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「髪型変えた?すごく似合ってるね」周囲に好かれる人気者が意図的にとっていた行動

橋本之克(行動経済学コンサルタント/マーケティング&ブランディングディレクター)

2025年08月04日 公開

「髪型変えた?すごく似合ってるね」周囲に好かれる人気者が意図的にとっていた行動

行動経済学とは、心理学と経済学を組み合わせることで、人間の不合理な行動の謎を解き明かす学問です。その理論はビジネスやマーケティングの場で、「人々を企業などにとって都合の良い方向に誘導するため」に、多数活用されています。

行動経済学を学び、人間の思考のクセや行動パターンについて知ることは、「無意識に誘導されてしまう」状況から脱し、自分にとってより「正しく」「最適な」選択や決定ができるようになることにつながるわけです。

本稿では、行動経済学コンサルタントの橋本之克さんに「スポットライト効果」について解説して頂きます。

※本稿は、橋本之克著『世界は行動経済学でできている』(アスコム)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

モテる友だちの秘密

モテる友達の秘密

学生時代、とてもモテる友人(Cくん)がいました。失礼ながら、外見がものすごくカッコいいというわけではないのに、男女問わずまわりから好かれる人気者でした。

彼の長所は、とにかく「細かいことによく気がつく」こと。 
「髪型変えた? すごく似合ってるね」
「その服、おしゃれで素敵だね」
「最近ちょっと元気ないよね? 何かあった?」
このようなさりげなく相手を気遣うひと言があり、私も彼のことを信頼して、何度か相談に乗ってもらっていました。

「なぜそんなに気がつくの?」と聞いてみたところ、「最初は無意識でやっていたけれど、いろんな人が喜んでくれるので、意識してまわりの人を観察するようになった」とのこと。

あとから知ったことですが、これは行動経済学の「スポットライト効果」を応用したものだったのです。

 

他人が着ていた服を覚えている人はほとんどいない

「自分は注目されている」という錯覚をしてしまう現象を「スポットライト効果」と言います。例えば、ある人と会った際、自分が前回会ったときと同じ服を着ているかも、と気になってしまうようなケースです。 

「自分が気にしていること」に関して、他者も同じように気にしていると判断したり、自分が他者に与える影響を過大評価したりしてしまうということですね。

1999年、心理学者のトーマス・ギロビッチ教授は、「スポットライト効果」の影響を確かめる実験を行いました。

教室に集められた人々に、あるアンケートに答えてもらいます。その回答時間中、Tシャツを着た被験者が教室に入り、どの程度注目されるかを調べる、といった実験です。

被験者が着ているTシャツの胸には、有名だが当時の若者には「ダサい」と思われていた歌手バリー・マニロウの顔写真が大きくプリントされています。しばらくして、被験者は再び人々の前を通って教室から出て行きます。

その後、教室にいた人に被験者について聞いたところ、Tシャツの顔写真に注目した人は全体の21%でした。一方で、ダサいTシャツを着た被験者側は、自分が46%の人に注目されたと感じたと答えたのです。

この実験にはさらに、被験者と教室にいた人々の全体の様子を見届ける観察者もいました。その人に、被験者のTシャツに注目した人がどの程度いたかを尋ねたところ、推定値は22%、つまり教室にいた人の回答(21%)とほぼ同じでした。

この実験から導き出されるのは、「自分が注目されていると感じる割合は、客観的な事実の2倍以上」であること。

言い方を変えれば、自分が考えているより半分も、他人は自分のことを気にしていないということです。

 

「あなたは特別ですよ」と思わせることで相手を操る

私は特別

この事実を知って、がっかりする人もいれば、ホッとする人もいるかもしれません。

「最近生え際の薄さが気になってきた」「髪を切ったばかりだけど、みんな気づいてくれるかな」「ニキビが目立つ場所にできてはずかしい」など、いろいろなケースがありますが、実際のところ周囲の人は気づいていない、あるいは気づいたとしても関心がない可能性のほうが高いのです。

逆に、注目してほしい、ツッコんでほしい場合もあります。
ブランド品を身につけているとき、「それいいですね。◯◯ですよね」と言われたい。変な絵やメッセージが書かれたTシャツを着ているとき、誰かにいじってもらいたい。そのように思うこともあるでしょう。

しかし、あなたがそこにいることは認識していても、Tシャツやブランド品にはまったく注目していないといったケースも多いのです。

本項の冒頭で紹介したCくんは、みんなが思っている「自分に注目してほしい」「気にかけてほしい」というポイントに気がついていたわけです。その欲求をさりげなく満たしてあげることで好感度を高めていたのですね。

企業も、このような「スポットライト効果」を巧みに利用した販売戦略をとっています。

三越伊勢丹などの百貨店では、年間購入金額が大きい顧客限定の販売会や、お得意様専用ラウンジなどのVIPサービスを充実させています。クレジットカードのアメリカン・エキスプレスのプラチナ・カードでは、高額な年会費を支払う代わりに、世界のラグジュアリーホテルやリゾート施設で「アーリーチェックイン」や「部屋のアップグレード」などができます。さらに「プライオリティ・パス」で各国の空港ラウンジを無料で使えるなど、さまざまな特別サービスを展開しています。

通常の販促活動でも、ダイレクトメールやメールマガジンなどで「特別なお客様だけのご案内」「会員様限定! シークレットセール」などの文言を使って、顧客に興味関心を持たせるように仕向けています。

投資詐欺などでよくある、「◯◯さんだけに特別にご紹介するのですが、実は高利回り、高配当の商品がありまして......」などという勧誘文句も同じです。

相手にスポットライトを当てて、「あなたに注目していますよ」「あなたは特別ですよ」と思わせることで、消費を促しているのです。
実際は、その「特別な人」は他にも山ほどいるわけですが。

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