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仕事が速い人ほど、ビジネスメールの「言葉遣い」に無頓着である理由

平野友朗(一般社団法人日本ビジネスメール協会代表理事)

2024年09月13日 公開 2024年12月16日 更新

仕事が速い人ほど、ビジネスメールの「言葉遣い」に無頓着である理由

ビジネスシーンで多くの人が悩む、メールの書き方。時候のあいさつや、言葉遣いを考えて、メール作成に時間をかかりすぎてしまうことも...。しかし一般社団法人日本ビジネスメール協会代表理事の平野友朗さんは、丁寧すぎる言葉遣いはかえって逆効果になることもあると語ります。本稿では書籍『なぜか仕事が速い人の ずるいメール術』から、効率的にスマートなメール作成をするためのポイントを紹介します。

※本稿は、平野友朗著『なぜか仕事が速い人の ずるいメール術』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

気遣いフレーズの必要性

ビジネスメールとビジネス文書。名前は似ていますが、かたちや書き方は違います。ビジネス文書は、社内・社外とそれぞれに向けて使いますが、双方向にやりとりするコミュニケーションの側面が強いメールに比べると、情報伝達の側面が強いです。

ビジネス文書では、初めの部分に時候のあいさつを入れます。

――立春の候、貴社ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。

時候のあいさつは、そのときどきの気候や天候に合わせて季節を表現し、相手の健康や無事、繁栄を祝う言葉を添えます。

こうした季節のあいさつや体調を心配するフレーズをビジネスメールにも入れた方がいい、メールには気遣いを盛り込むべきだと考える人もいますが、果たして本当に必要なのでしょうか。

 

かっこいいフレーズ探しで気づけばこんな時間...

確かに、あいさつは大切です。季節感を表す言葉から、豊かな心を思い浮かべます。気遣いのフレーズから、温かな思いやりを受けとります。そうしたフレーズがあることによってコミュニケーションを円滑にすることもあるでしょう。

しかしその「気遣い」のために、時間をかけてかっこいいフレーズ探しをしてしまった経験はありませんか。ネットや書籍で調べてみると、こうしたフレーズはたくさんでてきます。たくさんありすぎて、どれを使えばいいのか悩んでいたら、もうこんな時間! なんてことはよく聞く話です。

 

なぜ気遣いのフレーズをメールに使うのか

そもそも、あなたはなぜ、気遣いのフレーズがビジネスメールに必要だと思っているのでしょうか。この答えを持たずにフレーズを探しても時間を消費するだけです。では、答えを一緒に考えてみましょう。

①社会人としてのマナーだから
②相手への配慮を伝えたいから
③いい印象を与えたいから

私がこの中で唯一、賛成できるのは「②相手への配慮を伝えたいから」です。先ほども述べたように、気遣いのフレーズには、コミュニケーションを円滑にする力があるからです。しかし、それ以外は正直なところ、あまり効果的ではありません。

 

そのフレーズ、逆効果かも?

社会人のマナーには、礼儀正しい、配慮がある、あいさつができる、時間を守る、報連相を怠らない、などいろいろな要素があります。

「①社会人としてのマナーだから」とメールに気遣いのフレーズを入れる、というのは、配慮の1つに過ぎません。

言葉で示すのではなく、素早い返信をしたり、先回りして情報提供をしたり、リマインダメールを送ったりするようなことの方が、社会人としての配慮は、相手により伝わります。

「③いい印象を与えたいから」も同様です。印象のよさは、使う言葉だけで決まるものではありません。その言葉と場面、関係性が合っていなければ、逆効果にもなり得ます。

気遣いのフレーズを使うだけで好印象なら、みんな多用していることでしょう。メールで大事なのは中身であり、何を書くかです。

 

気遣いフレーズを効果的に使うタイミング

ずるい人は「気遣いをしたい」という本心があるときにしか、気遣いのフレーズを使いません。

・相手が体調をくずしていると感じたら、体調を気遣うフレーズを入れる
・相手に夜遅くまで対応してもらったなら、そこに対する感謝のフレーズを入れる
・仕事が立て込んでいて忙しい中、迷惑をかけるようなことを頼むなら、そこに対して申し訳ない気持ちを伝えるフレーズを入れる

このように、気持ちと言葉が一致するときにだけ、効果的に使うのです。

 

ずるい人は、語彙を増やさない

かっこいい社会人は、難しい言葉を使っている!
社会人たるもの、難しい言葉を使いこなさなくてはいけない!

そう思って、ふさわしい言葉や難しい言い回しを、インターネットや辞書で調べながら、メールを書いていませんか。いい言葉が思い浮かばず、自分には語彙力がない、と自信を失っている人もいるかもしれません。

でも、それは大きな勘違いです。実はずるい人は、言葉や言い回しに気を配らずにメールを書き、仕事で成果を上げています。なぜ、そんな少ない労力で書いたメールでも、仕事がうまくいくのか。まずはメールを受けとる側の立場になって、一緒に考えてみましょう。

 

メールは中学校までに習う日本語でOK!

あなたが送ったメールの中に難しくて分からない、または知らない言葉があったら、メールを受けとった相手はどうすると思いますか。

私なら、その言葉をコピーして、インターネットで調べてから読み進めます。しかし、忙しくてそんな時間がないときには、その言葉の意味を推測しながら、なんとなく読むと思います。そして全てを読み終わった後「ただメールを読もうとしただけだったのに、なんだか大変だったな」と思うことでしょう。

そう、あなたがよかれと思って使ったかっこいい言葉が、相手の負担になっているかもしれないのです。そうならないためにも、専門用語や製品名など、そのまま使わなくてはいけないもの以外は、誰もが分かる易しい言葉や言い回しを使った方が、自分も書きやすいし、相手も読みやすいのです。

 

【簡単な言葉への書き換え例】

・ご寛恕ください → お許しください
・慚愧に堪えない思いです → 非常に恥ずかしい思いです
・ご検討賜りますようお願い申し上げます → ご検討ください
・ご笑納ください → お納めください

 

その言葉、誰でも分かりますか?

言葉とは難しいもので、あなたが正しい使い方をしているからといって、相手もその言葉を、正しい意味で受けとってくれるとは限りません。

例えば「情けは人のためならず」という慣用句があります。誰もが、一度や二度は聞いたことがあるのではないでしょうか。一般的に認知されている意味は次の2種類があります。

①人に情けをかけると、相手のためばかりでなく、巡り巡って自分のためになる
②人に情けをかけると、相手のためにならない

①が本来の正しい意味なのですが、文化庁の『国語に関する世論調査』(令和4年度)によると、半数近くの人が②の意味だと思うと答えているそうです。

この慣用句のように、本来の意味とは異なる意味で使われている表現は他にもたくさんあります。

また、若い世代がよく使う「寒い」「詰む」「引く」「盛る」「推し」などの言葉も、誤解が生まれるかもしれません。「気持ちが冷める」「つまらない」という意味で使った「寒い」を、相手が「部屋の温度が低いのかな」「風邪を引いているのかも」と解釈してしまう可能性は十分にあるのです。だからこそ、誰でも分かる簡単な言葉を意識して使う必要があります。

 

ビジネスシーンとプライベートで言葉を使い分けよう

「自分は分かる」では成立しないのが、ビジネスのコミュニケーションです。そのため、言葉選びも「相手にも分かる」が基準になります。経験や知識、考え方や受け止め方は人それぞれなので、自分と相手は異なっていることが当然であると考え、相手の理解を想像した言葉選びや伝え方の工夫をしましょう。

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