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「関関同立」ブランドの壁!近大が選択した広報戦略とは

マネジメント誌「衆知」

2017年05月18日 公開 2017年05月18日 更新

「関関同立」ブランドの壁!近大が選択した広報戦略とは

世耕石弘(せこう・いしひろ)
学校法人近畿大学広報部長。1969年奈良県生まれ。1992年に大学を卒業後、近畿日本鉄道株式会社に入社。以降、ホテル事業、海外派遣、広報担当を経て、2007年に学校法人近畿大学に奉職。入学センター入試広報課長、同センター事務長を経て、2013年4月に広報部長代理、2015年4月より広報部長、現在に至る。

 

大躍進を支える近大流広報戦略とは

18歳人口が減少する「2018年問題」が今、大学を震撼させている。多くの大学が定員割れを起こし、存亡の危機に立たされるからだ。そんな中、3年連続で志願者数日本一に輝いている大学がある。大阪府東大阪市にメインキャンパスを持つ地方私学、近畿大学だ。近畿地区以外では知名度の低かった同大学が、全国に名を馳せるブランド校になれたのには、従来の大学ではありえない広報戦略が関係しているという。その仕掛け人である世耕石弘広報部長にうかがった。

取材構成:高野朋美
写真撮影:白岩貞昭

※本記事は、マネジメント誌「衆知」2017年3・4月号 特集「最強のブランドを育てる」より、その一部を抜粋編集したものです。

 

どうしても越せない「関関同立」という壁

2018年から続く18歳人口の減少は、予想以上にすさまじいものです。1991年に204万人だったのが、2018年には約半分の118万人になり、さらに2031年には99万人にまで激減する見通しです。

募集の厳しい大学はつぶれていくでしょう。それだけではありません。一定の大学が姿を消すことで、他の大学の位置が相対的に下がり、「中の上だと思っていたら、いつの間にか中の下」ということになりかねない。以前と同じようにやっていても必然的にレベルが下がる。これが少子化の怖さです。

こんな時代に少しでも学校のレベルを上げたかったら、必死に上を目指すしかない。それなのに、「関関同立」という言葉の壁にそれを阻まれているのが、私たち近大なのです。

実は、近鉄勤務時代に、これと同じような経験をしました。近鉄は日本最大規模の私鉄なのですが、ブランド・イメージでは、同じ関西の私鉄である阪急電鉄のほうが上です。『阪急電車』という小説が出版され、映画化もされているほどですから。仮に、近鉄の車輌をものすごくイケてるデザインにしたとしても、おそらく阪急には勝てないでしょう。そういう問題ではないんです。「何となくいい感じ」というブランドの価値観が、知名度はもちろん、集客にまで影響を及ぼしているのが現実なのです。

*関関同立=昭和40年代に当時の受験の難易度でくくられた大学群の名称。関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学の四校を指す。近大は、その次の群として「産近甲龍(京都産業大学、近畿大学、甲南大学、龍谷大学)」にくくられている

 

奇跡の産物「近大マグロ」

近大の知名度を押し上げてくれたもの。それが、近大が世界で初めて完全養殖に成功したクロマグロ「近大マグロ」です。今や全国的に有名になり、近大の代名詞のようになっています。

よく言うのですが、私は「近大マグロ」は奇跡の産物だと思っています。なぜなら、まず32年という長きにわたる研究の歴史がある、食べればおいしいし、泳ぎはスポーツカー並みに速い、そして解体ショーをすれば盛り上がる。こんな最強のPRコンテンツは、そうめったに出てこないと思います。

実は、私たちがPRしているのは、「近大マグロ」そのものではありません。その背後にある「実学教育」という理念です。

近大は、私の祖父であり、初代総長である世耕弘一が1925年に創設した大阪専門学校を母体としています。弘一は、貧しいがゆえに28歳まで大学に行けませんでした。恵まれた家庭で高等教育を受けてきた人とは、そもそもスタートが違います。そんな背景から、近大は「エリート養成大学」ではなく、学びたい人が学べる「大衆大学」を標榜しています。そして研究を実用化し社会に役立てる「実学教育」が建学の精神です。

研究を実用化し、生まれた利益を次の研究に投入するという考え方が、伝統的にあります。研究はするが実用化は民間企業に任せるという他大学とは、そこが大きく違う。まさに実学重視。私たち広報が打ち出しているのはそこなのです。「近大マグロ」という媒体を通じて、「実学教育」を発信しているんです。

近大の強みは、ビジネスと直結したこの「実学教育」を理念としていること、そして、総合大学でありながら理系の裾野が広く、ものづくりでは圧倒的な強さを持っていること。そこを押し出すために有効だったのが「近大マグロ」なのです。何より、初代総長の「海を耕せ」という提唱のもと、絶滅が危惧される天然の魚を守りつつ、養殖によって海の食糧を社会に供給しようという近大の研究理念が、色濃く反映されています。

有名国立大学を退官後に招聘した教授がノーベル賞を取った、大学駅伝で優勝したといったことも、確かに宣伝力があります。しかし、大学の理念と直結していなければ、一時的な盛り上がりで、後が続かない。「近大マグロ」のPRが世間に響いたのは、「実学教育」という理念と結びついていたからこそです。

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