80歳目前に任された“JAL再建”…熱意のなかった社員を変えた「フィロソフィ」
2012年10月22日 公開 2022年12月28日 更新
80歳を前にして政府の要請を受け、倒産した日本航空(JAL)の会長に就任した稲盛和夫氏。稲盛氏がJAL再建に向けて掲げた3つの大義、そしてフィロソフィとは?
※本稿は、稲盛和夫著『[新版・敬天愛人]ゼロからの挑戦』(PHPビジネス新書)より一部を抜粋編集したものです。
JALの再建、3つの大義
2010年2月、私は80歳を前にして、日本政府の要請を受け、倒産した日本航空(JAL)の会長に就任した。
これまで、京セラとKDDIという、2つの異なった業種の会社を創業し、両社合わせて売り上げ5兆円規模にまで成長発展させてきた経験はあった。
しかし航空運輸事業についてはまったくの門外漢。そのため、JAL会長に就任することに、誰一人として賛成してくれる者はいなかった。「もうお歳なのだから、おやめになったほうがいいですよ」という助言をいただくばかりであった。
しかし、私はJALの再建には、3つの大きな意義、大義があると考えていた。
1点目は、日本経済への影響。
JALは日本を代表する企業の1つである。そのJALが再建を果たせず、二次破綻でもすれば、日本経済に多大な影響を与える。
一方、再建を成功させれば、「あのJALでさえ再建できたのだから、日本経済が再生できないはずはない」と、国民が自信を取り戻すきっかけになるだろうと考えた。
2点目は、JALに残された社員たちの雇用を守ること。
再建を成功させるためには、残念ながら、一定の社員に職場を離れてもらう必要があった。しかし、二次破綻しようものなら、全員が職を失ってしまうことにもなる。何としても残った社員の雇用だけは守らなくてはならない、と考えた。
3点目は、国民、すなわち利用者の方々への責任。
もしJALが破綻してしまえば、日本国内での大手航空会社は1社だけとなり、競争原理が働かなくなってしまう。運賃は高止まりし、サービスも悪化してしまうだろう。
それは決して国民のためにならない。公正な競争条件のもとで、複数の航空会社が切磋琢磨する中でこそ、利用者に対して、より安価でより良いサービスを提供できるはずである。
このような3つの大義があると考え、いわば義侠心のような思いが募り、身のほど知らずにも、会長としてJAL再建に全力を尽くそうと決意したのである。