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研修のプロが教える「新人教育を任された社員」だけが得られるメリット

関根雅泰(株式会社ラーンウェル代表取締役)

2025年01月20日 公開

研修のプロが教える「新人教育を任された社員」だけが得られるメリット

「何でこんなに大変な思いをしなくちゃならないんだ。これなら自分でやったほうが早いし、確実に仕事をこなせる。人に教えるなんてもう嫌だ!」

仕事を教える側の意欲も上がったり下がったりします。業務と教育の両立に苦労し、教えている相手とのやり取りに疲れ、モチベーションが下がることのほうが多いかもしれません。

新人や後輩を教える立場になった先輩社員に対して、豊富な研修実績を持つ関根雅泰さんの書籍『改訂新版 オトナ相手の教え方』よりモチベーションを持続できる教え方のコツを紹介します。

※本稿は、関根雅泰著『改訂新版 オトナ相手の教え方』(クロスメディア・パブリッシング)を一部抜粋・編集したものです。

 

「人脈マップ」を活用して1人で全部抱え込まない

多くの方は、教えることを専門的な仕事にされているわけではなく、本業の一部として教えているため、その時間確保が難しく、頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。

教える難しさの2つである「時間と内容」への対策は、「周囲を巻き込む」ことで解決していきます。自分だけでは頭も体も1つしかないので、1人で抱え込むのではなく、他の人の助けを借りて、足りない部分を補うのです。

まず、自分の周囲にどんな人がいて、その人たちに新人指導をお願いできるとしたら、どのように手伝ってもらえるのかを整理するために、「人脈マップ」という形で描き出してみます。

「人脈マップ」には、皆さんの周囲にいて、新人指導に関わってもらえそうな人たちの「名前」と「強み」を書き出します。例えば、

Aさん…資料作成に詳しい

Bさん…交渉が上手い

などです。「強み」はより具体的に書き出し、新人がその「人脈マップ」を見た時に、誰が何に詳しいのかがぱっと見て分かるように書くことが重要です。

知りたい情報を誰が持っているのかを、教える側が「知っている」ことが、組織を成り立たせる上で大事だということです。

月に数回しか書かない書類の書き方を訊かれたり、たまにしか使用しない申請書類の場所を訊かれたり、質問自体の内容は簡単でも、その度に仕事の手を止めなければいけないので、効率が悪くなってしまいます。

でも、それも仕方ないのです。彼らが他の人に訊ける環境を教える側が作ってあげなければ、誰にも訊けず自分で抱え込むという状態になってしまいます。

だからこそ、「人脈マップ」という形で、人脈の「見える化」をしてあげましょう。これがあることで、「資料作成については、Aさんに訊くようにしよう」と、自ら他の人に質問しやすくなります。

「人脈マップ」ができたら、描いた人たちに対して新人指導を手伝ってもらえるよう「協力依頼」をしていきます。新人が職場に配属される前にこれができていると、受け入れ体制を整えるという意味でとても望ましいです。

「人脈マップ」は、教える立場が苦労する「時間」「内容」に対する助け舟となってくれます。ただし、周囲の色々な人が絡むことで、別の問題も起こるようになります。それが「過負荷」と「混乱」という状態です。周囲に「協力依頼」するからには、「業務把握」と「交通整理」は忘れずに行うようにしてください。

 

教わる側と同じくらい、教えるメリットはある

忙しい中で、自分の時間を削って教えることは、決してムダにはなりません。何より教えることを通じて、私たちは「初心に帰る」ことができます。

まだ会社になじんでいない、会社の色に染まっていない新人と接するうちに、「そういえば、自分も昔はそうだったな」と自分の初心を思い出して、振り返るようになるのです。

同じようなことの繰り返しが続くと、人はどうしてもその環境や物事に慣れてしまいます。慣れることによって、仕事の効率が上がるという良い面ももちろんあるのですが、反対に手を抜いている部分やいい加減になっているところも出てきてしまいます。特に新人指導は、慣れる前の自分を振り返るきっかけになります。「こういうところを新人に見られるとまずいだろう」など、自分を律する機会にもなるのです。

さらには、教えることで人脈が増え、視野も広がります。

「人脈マップ」で紹介したような「1人で教えず、複数で教える」行動が、私たち自身の「人脈拡大」につながります。新人指導を手伝ってもらうという理由で、自部署だけでなく他部署の多くの方々と接する機会が作れるのです。また、自分も分からなかったことを「新人に教えてやってくださいよ」と言いながら、一緒に学ぶことができます。

すると、教えることで相手に分かりやすく伝えるスキルが身につきます。なぜそうなるのかを「知識整理」「説明力向上」の観点から述べます。

まず、「知識整理」です。他人に教えることで、私たち自身の知識が整理されます。今まで覚えてきたたくさんの知識や技術、重ねてきた経験を、いったん棚卸する機会につながります。特に、新人から「これって何のためにやるんですか?」など、「Why(なぜ)」に関する質問をされることで、自分自身も「あれ、そういえばなぜだったっけ?」と考えるきっかけを与えられます。

 

すべては、 将来のマネジメント力の向上につながる

教えることで得られるメリットとして、忘れてはならないのが「マネジメント力が高まる」です。マネジメントと言っても色々あると思いますが、ここでは「時間」「課題」「感情」のマネジメント(管理)という観点で見ていきます。

まず、人に教えることで「時間管理力」が高まります。限られた時間の中で、いかに自分の仕事と新人指導の両立を図るか。この取り組みをしていく中で、私たちの時間管理力が磨かれていくのです。

また「課題管理力」も高まります。これまでは自分のやること(課題)だけ考えていればよかったところから、教える立場になった途端、新人に与える仕事(課題)も考えなくてはならなくなります。新人のレベル(度合)に合わせて、どの程度の仕事を与えるかを考えることは、のちにマネージャーになって、部下に仕事を割り振る際の訓練にもつながります。

そして、「感情管理力」です。人間相手に教えているのですから、イライラしたり、ムカっときたりして、怒鳴りたくなる時もあるでしょう。ただでさえ仕事で大変な中、他人の面倒なんか見ていられない、と投げ出したくなる時もあるでしょう。

そういう感情に見舞われた時、どう対処すればよいか、自分の感情に向き合う機会となるのが、教える立場になった時なのです。この経験は、マネージャーになってより多数の部下の面倒を見なくてはいけなくなった時に大きな糧となります。

私は「教え上手な人は、学び上手でもある」と思っています。そして、学び上手な姿勢が周囲に良い影響をもたらし、他の人も学び上手になっていく「ポジティブな学びの連鎖」となっていくのです。

著者紹介

関根雅泰(せきねまさひろ)

1972年埼玉県生まれ。南ミシシッピー大学卒業後、二社での営業、講師経験を経て、2005年、研修会社ラーンウェルを設立。2010年、仕事をしながら東京大学大学院へ進学。「経営学習論」の中原研究室に参加。新人の組織適応やOJTについて研究。2013年、学際情報学修士号取得。企業研修での専門分野は「教え方」(現場でのOJTや社内講師の養成)。NBSオンライン講座「部下後輩が育つ!上手な仕事の教え方入門」、ダイヤモンド社「研修開発ラボ」等を担当。メーカー/インフラ/システム会社を中心に「メンター研修」や「中途社員の早期適応支援」を実施。家族と暮らす埼玉県比企郡ときがわ町では、仲間達と共に、地域のミニ起業家を支援。2017年より、比企起業大学を運営。主な著書に、『教え上手は、学ばせ上手』(クロスメディア・パブリッシング)、『これだけはおさえておきたい仕事の教え方』『対話型OJT(林博之氏との共著)』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

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