“ラショナル思考+日本の智恵”で問題解決力を高める
2012年11月01日 公開 2024年12月16日 更新
これからの時代、日本の企業が生き残るためには何をすればいいのか。デシジョンシステム相談役の飯久保廣嗣氏は、ラショナル思考をベースに、日本の先人が残してくれた「智恵」を身につけて、問題解決力を磨くことが重要だと語る。
※本稿は、飯久保廣嗣著『日本流・ロジカル思考の技術』(PHPビジネス新書)より、内容を一部を抜粋・編集したものです。
なぜ日本人は異質と言われるのか?
本書のタイトルを「日本流」としたが、説明が必要である。そもそも、物事を処理する時の"日本流"のものの考え方が世界に通用しないから、それを変えなければならない、と主張するつもりはまったくない。
それどころか、日本の文化や先人の智恵の中には、世界に適用する日本固有の"論理的発想"があることを認識したい。また、論理的に詰めても解決が難しい場合に、「物事を丸く収める」という日本人の智恵が、最も理想的なソリューションになることもある。
ただし、我々の物事の考え方を革新(Innovate)し、共通の思考のプラットフォームを築くことが必要ではなかろうか。
「日本人のものの考え方は独特か(Do Japanese think differently?」と外国人に聞くと、ほとんどが「その通り」と答える。それでは、「日本人の論理は異質か(Is Japanese logic different? )」と問えば、「そのようなことはない」と言う。
つまり、ロジックは同じでも、日本人はその使い方がかなり違うというのである。結果、議論がかみ合わない。結論が出るまで時間がかかる。議論の堂々巡りが始まる。このフラストレーションの解消を試みるのが本書の狙いである。
ところで、昔、米国マサチューセッツ工科大学で原子炉の勉強をしていた友人の話である。期末試験で、「ある原子炉に異常が発生した。その結果、炉内の温度が何度となったか」という設問があった。彼は自信を持って答案用紙にある数字を大きく書いて、意気揚々と教室を後にしたそうだ。
しかし、担当教授は、答えが正解であったにもかかわらず、落第点をつけた。理由は、どのような過程を経て答えを出したのか、その結論に至ったプロセスが説明されていないからだという。設問から結論に至るプロセスを明確にして、説明することの重要性を肝に銘じたと、友人は述懐していた。
つまり、分析をせずに頭の中だけで結論を出す「暗算思考」で正解を出しても、その結論に至る過程が見えなければ、説得力がないということになる。
このことは、日本の組織でよくみられる現象でもある。そして、この設問(問題・課題)から結論に至るまでのプロセスこそが、ロジカル思考のベースとなるのである。
ロジカル思考の重要性
グローバル社会で仕事をするための必須条件といわれるロジカル思考は、米国の経営学がその発祥であり、ビジネススクールなどから日本に紹介された。多くのビジネス人が一度は勉強した領域だろうが、残念ながらあまり定着しなかった。
多くの企業がボーダーレスに仕事を展開している現在、コミュニケーションや問題解決の共通の「軸」として、ロジカル思考の重要性は計り知れないといえる。いかに英語力を高めても、考え方のデファクトであるロジカル思考が伴わなければ、世界の企業と渡り合っていくことは難しくなる。
ロジカル思考の重要性は、次のようなケースでも顕著になる。複数の異なった企業文化を持った日本の組織が合併すると、国の内外を問わず日本固有の問題を持つことになる。それは、新しい組織の意思決定の場面で各社が綱引きをして、経営資源の浪費が起こるからである。
例えば、製造現場で不良品が出れば、生産ラインを止めて、原因を究明して対策を講ずる。放置すれば、不良品の山となる。しかし、意思決定で不良品(まずい判断)が出ても、それを目で見ることはできない。
また、製造ラインで効率が悪ければ、工程を標準化して改善を重ねる努力をする。このような「ものづくり」の智恵を組織の判断業務に活かし、意思決定の不良品、判断の先送りを撲滅したいものである。
そこで、組織の意思決定に携わるビジネス人1人ひとりが、日本固有の論理的発想を加味した「日本流・ロジカル思考」の武装をし、思考の生産性向上に取り組むことの重要性を考えていただきたいのである。
訴訟を丸く収めた大岡裁きの「三方一両損」
一方で、前述の「丸く収める」という日本の発想が、特許紛争を解決した事例もある。日本、米国そして英国の企業が3つどもえの訴訟案件を抱えていた。
1社が動くと各社の国際弁護士が動く。状況はますます複雑になる。そこで、日本企業は「スリーパーティ・ワンダラー・サクリファイス (Three Parties One Dollar Sacrifice)」を提示した。
これは、大岡裁きの「三方一両損」である。江戸時代に職人が3両の大金を拾った。正直な職人は1日かけて、落とし主を見つけた。落とし主は、落とした自分が悪いので、金は受け取れない、と喧嘩になり、お白洲の大岡裁きとなる。
奉行は両者の話を開き、奉行自身も1両を出して、総額を4両にし、当事者が2両ずつ分けた。つまり、奉行を含む3者が各々1両ずつ損をすることで、丸く収めたという話だ。
契約社会である西欧では考え付かない発想であったが、関係者がこれを受け入れ、特許紛争そのものが早期に解決したという。
ビジネスマンにとっての「新たな武装」とは
結びに、ある経営者の言葉を紹介したい。曰く、「ビジネスは平和時における戦争の形態である」。直接に殺生はしないが、ビジネスは食うか食われるかである。
だから、生き残るために常に新しい武装をしなければならない。本書がビジネス人の思考武装として役に立つことを願うものである。
ビジネス人にとっての「新たな武装」とは、いかなるものか。それには、著者が40年間研究し、世界中の多くの企業で採用されてきた「ラショナル思考(ラショナル・シンキング)」というスキルをベースに、日本の先人が残してくれた「智恵」を関連付けた考え方が、おそらく役に立つだろう。
「ラショナル」とは、「合理的」という意味であり、「ラショナル思考」は、日本語では「実践論理思考」と言い換えることができる。
日本のビジネス人が長年興味を持ち取り組んできた「ロジカル・シンキング」が「形式論理思考」と考えられているのに対し、その言葉通り、より実践的であることが大きな特徴である。
つまり、問題解決や意思決定、リスクへの対応をいかに効率的でラショナルに展開するかを、体系的にまとめた考え方の定石である。英語でいえば、「Organized Common Sense」といった意味合いであり、多くの人たちにとって、筋の通った、道理にかなったグローバルに通用する考え方の常識といえるだろう。
ラショナル思考は、ビジネスにおける適切なコミュニケーションにも寄与する。皆さんは、ビジネスのコミュニケーションの目的を、どのように考えるか。「良好な人間関係を構築すること」と答える人も多いだろう。
だが、ビジネスにおけるコミュニケーションの究極の目的は、最終的なアウトプットである。アウトプットとは、「結論」であり、「ソリューション」であり、「アクションプラン」と言い換えられる。その究極の目的を達成するガイドとなるのが、ラショナル思考ということになる。