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なぜラジオ番組スタッフはゲラゲラ笑う? 「裏方も前に出るようになった」背景

冨山雄一(オールナイトニッポン統括プロデューサー)

2025年03月04日 公開

なぜラジオ番組スタッフはゲラゲラ笑う? 「裏方も前に出るようになった」背景

年間イベント動員数25万人以上、スポンサー数、過去最高...一時は衰退の危機にあったラジオ番組「オールナイトニッポン」が、なぜいま"静かな熱狂"を呼んでいるのか? オールナイトニッポン統括プロデューサーである冨山雄一氏が、V字回復に至るまでの20年間を紐解いた書籍『今、ラジオ全盛期。』より、2010年代後半のラジオ番組制作の裏側を明かす。

※本稿は、冨山雄一著『今、ラジオ全盛期。』(クロスメディア・パブリッシング)を一部抜粋・編集したものです。

 

番組スタッフが裏でゲラゲラ笑う理由

ディレクターをしていた頃、自分には良くない部分がたくさんありました。

「ディレクターは全てを決める」というイメージを守るためにでしょうか......、あくまで上からスタジオをコントロールする役割として、放送中はスタジオとガラス1枚隔てた副調整室で気難しい顔をしながら見守っているべきなのだと、僕自身もとらわれていました。

ちょっと信じられないと思いますが、スタジオでしゃべっているパーソナリティや作家の耳元に指示を送れるトークバック機能のボタンに指をかけ、「今のやりとり、全然面白くないです」とかディレクターがスタジオにダメ出しを入れることは珍しくありませんでした。

そんなやりとりをADとして長年見ていたからだと思いますが、ディレクターはスタジオを盛り上げるというより、プレッシャーを与える係なのだと思っていました。

それが凝り固まったひとつのイメージでしかないのだと気づかされたのは、TBSラジオの放送現場を見学させてもらったときのことです。

「めちゃくちゃ笑ってる......!」

副調整室にいるディレクターがゲラゲラと声を出し、時に手を叩いて笑っているのです。へぇ、これもアリなのか。 まったく文化が違って見えたので新鮮でしたが、このときはあくまで他局のやり方として、自分事にまで考えられていませんでした。

しかしその後、先輩ディレクターの宗岡さんによって、僕の視界は開かされたのです。

2015年4月、作家の朝井リョウさんと歌人で小説家の加藤千恵さんを迎えて「朝井リョウと加藤千恵のオールナイトニッポン0(ZERO)」をスタートすることが決まった際、どうしても番組に関わりたかった僕は、ディレクターである宗岡さんに無理やりお願いし、ADとして現場に入らせてもらいました。

すると、笑う笑う、ゲラゲラ笑う! え、うちの会社でもアリなんだ......と驚きました。

宗岡さんはTBSラジオのディレクターのようにとにかく笑うし、トークバックでさらに番組が盛り上がるようなワードを的確に入れていきます。

さらに同じ時期、土曜日の深夜は、僕は第3スタジオで「オールナイトニッポンサタデースペシャル大倉くんと高橋くん」のディレクターを、宗岡さんが第2スタジオで「オードリーのオールナイトニッポン」を担当していたわけですが、フロアの反対側にある2スタから僕たちがいる3スタまで、宗岡さんの笑い声が聞こえてくるのだからそれは本当に衝撃でした。

ディレクターだけじゃなく、音の調整をするミキサーさんや作家さんも一緒に盛り上がっている様子が伝わってきて、「あ、これでいいんだな」と思えました。

オードリーの番組は当時からしっかり結果も出ていましたから、ディレクターも一緒に笑って盛り上がる番組作りが間違っていないことを証明していました。

自分の固定観念に気づき、それを捨ててもいいとわかった僕は、放送中の副調整室ではできるだけ楽しい雰囲気、朗らかな雰囲気を醸すことを心がけるようにしました。

今思えば、忙しい合間を縫って来てくれているAKB48のような若いアイドルに対してピリッとさせるのもおかしかったなと反省します。やはりディレクターが笑っているほうが、パーソナリティもリラックスして自分の言葉で話しやすくなる様子がガラス越しにも伝わってきました。

パーソナリティが委縮せずにのびのびと話せる環境をつくることで、結果として番組がより面白くなり、リスナーに「また来週も聴きたいな」と思ってもらえるものになるはずです。プロデューサーの立場になった今もディレクター陣には「どんどん笑ってあげてください」と伝えています。

 

「パーソナリティ」「リスナー」「スタッフ」の三角形が誕生

裏方が出ることに対して、方針転換ができたのは、やはりSNSのおかげでした。

裏方の登場やスタッフの人格が出ることに対して、それまでは「必要ない」という考え方でしたが、SNSで書かれる感想では、スタッフの登場をリスナーが楽しんでくれ、大きく受け入れてくれていることがわかったのです。

これによって、番組におけるパーソナリティとスタッフの関係性は大きく変わったと思います。決して表には出ない縁の下の力持ち的な存在の番組スタッフから、番組を一緒に盛り上げていく仲間、登場人物に変わったのです。

やはりSNSの浸透が大きなカギで、スタッフも個人のアカウントで番組の宣伝を発信するようになったことで、番組を作るスタッフの姿も世間に可視化されていきました。

どの番組をどのディレクター、どの作家が作っているのか。リスナーに知られる機会が増え、中には「この作家さんの番組を聴きたい」といったスタッフからの導線でリスナーが増える現象まで生まれたのです。少し前には信じられないことでした。

パーソナリティとリスナーが1対1という「線」でつながっていた世界から、スタッフも加えたトライアングル――つまり「面」でつながる世界へ。さらにこの三角形の面がSNSで可視化されることでコミュニティが育っていく。まるで1つの番組を一緒に盛り上げるサークルのようなコミュニティが生まれ、ラジオ全体の熱を高めていったのです。

 

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