え上手」の特徴を挙げることができました。つまり、人は人生のどこかで「教え上手」と出会ってきているということが分かります。この「教え上手」は、いざ私たちが教える立場になった時のモデルとなってくれます。共通して「教え上手」には、相手と同じ目線から物事を考えようとする姿勢が見られます。
自分と同じレベルで相手を見ない
それでもついついやってしまうのが、「こんなことぐらい分かるだろう、知っているだろう、できるだろう」という思い込みです。いわば「自分と同じレベルで相手を見てしまう」という状況です。
ある程度仕事ができるようになり、教える側に立つと、つい忘れてしまうのが、自分が「できなかった頃の状態」です。
私たちも仕事初心者の頃は、知識も技術も経験もなく、不安だった状態があります。その状態を経て、今の立場にいるわけですが、自分ができるようになってしまうと「できなかった頃の状態」を想像しにくくなるのです。大切なのは、目の前にいる相手の立場に立って考えるということです。
「言葉」「文字」「行動」で相手を知る
「どのくらいの知識があるのか」「どのくらいの技術を持っているのか」――「相手の立場に立つ」ためには、相手と自分との違いを知る必要があります。それは、自分と相手は違うということを認めた上で、相手の立場に立つ「努力」をするということです。
違う人間なのですから、本当の意味で「相手の立場に立つ」のは難しいでしょう。ただ、その努力はできます。相手がどんな人なのか、どんなことを考えているのか、現状の知識、技術はどのくらいなのか、どう教えれば相手にとって伝わりやすいのか、どうすれば相手の学習を手助けできるのかなどと考えることはできます。
「言葉」「文字」「行動」の3つの観点で考えると、相手との違いを把握しやすくなります。それぞれの観点から見ていきましょう。
1つ目の「言葉」は、教える前に相手がどのくらいの「知識・技術」を持っているのかを「言葉にしてもらう」です。
ここで注意してもらいたいのは、聞き方です。「はい」「いいえ」で答えられるような質問をしてしまうと、相手がどの程度理解しているのか、レベルを知ることができません。具体的に聞き出すことによって、何をどこまで理解しているのか把握することができるので、質問は具体的に行います。
2つ目の「文字」とは、相手の「知識・技術」レベルを把握するために、「文字にして書いてもらう」という方法です。準備したテストに回答してもらう、あるテーマに関してレポートを書いてもらう、知っていることやできることを書き出してもらうといったやり方で、相手の現状の「知識・技術」レベルを把握するのです。
3つ目の「行動」ですが、いくら本人が「知識・技術を持っています」と言ったり、書いたりしたとしても、実際にやってもらわないと、本当のところは分かりません。最終的に「行動してもらう」こと、そして、その様子を観察することで、相手の現状を知ることができます。
これら3つの方法を通して相手の現状レベルの把握をする際には、どのくらいの値なら良いのかというレベル(度合)を測るための自分なりのメジャー(物差し)を持っておくと良いでしょう。
2つのレベルを把握して目的地を明確に
どの程度の知識や技量を持っているのかを、教える側が把握していなければ、何を教えるべきか皆目見当もつきません。
そのためには、知るべきレベルを2つに分けて考えます。それは、相手の「現状」と「目標」のレベルです。つまり教える目的は、「現状と目標の差を埋める」ということです。
「問題=現状-目標」という考え方を基に、問題に対する解決策の1つとして「教える」という方法を突き詰めていきたいものです。そのために大事なのは、相手の「現状のレベル把握」と、その人にどうなってほしいのか「目標のレベル検討」という行動をとることです。
私たちはつい「自分が学んできたやり方」で教えがちです。しかし、それは相手が自分と同じタイプであれば有効なやり方なのですが、もし、違った場合は微調整が必要なのです。
多くの教え下手は、こういうことすら考えずに、一方的に持っている知識・技術を教えようとするため、「結局、何をどこまで教えたらいいんだっけ?」と、目的地が分からなくなり迷子になってしまうのです。