回転ずしでしょうゆのボトルをなめる、店頭に陳列されている商品にいたずらをする...公共の場で非常識な行動を繰り返す「迷惑系」が社会問題化して久しい。彼らはなぜ絶えることなく、次から次へと現れるのか。そしてどんどんエスカレートしていく理由とは?そこに生じるメカニズムと、我々の心の奥底にも潜む「承認欲求の闇」を精神科医が解説。
※本稿は、西多昌規著『休む技術2』(大和書房)より一部抜粋・編集したものです。
怒られるほどドーパミンが活性化する
コロナ禍では一時危機的状況にありましたが、レストランや居酒屋など外食産業にも人が戻ってきました。しかし、新たな問題が生じてきました。若者による迷惑動画のSNS拡散・炎上です。
主にチェーン系レストランで、若者がしょうゆのボトルを舐める、備え付けの紅生姜や福神漬けを直に食べまくる、唾をつけた爪楊枝を容器に戻すなど、常識では考えられない行動を取り、さらにその行為の動画を面白半分にSNSに投稿したあげく次々に炎上し、警察沙汰になったことは、皆さんもご存じでしょう。
被害を受けた店は、後始末に追われ、客数が大幅に落ち込んだり、株価が急落したりするなど、大きな影響を受けました。動画をアップした張本人とその家族には、多大な賠償金が請求され、のちに和解が報じられたものの、本人や家族にはもちろん、学校にもクレームや激しい誹謗中傷が大量に届いたとも聞きます。
どうしてこんなことをしてしまうのか、いろいろ分析が行われています。若い人の脳は、特に前頭前野が未成熟で、衝動的で感情コントロール能力が乏しく、刺激を求める傾向が強いと言われています。子どもは、いたずらをして怒られるほど刺激物質のドーパミンが活性化するため、関心を惹くためにますます度を越したいたずらをするようになります。
迷惑動画がどんどんエスカレートしていくのは、ドーパミンによる依存症のメカニズムも一因です。
また若い人のなかでも、劣等感やコンプレックスを抱えている人ほど、身の丈に合わない、より背伸びをした自分を演出しようとします。ネット上では、他人とわいわいやってリア充をアピールし、画像や動画もセルフィーや各種アプリで実物以上に加工するなど、タガがだんだん外れていきやすいのも特徴です。
若者だけではない「自己肯定感」の求めすぎ
よく考えてみると、こうしたことは、若者だけの問題でもないことにお気づきでしょう。迷惑行為の動画の拡散は若い人に比べれば少ないのかもしれませんが、炎上商法のようなSNS発言、視聴回数稼ぎの過激な動画投稿は、むしろ大人に多いような気がします。
若い人も大人も、「いいね」やリプライの数、あるいはフォロワーの数などが、そのまま自己肯定感に反映されます。自己肯定感は肯定的に捉えられることが多いですが、子どものいたずらのように、刺激が強くないと満足できなくなっていく、薬物のような側面ももっています。
「映え」ブームの背景には、Instagramのフォロワーといいね、支持コメントを求める心理があります。X(旧Twitter)では、フォロワー数でマウントを取る・取らないの攻撃的なやり取りも、よく目にします。Facebookでも、いいねが少ないと、否定されたような気分になることもあるでしょう。
若者の迷惑行為は劣等感やコンプレックスの反動と言いましたが、大人でも劣等感やコンプレックスがなくなっているわけではないのです。SNSで自分を大きく見せようとする人は、その分、劣等感やコンプレックスが強い傾向があります。
SNSでのレスやフォロワー数を気にしすぎている人は、要注意です。自己顕示欲、あるいは自己肯定感が強い人は、自分が他人からどう見られているかを意識しすぎていたり、素晴らしい自分でないと認めてもらえないと思い込んでいるものです。自己肯定感を求めるあまり、無意識に疲れているのかもしれません。
SNSへの投稿自体を制限しろとは言いません。SNSにはかなり依存性があり、他人からやめろと言われても、なかなかやめられないからです。むしろ、日常生活のコミュニケーションに目を向けてみましょう。
強すぎる自己肯定感のあまり、「わたしは」「俺が」と、自分が主語の発言が多くなってはいないでしょうか。相手に関心を持って、自分の話をするよりも相手の話を聞く時間を増やす、「あなたは」など相手が主語のフレーズを意識するなど、気をつけていきましょう。
ネット上では、どうしても自分をアピールし、大きく盛りがちです。しかし、実際のコミュニケーションでそういうことをしてしまうと、他人から嫌われるナルシシストになり果ててしまいます。
炎上動画は世間から厳しい批判を受けてやりすぎに気づきますが、ナルシシストは本人が気づかないうちに、周囲から嫌われ、どんどん孤立していってしまいます。








