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地震、台風...自然災害で多額の保険金を支払っても、保険会社が破綻しない理由

植村信保(福岡大学商学部教授/キャピタスコンサルティング・マネージングディレクター〈非常勤〉)

2025年10月20日 公開

日本では、時に大きな災害に見舞われ、多額の保険金が発生する

地震や台風などが頻発する日本では、自然災害によって莫大な補償が発生することがあります。支払い能力を失うことは、保険会社としてあってはならないこと。損害保険会社は、どのようにリスク管理をしているのでしょうか。保険業界のウラ側を知り尽くした著者が解説します。

※本稿は、植村信保著『保険ビジネス 契約者から専門家まで楽しく読める保険の教養』(クロスメディア・パブリッシング)より一部抜粋・編集したものです。

 

時には1兆を超える支払いも

日本では台風による被害など風水災害が頻繁に発生します。地震・噴火・津波による被害も決して少なくありません。このような自然災害で役に立つのが損害保険です。日本の損害保険会社は大規模な自然災害が発生するたびに、多額の保険金を支払っています。

 

過去の風水災害による高額な保険金支払い事例ワースト5
 (※ 日本損害保険協会「日本の損害保険ファクトブック2024」より)

(1)平成30年台風21号(2018年9月発生):1兆678億円
(2)令和元年台風19号(2019年10月発生):5826億円
(3)平成3年台風19号(1991年9月発生):5680億円
(4)令和元年台風15号(2019年9月発生):4656億円
(5)平成16年台風18号(2004年9月発生):3874億円

 

過去の地震保険による高額な保険金支払い事例ワースト5
 (※ 日本損害保険協会「日本の損害保険ファクトブック2024」より)

(1)平成23年東北地方太平洋沖地震(2011年3月発生):1兆2896億円
(2)平成28年熊本地震(2016年4月発生):3913億円
(3)福島県沖を震源とする地震(2022年3月発生):2742億円
(4)福島県沖を震源とする地震(2021年2月発生):2513億円
(5)大阪府北部を震源とする地震(2018年6月発生):1251億円

 

かつての個人向け火災保険は文字どおり「火災」による損害を補償するためのもので、風水災害を補償していませんでした。

1959年に発生した伊勢湾台風で甚大な被害が生じたのをきっかけに、損害保険会社は徐々に火災保険で風水災害を補償するようになりました。現在は多くの火災保険で地震・噴火・津波を除く自然災害を補償し、実質的に風水災害保険として機能しています。

他方、住宅向けの地震保険は政府と損害保険会社が共同で運営しています。大地震が発生すると被害が広範囲にわたり、損害額が多額となるためです。

64年に発生した新潟地震をきっかけに、地震保険制度が誕生しました。民間だけではなく、政府が関与しているうえ、1回の地震による保険金の支払限度額も定めています。

政府が関与している地震保険とは違い、風水災害の補償は民間の損害保険会社が提供しています。

大手損保(東京海上日動、三井住友海上、損保ジャパン、あいおいニッセイ同和)の収入保険料はいずれも毎年1兆円を上回るとはいえ、これほど多額の保険金をどうして支払うことができるのでしょうか。

1つは、高度なリスク管理体制に裏付けられた支払余力の確保ができているためです。保険会社は個人や企業のリスクを引き受ける、いわばリスクマネジメントのプロフェッショナルなので、長年の経験に加え、最新の技術も駆使してリスクを引き受けています。

たとえば保険会社では、風災や水災による損害が生じるリスクを、統計や工学的知見などを活用して金額で表し、それに見合った準備をあらかじめ行っています。

 

リスクを外部に移転する

第二次世界大戦後で最大の被害をもたらした59年の伊勢湾台風は、70年に1度起きうるレベルの台風とされていますが、大手損保では200年に1度、あるいはそれ以上の風水災害に備えたリスク管理を行っています。

もう1つの理由は、すべてのリスクを自社だけで抱え込むのではなく、「再保険」を使ってリスクを外部に移転していることが挙げられます。

再保険とは保険会社が加入する保険のことで、保険会社は引き受けたリスクの一部を他の保険会社に引き受けてもらい、自らが管理したいと考えるリスクのみに限定するようにしています。スイス再保険やドイツのミュンヘン再保険、日本のトーア再保険のように、再保険取引を専門に行う保険会社も存在します。

たとえば、大規模災害による支払見込額が一定の確率のもとで100億円だとしましょう。すべてを再保険として出してしまったら、リスクは消えますが、保険会社として利益を得ることができません。

そこで、発生頻度が大きい部分と小さい部分は自社で抱えることにして、その間の、「一定の発生可能性があり、支払見込額もそれなりに大きい部分」を外部に出す、といった再保険の使い方をしています。

2018年度には、先に挙げた台風21号をはじめ大規模な災害が相次ぎ、火災保険の保険金支払額が業界全体で1・5兆円を超えました。しかし、損保各社は再保険を活用していたことで、実質的な支払額が半分程度におさまりました。

ただし、保険金支払いの基礎となるのは、あくまでも加入者から集めた保険料です。保険会社が考えていた以上に災害が頻発してしまうと、保険料率を引き上げる必要があります。大規模な自然災害が多くなっていることや修理費の高騰などもあって、このところ保険料率の引き上げが続いています。

著者紹介

植村信保(うえむら・のぶやす)

福岡大学商学部教授/キャピタスコンサルティング・マネージングディレクター(非常勤)

大手損害保険会社、格付会社アナリスト、金融庁(任期付職員)などを経て、2020年から福岡大学で「保険論」「リスクマネジメント論」を担当。専門は保険会社のリスク管理、健全性規制など。主な著書は『経営なき破綻 平成生保危機の真実』(日本経済新聞出版社、2008年)、『利用者と提供者の視点で学ぶ保険の教科書』(中央経済社、2021年)など多数。
個人ブログ https://nuemura.com/

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