「誰かがうまくいった方法」だけ聞かされても、「わたしにはムリ」と、どこかまっすぐに受け取れない。誰しも、そんな思いをしたことがあるはずです。
本稿では、うまくいった方法論だけを「きれいに体系化」して伝えるのではなく、「試行錯誤の末にたどりついた、本当の自己分析で強みを見つけて、発揮するまで」のリアルストーリーを紹介していきたいと思います。
「理想の未来」への冒険は100社落ちから始まった――。ベストセラー『適職の地図』の著者・土谷愛さんの書籍『適職はどこにある?』より、本当の自己分析が教えてくれる理想の未来の描き方を紹介します。
※本稿は、土谷愛著『適職はどこにある?』(大和出版)を一部抜粋・編集したものです。
「思い込みのブレーキ」が未来の可能性を打ち消してしまう
「適職」とは「自分のたどりつきたい"理想の未来を叶える"仕事」だとわたしは捉えています。そのために必要なのが、あらゆる角度から「自分を正しく知ること」。
その自己分析ができれば、自分の道を迷わず決めていくことができます。
でも、これがもっとも難しいことなのです。かつてのわたしは、まだ社会に出て働いてもいないのに「社会に出て働くこと=地獄のようにつらいこと」と、「仕事」に対してネガティブな思い込みばかりを持っていました。
もし、「社会に出て働くこと=人に貢献できて楽しいこと」のようなポジティブな思い込みに書き換えていたら、言わずもがな、就活に臨む熱量も、行動量も、選考に落ち続けたときのつらさだって大きく変わったはず。
また、「わたしは無能だから勝てない」とハナから決めつけていたことも、すごくもったいないことでした。
冷静に考えて、学生時代に評価されなかったからといって、この先なにをやっても一生「できない奴確定!」ということはありません。
ここで気づいていただきたいのが、「理想の未来」を描けない・描いても叶わない人は、ネガティブに偏った「思い込み」という名の未来の可能性を打ち消してしまうブレーキをめいっぱい踏んでしまっているということです。
では、どうやってネガティブな「思い込み」を取り除き、「理想の未来」を描くのか?
「理想の未来」なるものが描けたら、一体どんなことが起こるのか?
ここではわたしの苦い経験談をもとに、それに気づくまでのエピソードをご紹介します。
「思い込み」を書き換えられないまま就職活動
「社会=地獄」「自分=無能」という思い込み二大巨頭を握りしめ、ブレーキばかり踏み続けていたわたしの就活は、「とにかく量!」と言わんばかりのものでした。
手当たり次第にいろいろな会社にエントリーをするも、いわゆる「お祈りメール」という名の不採用通知が激増しただけ。半年ほどの就職活動で、ゆうに100社は落っこちました。
この苦しかった就活期間を振り返り、今だから思うこと。それは、あのとき「思い込み」を書き換える努力をしていれば、きっと本来の「理想の未来」に近づけたはず......、ということです。
わたしはようやく1社から内定をもらうや否や、「本当にやりたい仕事かどうか」なんて深く考えることなく、逃げるように就職活動を終了。地元でお酒を販売する小さな会社に就職が決まりました。
一歩も動けなくなったどんくさ新入社員
ドキドキの入社初日。わたしは緊張のあまり、周囲をがっかりさせてしまうほどの凡ミスを連発して、ものの数週間のうちに「ダメなやつ」認定されてしまいました。
入社3カ月目には営業ノルマが課され始めますが、どんくさ新入社員のわたしには、「ノルマ達成」なんて夢のまた夢です。
そんなある日、わたしの心を完全にへし折る事件が起こります。なんとか売れるようになりたくて、商談の同行をお願いした先輩の営業車を運転していたときのこと......。
渋滞にはまりかけ、「商談に遅れたらやばい」と焦ったわたしは接触事故を起こしてしまったのです。それも、大混雑する東京・渋谷のど真ん中で。
幸い誰にもケガはありませんでしたが、大パニックに陥ったわたしは、自分で起こした事故の後始末さえできなかったのです。
「わたしって、会社にいるだけで迷惑かけちゃうんだな」
この会社でもっと頑張り続けるべきか、それともあきらめて転職活動をするべきか――。一体どっちに向かうべきなのかわからず、一歩も動けなくなってしまっていました。
人生どん底、初めて本気の自己分析
結果的にこうなってみて初めて、わたしは自分の本音と向き合う「自己分析」を始めることになったのです。部屋に転がっていた適当なノートを開き、半ば勢いでこんな問いを書いてみました。
Q:そもそもわたしって、なんのために働くんだろう?
Q:じゃあ、わたしって具体的にどれくらい稼ぐ必要があるんだっけ?
Q:今は最低限の給料をもらえて、一応働く目的は達成できてるはずなのに、わたしはなんで毎日こんなにつらいんだろう?
そして「つらい瞬間」について突き詰めると、「嫌な自分」に直面している瞬間でもあるような気がしました。仕事を通じて「お金」は得ているけれど、それと引き換えに、こんなにも「嫌いな自分」と1日の大半の時間を一緒に過ごしている。
誰かに評価されること以前に、これこそが、わたしのしんどさの原因だったのかも......と気づいたのです。
だったら、「好きな自分」「なりたい自分」になるために働くっていうのもアリなんじゃないかな? じゃあ、もし今の仕事を頑張った先に「必要なだけのお金」がもらえて、なおかつ「なりたい自分」になれるとしたら?
想像しただけで力が湧いてきて、きっとそんな仕事なら、今よりずっと前向きに頑張れそうな気がしました。
そこでこのように整理してみると、とてもしっくりきたのです。
・「仕事」=理想の未来を実現するために働くこと
・「理想の未来」=欲しいもの+なりたい姿
やっと見つけた、わたしだけの「理想の未来」
わたしの「理想の未来」を見つける方法は、同じような質問を角度を変えて何度も自分に問いかけてみることでした。
・これからどんなものが欲しいか
・どんな暮らしやライフスタイルを手に入れたいか
・過去に良かった思い出で、また体験したいことはなにか
・これから自分はどんな人になりたいか
・過去に充実していたとき、どんな自分だったか
・どんな人が好きで、尊敬できるか
質問に答えていくうちに、何度も似たような答えや共通項が見えてきたなら、それは優先順位の高い「理想の未来」だと考えていました。
過去、現在、未来と何度も往復し、じっくり自分の気持ちと向き合いながら、当面の「なりたい自分リスト」が完成しました。
①愛情深く、人に優しくできる人
②つらい状況でも前向きな考え方ができる人
③感情に振り回されず、冷静に問題を解決できる人
次に、「なりたい自分」に必要な3つのスキルと、それらが身につきそうな仕事の条件について考えてみました。
①自分と違う価値観の人を理解し、受け入れられる力→いろんな人に出会える大企業・営業・講師業・接客業など
②物事をポジティブに解釈する力→ポジティブな雰囲気の会社(口コミや面接で確認!)
③物事を一歩引いて見つめて、論理的な解決策を出せる力→経営、企画、無形商品の企画営業など「考えること」が重視される職種
目的地から逆算することで、わたしは初めて「理想の未来」を言語化できたのでした。
そこには、「ブレーキだらけの自己分析」では得られなかった納得感がありました。
そして、「理想の未来」により近づける仕事こそが、わたしにとっての「適職」なんじゃないかと思えたのです。
初めて「理想の未来」という目的地が定まって、「そこにつながる道のり」がイメージできたわたしは、「よし、転職活動しよう!」と決意しました。
「欲しいもの」+「なりたい姿」が決まれば、自信になる
さて、わたしの初の転職活動の結果はどうなったでしょうか?
なんと、まずは1社だけ受けてみた希望ドンピシャの会社に内定をもらうことができました! 転職先は広告会社で、医療系メディアの企画営業をすることになりました。
とはいえ、会社が変わったからと言って、いきなり別人のようにスキルが上がるはずもなく、安定の「営業成績ビリの女」からのスタートとなりました。
それでも、「いつか絶対にどうにか乗り越えてやるんだ」と前向きに思えていたからふしぎです。
きっと、本当に欲しい「理想の未来」を決めて、今ここで頑張ることが「理想の未来」への最短ルートなんだ! と確信が持てていたからだと思います。