会社を辞めるタイミング、いつがベストなのでしょうか。転職定着マイスター・川野智己さんは、退職には「得する辞め方」と「損する辞め方」があると語ります。書籍『転職に向いてない人がそれでも転職に成功する思考法』から、その考え方を紹介します。
※本稿は、川野智己著『転職に向いてない人がそれでも転職に成功する思考法』(東洋経済新報社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
得する辞め方: 賞与(ボーナス)支給のタイミングを見極める
もし、あなたの退職時期が賞与の支給時期と重なるようであれば、退職日を、会社の規定で定められている「賞与支給基準日(この日まで在籍していれば賞与が支給されると規定されている日)」以降に設定することが望ましいと言えます。なぜなら、支給基準日よりも前に退職してしまうと、原則として賞与は一銭も受け取れないことになるからです。
また、転職先の企業では、入社直後の賞与は、在籍期間が短いことを理由に満額支給されることはほとんどありません。ですから、現在勤務している企業からは、できる限り満額の賞与を受け取ってから退職することをおすすめします。
内定を得たら速やかに現在の勤務先に退職の意向を伝えるのが原則ですが、もし賞与支給に関する人事評価の査定時期と重なるようであれば、ご自身の評価が決定するまで、退職の申し出を少し待ったほうが有利になる場合もあります。
賞与の総額は、多くの場合、部署ごとや会社全体の業績に基づいて原資が決まっており、その原資を社員個々の人事評価に基づいて分配する形になります。いわば、社員同士の「ぶんどり合戦」のような側面もあるのです。
そのような状況の中で、あなたが「近々辞めます」と早々に申し出てしまったらどうなるでしょうか。「どうせ辞める人間に、手厚く支給する必要はないだろう」と判断され、人事評価を不当に下げられ、最後に受け取る賞与額が大幅に減らされてしまう、ということも往々にして起こり得るのです。
もちろん、これらの判断は、後任者への引き継ぎに必要な期間との兼ね合いも考慮する必要がありますが、ご自身の正当な権利として、念頭に置いておくといいでしょう。
損する辞め方、してはいけない辞め方:安易な退職代行サービスの利用と営業秘密の漏洩
・退職代行は最後の手段
「もう、現在の職場とはいっさい関わりたくない」
「上司に退職を言い出すのが怖い」
そんな思いから、最近では「退職代行サービス」を利用する人が増えています。これは、退職に関わるいっさいの手続きを、本人に代わって業者が会社側と進めてくれるというものです。
当然、依頼した当日から出社しないことになるため、業務の引き継ぎも行われずに退職するという形になります。
企業側は、多くの場合、法的には退職代行サービスからの申し出に従う義務はありませんが、「そこまでするのであれば、引き止めても無駄だろう」と考え、結果として代行サービスからの要請を受け入れて手続きを進めるのが一般的です。
あなたがこのサービスを利用することを、否定はいたしません。たとえば、深刻ないじめやハラスメントを受けており、身の危険を感じているような状況であれば、有効な手段の1つとなり得るでしょう。
しかし、そうでない限りは、できるだけご自身で退職の手続きを行うことをおすすめします。
なぜなら、前述のとおり、企業側に感情的なしこりが残る可能性があるだけでなく、仮に双方の間に何らかの誤解があった場合に、それを解き、関係を修復する機会すらも失われてしまうからです。
勇気を出して上司や人事担当者と直接話し合ってみれば、実は退職するほどの問題ではなかったと判明したり、あるいは会社側から改善策が提示されたりする可能性もゼロではないのです。
退職代行サービスに安易に頼ることは、問題解決から逃避してしまうことにもつながりかねません。安易に利用するのではなく、まずは一度、冷静に状況を考えてみる価値はあるでしょう。
・営業秘密・顧客情報の持ち出しは絶対NG
もう1つ、絶対に避けなければならないのが、前職の営業秘密や顧客情報を持ち出す行為です。数年前には、ある回転寿司チェーンの元役員が競合他社へ転職する際に営業秘密を持ち出し、不正競争防止法違反で立件されたという事件が大きく報道されました。
転職者は、新しい職場で「1日も早く成果を出したい」「さすが、凄いと言わせたい」という気持ちが強くなるあまり、思わず、前職で得た顧客情報や開発に関する機密情報などを持ち出してしまいたくなる誘惑に駆られることがあります。
特に、それが「自分が苦労して収集した情報だ」「自分が心血を注いで開拓した顧客だ」といった思い入れが強ければ強いほど、安易に手を染めてしまいがちです。
しかし、ひとたびこの問題が発覚すれば、以前の勤務先企業から法的な責任を追及されるだけでなく、新しい転職先の企業からも厳しい目で見られることになります。
「わが社は、そのような情報を持ち込んでほしいとは一言も言っていない。これは、この転職者が独断で勝手に行ったことだ」と突き放され、けっきょく、転職先の企業にも居場所がなくなってしまう、という最悪の事態も想定されます。
このような不正行為は、「転職に向いていない人の特徴⑧詰めが甘い人」や「転職に向いていない人の特徴⑨肩に力が入っている人」が、目先の利益に目がくらんで犯しやすい過ちであり、プロフェッショナルとしての倫理観が問われます。
まずは、現在勤務している企業の就業規則や機密保持規定などを改めて確認し、何が営業秘密に該当するのかを正確に把握しておきましょう。そして、退職時には、関連する資料やデータはすべて会社に返却し、いっさい持ち出さないことを徹底してください。








