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心理学者が明かす「いつも笑顔な人」の秘密 なぜ機嫌よくいられるのか?

榎本博明(心理学者)

2025年11月07日 公開

心理学者が明かす「いつも笑顔な人」の秘密 なぜ機嫌よくいられるのか?

いつも笑顔で機嫌がよさそうに見える人。その明るさは、生まれつきの性格によるものなのでしょうか。

心理学者・榎本博明さんは、彼らのポジティブな気質の背景には「気分一致効果」という心理メカニズムが働いていると指摘します。気分一致効果とは、そのときの気分に一致する感情をもつ出来事が記憶に残りやすくなるという心理法則です。本稿では、書籍『なぜあの人は同じミスを何度もするのか』から、その仕組みを解説します

※本稿は、榎本博明著『なぜあの人は同じミスを何度もするのか』(日経BP)を一部抜粋・編集したものです。

 

「笑顔でいる方がうまくいく」は心理学でも実証される

笑顔は周囲を明るくする。笑顔の人がいるだけで、職場の雰囲気がよくなる。仕事上のやりとりも、笑顔があれば気持ちよく進む。こうした笑顔のもつ効果はだれもが知っていることだが、笑顔を絶やさないのはなかなか難しい。

 

「笑顔が大切というのは、自分でもよくわかっているんです。営業の研修でも、まず第一に心がけるべきは笑顔だと言われたのを覚えていますし......」

――笑顔を心がけようっていうのは、よく言われますね。

「自分でもできるだけ笑顔でいたいって思ってるんですけど、気がつくと真顔になってるんです」

――笑顔を心がけているつもりでも、気がつくと真顔になってしまっていると。

「はい、そうなんです。ふと自分を振り返ると真顔になっている。慌てて笑顔をつくるんですけど、いつの間にか無意識のうちにまた真顔になってる。何やってんだろう、って感じです」

――そうなんですね。でも、仕事の打ち合わせとかをしていると、真顔でないと不自然な場面もあるんじゃないですか。ずっと笑顔でいる方が、かえって不自然にならないですかね。

「そう言われれば、たしかにそうですね。ずっと笑ってたら真面目に考えてないみたいで、まずいですね。ちょっと説明の仕方がおかしかったかなあ......なんていうか......」

――真顔になることがあるのは当然として、そうした合間に笑顔を絶やさずに和やかな雰囲気を醸し出したいと思っているのに、ついつい笑顔を忘れて真顔にばかりなっている、っていう感じでしょうか?

「そう、まさにそんな感じです。こっちが真顔だから、向こうも真顔になってしまう。それで和やかな雰囲気を醸し出すことができていないんです」

――まあ、仕事上のやり取りだから真剣勝負なわけだし、真顔になるのも仕方のないことだとは思いますけど。

 

なぜあの人はいつも機嫌が良さそうなのか

「それはそうなんですけど......じつは、同じ部署の先輩にいつも笑顔の人がいるんです。もちろん真剣な表情のときもあると思うんですけど、その先輩と話したり廊下ですれ違いざまにちょっと言葉を交わしたりすると、すごく気持ちいいんです。あんなふうになれたらなあ、って思うんです」

――そういう先輩が身近におられるんですね。それなら良いお手本になりますね。

「ええ、そうなんですけど......それがなかなか難しくて......」

――その先輩みたいにいつも笑顔を絶やさずにいるのが難しい、ということですか?

「ええ。あの先輩みたいになれたら、ほんとにいいんですけど、自分には無理だなあ、って思ってしまって......」

――どういう点で無理だと思われるんですか?

「その先輩は、ただ笑顔が多いっていうだけでなく、日頃からいつも機嫌が良さそうな表情をしていて、不機嫌な表情をしているのを想像できないんです。仕事をしていると、思うようにいかなくて、へこんだり、嫌な気分になることもあるじゃないですか」

――それはそうですね。落ち込むこともあるでしょうし、自己嫌悪に陥ったり、あるいは人の態度や言葉に傷ついて嫌な気分になることもあるでしょうね。

「ですよね。でも、その先輩を見てると、上司から叱られた後も、営業がうまくいかずに成績が伸びないときも、嫌な表情をしないんです。いつも前向きな表情なんです」

――ネガティブな状況でも、いつも前向きな表情をしてる、ということですか?

「ええ。なんていうか......私なんか、上司から叱られたときとか、同僚から『あまり落ち込むなよ』って励まされたりするから、へこんでるのが表情に出ちゃってるんですよね。人から嫌味を言われてムカッときたときなんかも、同僚から『あまり気にするなよ』とか言われるから、ムカついてるのが表情にあからさまに出てるんですよね。でも、その先輩のそんな表情は見たことがないんです」

――落ち込んだり、ムカついたりとか、いわゆるネガティブな気分になりそうなときも、けっしてネガティブな表情を見せず、笑顔を絶やさない、と。

「そうなんです。どうしてそんなときも笑顔でいられるのか、ほんとに不思議です。鈍感なんですかね」

――日頃のやり取りからみて、鈍感な方なんですか?

「......鈍感って感じじゃないですね。よく気配りができる人だし、むしろ繊細な感じがしますね......ってなると、やっぱり鈍感力じゃないですよね。そうすると、内心へこんだりムカついたりしても、人からわからないように、顔の表面に笑顔を貼り付けて、無理やり抑えこんでるんですかね」

――その方はかなり無理をしているんでしょうかね。

「うーん......そんな感じもしませんね。ごく自然に感じがいいんですよね。どうしたらあんなふうに穏やかな笑顔でいられるのか、ほんとに謎です」

――真似と言ったら語弊があるかもしれませんが、笑顔で過ごそうとしたことはあるんですよね。

「ええ。自分なりにチャレンジしたんですけど、気がつくと真顔......」

――笑顔でいるときと真顔のときとで、どことなく気分が違うなって感じたことはありませんか?

「気分が違う......そう言われてみると、笑顔でいるときの方が気持ちに余裕があるっていうか、人から何か言われてもおおらかに反応できたことがある気がします」

――じつは、表情と気分との間には密接な関係があるんです。その先輩も、もしかしたら、意識して笑顔でいるのが常態化することで、気持ちに余裕ができて、ごく自然に笑顔でいられるようになったのかもしれませんね。

 

わざと笑顔になることで、ほんとうに楽しい気分になれる

そこで、笑顔つまり表情と気分と記憶の不思議な関係について解説することにした。

たとえば、こんな心理学の実験がある。

まずは、「楽しい気分にさせるような新聞記事」と「怒りを喚起させるような新聞記事」を読んでもらう。

そのあとで、半数の人たちには、微笑みの表情をしながら新聞記事を思い出すようにしてもらった。残りの半数の人たちには、不機嫌な表情をしながら新聞記事を思い出すようにしてもらった。

その結果、とてもおもしろいことがわかったのである。微笑みの表情で思い出した人たちは、楽しい気分になるような記事の方をよく思い出した。それに対して、不機嫌な表情で思い出した人たちは、怒りを喚起するような記事の方をよく思い出したのだった。

つまり、同じ新聞記事を読んでも、表情によって思い出す内容に明らかな違いが出たのだ。

このような実験結果は、思い出すときの気分に馴染む記憶が引き出されやすいという気分一致効果に沿ったものと言える。とくに興味深いのは、顔面表情をわざと操作するだけで、その表情にふさわしい気分が喚起されるというところだ。

気分が良いと笑顔になり、嫌な気分だと不機嫌な表情になるというのは、ごくふつうの流れだが、それとは逆方向の気分と表情の関係があることがわかったのだ。

わざと笑顔になることで、ほんとうに楽しい気分になれる。だから、気分一致効果により、楽しい新聞記事を思い出しやすくなる。一方、わざと不機嫌な表情をすれば、ほんとうに嫌な気分になる。だから、気分一致効果により、嫌な気分になるような新聞記事を思い出しやすくなる。

記憶の気分一致効果は、思い出すときだけでなく、記憶に刻むときにも作用する。つまり、気分に馴染む出来事を思い出しやすいだけでなく、気分に馴染む出来事を記憶に刻みやすい。

つまり、ポジティブな出来事やネガティブな出来事を同じように経験しても、ポジティブな気分でいる人はポジティブな出来事をよく覚えていて、ネガティブな気分でいる人はネガティブな出来事をよく覚えているのである。

ここから言えるのは、当初は無理をして笑顔をつくっていても、そのうち気分一致効果によってポジティブな出来事が記憶に刻まれたり、ポジティブな出来事が思い出されたりして、気分が自然に上向くことが期待できる、ということである。

これでいつも笑顔でいられる人の謎が解けたのではないか。はじめのうちは多少無理をしてでも笑顔でいるようにすると、その表情が楽しい気分を生み、そこに記憶の気分一致効果が作用し始めて、気分に馴染むポジティブな出来事が記憶に刻まれ、また過去を振り返ればポジティブな出来事が蘇り、楽しい気分になる。こうしたことが積み重ねられることで、ごく自然に笑顔でいられるようになるのである。

こうしてみると、いつも笑顔でいれば良いことがあるといった俗説も、けっして侮れないことがわかるだろう。

 

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