イラストレーターとして活躍を続ける田村セツコさん。長年ひとり暮らしの田村さんは、親しい人が亡くなる悲しみや、ひとりの不安をやわらげる方法があると語ります。(取材・文:鈴木裕子、写真:関暁)
※本稿は、月刊誌『PHP』2024年3月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。
みんな「さびしさ」を持っている
父と母と子供四人の六人家族。いつもにぎやかで笑い声が絶えない、まさに絵に描いたような温かな家庭で育ちました。でも、人間って勝手なものですね。私は幸せいっぱい、胸いっぱいな毎日を満喫していながら、「屋根裏部屋で暮らす絵描きさん」にあこがれていました。絵を描くことが好きだったので、パリの貧しい画学生のイメージですね(笑)。生意気にも、ひとりぼっちで貧乏暮らしをしてみたかったんです。
高校卒業後、親元を離れて都内のアパートで生活を始めたのですが、すぐに「孤独というのは、なるほどこういうことか」と気がつきました。夕食時になると、窓の外からにぎやかな食器の音や人の声がして、スープのいい香りがただよってくるのに、私は「おいしいね」と言葉を交わす相手もなく、ひとりぼっちでごはんを食べている。さびしさが本当に身にしみました。
でも、大好きなフランスの雑誌のページをめくっていると、そこに登場する著名な人たちが「人生のテーマは何ですか?」という質問に対して、「孤独です」と答えていたんです。それらを読んで、孤独を感じている自分は哀れでもなんでもない、ごく「まとも」なんだと安心したんです。
考えてみたら、子供のころに読んだ物語の主人公のほとんどは、ひとりぼっち。『赤毛のアン』も『家なき子』も孤児なんです。でも、彼女たちは日々空想し、冒険しながらだんだん幸せになっていく。それを考えると、孤独は悪いことでもみじめなことでもなく、むしろ人間を強く、豊かにしてくれるものなんだと気づきました。
もちろん、孤独はさびしい。でも、私たちはこの世に生まれたとき、すでに広い世間にひとりで放り出されたんです。だから、心細くて「ふんぎゃ、ふんぎゃ」と泣いたんですよね。ですから、さびしいとか孤独感を持つのは当たり前のこと、生きている証拠だと私は思っています。
亡くなった人は自分の応援団
私は両親やきょうだい、友人など亡くなった人たちの名前を紙に書いてキッチンに貼り、朝起きたときに「おはようございます」と順番にあいさつします。「お父さん、お母さん、おはようございます」というように一人ずつ、小さな声で。名前を呼んだときにその人の顔が浮かぶので、にっこり。それだけで楽しい気分になります。
実はそのとなりにVIP席というのもあって(笑)、尊敬するサン=テグジュペリなどのお名前も。私は勝手に、みなさんを自分の「応援団」だと思い、「今日は講演会。行ってきまーす」「がんばって!」なんて会話をします。すると、元気がわいてくるんですよ。孤独を感じている方は、だまされたと思ってやってみてください。本当に励まされ、勇気が出ますよ。
もう一つ、私には毎朝やっていることがあります。それは、ラッキーだと思うことを発見し、確認すること。「今日も目が覚めた、目が見える、耳が聞こえる、立って歩ける......わあ、ラッキー!」って。そんなのラッキーでもなんでもなくて当たり前のこと、と思われるかもしれませんね。
でも、たとえば触って熱い、冷たいと感じるといったことは、何億円かけて研究しても、ロボットで完全に再現するのはむずかしいのだそうです。それほど私たちの体は高機能、高性能なんですね。そのことを改めて発見、確認して、感謝する。すると、毎日新鮮なことの連続で、「さびしい」なんて嘆いている暇もなくなります。
発見と言えば先日、鏡台の引き出しの中に昔使っていたメントール系の軟膏を見つけました。それをおでことこめかみにちょこっと塗ったら、スースーして気持ちがいい。以来、これも朝のルーティンに。名づけて「スースー健康法」。気持ちがちょっと沈んだときにも効果的ですよ。
「今」を心から楽しむひとり暮らし
それでも、さびしくて悲しい気持ちになることはありますよね。私は猫のいない生活をしたことがなかったんです。ところが先日、一緒に暮らしていた猫が家出をしてしまったので、現在は正真正銘のひとり暮らし。「あら私、ひとりぼっちだわ」と感じることもあります。そういうとき、つい家に閉じこもってしまいがちですけど、私はあえて外出するようにしているんです。
ある日の夕暮れ、六本木の高層ビルに行って最上階から下を見ると、星の数ほど家があって灯りがともり、キラキラ輝いていました。こんなにたくさんの人がいて、いろいろな思いで暮らしているんだなと思ったら、胸がいっぱいになってしまって。
そして、この中にはきっと、ひとりぼっちでお茶を飲んでいたりして、今の私と同じようにさびしい気持ちでいる人がいるはず。バスや電車に乗ったりしても、いろいろな人がいますよね。
外に出れば、そんなふうに世の中を俯瞰できて、「ひとりなのは自分だけじゃない」「みんな孤独を味わっている」と気づきます。そういえば、「ひとりでいてもひとりじゃない。一緒にいても一緒じゃない」という言葉を聞いたことがあります。人間の心って、実に不思議な面があるんですね。
人生も後半に入ると、将来に不安を感じて、より孤独感がつのるかもしれません。でも、先のことを考えたところで、思う通りになるとは限りません。だったら、孤独とうまくつき合い、毎日発見、感謝して「今」を楽しんでみてはいかがでしょう。
![月刊PHP 2024年 3月号 [「ひとり」を楽しむ「孤独」を味わう]](/userfiles/images/book2/B0CSQK1G6B.jpg)






