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生き方

1時間以上の昼寝は脳に悪影響? シニアの睡眠について考える

保坂隆(精神科医)

2025年08月31日 公開

1時間以上の昼寝は脳に悪影響? シニアの睡眠について考える

女優の森光子さんは90歳近くまで舞台に上がり続けましたが、何十年も風邪一つひかなかったそうです。その健康の秘訣として知られるのは、毎日欠かさず塩水で鼻うがいをし、高齢になってからも、スクワットを何十回もしていたこと。さすがですね。

さまざまな世界で長く活躍されている方たちは、皆さん、健康に対する意識が高く、それぞれ努力をされています。もちろん、現役で仕事をされている責任感もあると思いますが、「何歳になっても健康で過ごしたい」と願うのは誰でも一緒です。

では、健康で、病院や薬の世話にならない生活を送るためには、どうしたらいいのか? 実はそのほとんどが、それほど難しいものではなく、日常の小さな改善の積み重ねにあります。

本稿では、昼寝を含めたよい睡眠のとり方について精神科医の保坂隆さんに解説して頂く。

※本稿は、保坂隆著『精神科医が教える 心と体の「老後のイキイキ健康術」』(PHP文庫)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

シニアが「早起き」になるのは当然──生体リズムが前倒しに

「人生の3分の1はベッドの中」などと言われます。つまり、多くの人が1日に8時間は眠っているということ。しかし、この言葉は「健康のためには八時間睡眠がよい」という意味ではありません。

アメリカの精神医学者が調査したところ、健康的な人の睡眠時間は6時間から7時間の間だったそうです。調査対象は100万人以上だったとされますから、信用できるデータでしょう。

しかもこの睡眠時間は、歳をとるとともに短くなる傾向があって、たとえば65歳以上の人は6時間程度がいいようです。もちろん、6時間の睡眠時間は、1日のうちいつでもいいわけではありません。また昼寝をするから、夜更かししてもいいということではないようです。

健康な脳のためには、早起きがいちばんです。
「そういえば、若い頃は早起きが苦手だったのに、最近では目覚まし時計が鳴る前に起きるようになった」

シニアの中には、そういう人も少なくないはずです。このように早く目覚めることを心配する人がいますが、何も問題も心配もありません。

人間の体は、歳を重ねるとともに、血圧、体温、ホルモン分泌など、睡眠に関わる生体リズムが"前倒し"になります。その結果、「早起き」になるのは当然だからです。

朝早く目が覚めれば、夜は早い時間帯に眠くなるでしょう。そのリズムに逆らう必要はありません。「早寝早起き」のライフサイクルにすればいいのです。

そして、せっかく早起きしたのなら、窓のカーテンを開けて、朝日をしっかり浴びてください。

朝日には、セロトニンという脳内物質の分泌を促す働きがあります。セロトニンには「人づきあいがうまくなる物質」という別名があって、前向きな気分と活発な行動をもたらしてくれます。

逆に、セロトニンが不足すると、怒りの感情が抑えられなくなることもわかっています。

このところ、「いい歳をして」とか、「まさか高齢者が......」といったシニアの事件が世間を騒がせています。

メディアによれば、そうしたトラブルの発端は、「若い人から注意された」とか「コンビニでアルコールを買ったときに『私は二十歳以上です』というボタンを押せと言われた」など、大した理由ではありません。

つまらないことにカッとして我を忘れたり、つい手を出してしまったりするのは、セロトニンが不足しているからでしょう。そんな人は、早起きをして朝日を浴びれば、いざこざを起こす可能性が低くなるはずです。

3000年以上前のエジプトの壁画には、「近頃の若い者は、ろくなもんじゃない」と書かれていたそうですが、今どきのシニアが「近頃の年寄りは、ろくなもんじゃない」と言われないようにしたいものです。

 

「昼寝の功罪」を知っておく──過ぎたるは及ばざるがごとし

「歳を重ねると睡眠時間は短くなる」という話を紹介しましたが、「何となく体が目覚めない」とか「起き上がるのが億劫」などと自分自身に言い訳をしながら、寝床でダラダラ過ごしている人も少なくないでしょう。

もちろん、「体調を整えてから、ゆっくり起きるように心がけています」というのなら問題はありません。その日の気分や体調によっては、横になっていたほうがいいこともあるでしょう。ベッドの中で、体を少しずつほぐしながら起き上がる準備をするのも大事です。

しかし、「何もすることがないので起きなくていい」とか、「昼寝をしようとして、ついつい布団の中に入ってしまった」という人がいたら、それは、自ら介護を受ける道を進んでいるようなものです。

たとえば、昼寝について考えてみましょう。

一般的には、「昼寝は体にいい」とされています。心理学の調査でも、「昼寝は注意力、判断力、運動能力を高め、ストレスを軽減し、記憶力が増す」という結果が出ています。そのため、企業によっては、昼寝の時間を設けているところもあるくらいです。

また、ある寝具メーカーの調査でも、毎日60分以下の昼寝をする習慣をもつ人は、アルツハイマー型認知症の発症リスクが10分の1以下に下がることがわかったそうです。

さらに昼寝には、脳のふだん使わない部分を活性化する働きもあるとされています。日本人初のノーベル賞受賞者となった湯川秀樹博士が「中間子論」を思いついたのは、まどろんでいたときだと言いますし、ある人気作家も昼寝中にストーリーがひらめく場合が多いそうです。

しかし、「過ぎたるは及ばざるがごとし」という言葉もあります。

昼寝は短時間が基本です。適切な昼寝時間は「15分から30分程度」という説もありますし、「習慣的に1時間より長い昼寝をしているシニアは、アルツハイマー型認知症の発症リスクが通常の4倍にも達する」とも言われています。つまり、長時間の昼寝は脳に悪影響を与えてしまうというわけですね。

昼寝の時間が長すぎると、夜に寝つけなくなるデメリットもあります。これでは、前項で紹介した「早寝・早起きの習慣」もつきません。

昼寝をするタイミングは、午後1時から3時頃までで、時間にして30分以内というのがお勧めです。

ここで1つ、昼寝をするときのコツを紹介しておきましょう。それは、昼寝をする前にコーヒーを1杯飲んでおくこと。

「コーヒーなんか飲んだら、昼寝できないじゃないか」
と思われるかもしれませんが、コーヒーのカフェインが覚かく醒せい効果を発揮するのは、コーヒーを飲んでから20~30分後。つまり、ちょうどいい時間にカフェインが効き出して、スッキリ起きられるというわけですね。

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