物事の上達スピードが高まる「フロー状態」に入る3つの鍵
2025年09月04日 公開
何かに集中して、「楽しい!」「もっとやりたい!」という状態になることをフローといいます。コーチング専門家の垂水隆幸氏によれば、このフロー状態に入ると、人はモチベーションが高まり、成長が加速していく「上達サイクル」に乗れるのだそうです。それでは、フロー状態に入るにはどうすればよいのか。垂水氏が執筆した『Calling』より、その3つの鍵をご紹介します。
※本稿は『Calling』(かんき出版)より一部を抜粋編集したものです。
「上達している感じ」が成長へのエンジンになる
「人生をかけてやりたい!」と思うこと(=コーリング)を見つけても、「本当に上達している」「もう少しうまくなれそうだ」という感覚を得られなければ、長期的なモチベーションは維持しにくいものです。
たとえば、楽器演奏が好きで始めた練習で、最初は新鮮味があって楽しくても、どこかで「上達している感じ」が止まってしまうと「これ以上うまくなれないのかも......」と情熱がしぼんでしまいます。それゆえ「昨日より音がきれい」「もっと難しい曲にも挑戦できるのでは」と感じられる瞬間こそが、さらに続けてみたいという気持ちを支えてくれます。
コーリングに没頭するにあたっては、この成長実感(Mastery)が重要なエンジンになります。
フロー理論は、ハンガリー出身のアメリカ人心理学者であるミハイ・チクセントミハイ(1934-2021)が長年の研究を通じて提唱した概念です。彼は「人はどのような時に最も幸福や充実を感じるのか」をテーマに、芸術家やスポーツ選手、企業の現場など幅広い領域を調査しました。
その結果辿り着いたのが、フローと呼ばれる"ある活動に完全に没頭し、時間や周囲への意識が薄れ、活動そのものを深く楽しんでいる"状態です。たとえば、スポーツ選手が"ゾーン"に入って驚異的な集中力を発揮する場面や、音楽家が演奏中に時間の感覚を忘れるほど没頭する体験、プログラマーがコードを書いているうちに気づけば数時間経っていたというエピソードなどは、典型的なフローの事例としてしばしば取り上げられます。
フロー状態に入るための3つの鍵
チクセントミハイによれば、フロー状態にはいくつかの特徴がありますが、特に以下の3点が鍵となります。
●明確な目標とフィードバック
フローを生み出すためには、「何を目指すのか」が明確であり、行動の結果がすぐわかる状態が不可欠です。たとえばゲームやスポーツでは、得点や成功・失敗が即座にわかるため、「いまのプレーでどう結果が変わったか」をリアルタイムで把握できます。仕事の現場でも、大きなプロジェクトを小さなタスクに区切り、目標を設定しながら進めると、進捗をフィードバックしやすくなります。すると、「ここまでできた」「もう少しで目標に届く」といった手応えを感じやすく、自然と没頭状態になりやすいのです。
●自己意識の希薄化
フロー状態になると、「外からどう評価されるか」「失敗したらどうしよう」という過度な不安やプレッシャーが薄れ、活動そのものに集中できるようになります。たとえば絵を描いている最中に、没頭しすぎて周囲の雑音がまったく耳に入らない、といった体験はよくあることでしょう。この時、活動へのモチベーションは「やらされている」から「もっと描きたい」「次はこうしてみよう」といった純粋な好奇心や楽しさへと移行し、創造性やパフォーマンスが高まりやすくなります。
●チャレンジとスキルのバランス
フローに入るための最も重要な要素が、課題の難易度と自分のスキルレベルのバランスです。課題が簡単すぎると退屈してしまい、逆に難しすぎると不安や挫折を感じます。「自分のスキルよりやや高い目標」を設定すると、「もう少し頑張ればできそう!」という適度な緊張感が生まれ、集中力が最大限に引き出されます。その結果、最も深く没頭しやすくなるのです。こうした少し高めの課題に挑戦→達成→さらに高いレベルへ......という循環が、持続的な成長実感をもたらします。
チクセントミハイのフロー理論は、学習やビジネス、スポーツ、芸術など様々な分野で応用されてきました。環境や目標設定を工夫し、適切なフィードバックを与えることで、人は自然とフロー状態に入りやすくなります。結果的に創造性や生産性が高まり、「自分は成長している」「もっと上達できるはずだ」という実感も得やすくなるのです。コーリングを実際の行動に活かすうえでも、フローを意識した取り組みは大きな助けとなるでしょう。
上達サイクルを生み出す簡単な3アクション
フロー理論が示唆するように、「やっている最中に没頭し、上達を実感できる環境」を作ることが、成長を持続させる鍵となります。ここでは、誰にでも取り組める簡単なアクションを3つご紹介します。どれも今日から始められるものなので、ぜひ実践してみてください。
1.小さなゴールで切り分ける
最初に取り組むのは、タスクを小さめのゴールで区切り、その進捗を自分で可視化することです。いきなり大きな目標を設定すると達成感を得るまでに時間がかかり、「本当に進んでいるのだろうか」と不安になりがちです。しかし、あえて短いスパンで到達できそうなゴールを作り、そこまで到達したら「どこがうまくいったか」を振り返るようにすると、一歩ずつ上達している感触を得られます。仕事用メモやスマホのメモアプリに「〇〇までできた!」と書き残しておくだけでも効果的です。
2.少し背伸びが必要な難易度を選ぶ
次に大切なのは、適度に難易度の高いチャレンジを組み込むことです。フロー状態は「やや背伸びが必要な課題」に取り組んでいる時に起こりやすく、退屈と不安のちょうど中間にある難しさを探ってみると、自分が没頭しやすい領域が見えてきます。たとえば普段より少しだけ高度な案件を引き受けたり、自己学習の課題を一つ上のレベルに設定したりするだけでも、集中力が引き出されるでしょう。
3.振り返りを重ねて最適ゾーンを探す
最後に、「何が楽しく、どこで苦労したか」を定期的に記録する習慣を作ると、次の目標設定がさらに適切になっていきます。人は調子が悪い時に「自分には向いていないのかも」と思いがちですが、実際には単に難易度が高すぎるか、逆に低すぎて退屈していただけという可能性もあります。
数日に一度で構いませんので、「ここはまったく飽きずに集中できた」「ここは不安が先に立って進まなかった」という具体的な場面を振り返り、それを踏まえてチャレンジのレベルや目標設定を少し変えてみる。
こうした調整を繰り返すうちに、自分なりの最適ゾーンが見えてきて、成長のサイクルが自然に回り始めます。フロー状態に入ると、自分が伸びていく手応えを強く感じられるため、モチベーションが高まります。初めは小さな目標設定からで大丈夫です。上達のサイクルに乗り、自分のコーリングが関わる分野で「もう少しうまくできそうだ」と思えたら、自然とさらに高い山へ挑戦したくなるはずです。そうした“やってみたい”という気持ちこそが、自分の成長を加速させ、コーリングを育んでくれます。







