個人で休む欧州、会社ごと休む日本 長期休暇に表れる文化の差
2025年12月19日 公開
お盆期間以外の8月の仕事日は、いつも通りに働く。日本ではこの考え方が当たり前だと思いますが、ヨーロッパの一般常識として、「8月に重要な仕事を入れることはない」と、日本に在住する著者のサンドラ・ヘフェリンさんはいいます。
そうした文化の違いによってトラブルが生じることもあったと語る、関東の日本支社(本社はドイツ)で働いていたドイツ人女性のウテさん。ヨーロッパ人と一緒に働く上で知っておきたい文化の違いを、書籍『ドイツ人の戦略的休み方』より紹介します。
※本稿は、サンドラ・ヘフェリン著『ドイツ人の戦略的休み方』(大和出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
ヨーロッパの8月はみんなが休暇シーズン
ヨーロッパの感覚だと、「8月はそもそも休暇シーズン」です。8月に重要な仕事を入れたり、8月に「普段通りの進行」を求めたりするのは、ヨーロッパの一般常識として「そもそも、しないこと」なのです。
ただ日本の会社で働く日本人に、そんなヨーロッパ人のやり方は通用しません。したがって、いつもよりも仕事のスピードが遅いと、当然日本の会社から確認の連絡が入ったり、クレームが来たりするわけです。これは日本人とヨーロッパの人が長期に渡って仕事の付き合いをすると、必ずと言っていいほど起きる問題です。
ヨーロッパの人の共通認識として「8月は、まず仕事ではないよな......(誰もつかまらないし)」というのが根底にある一方で、日本人は「8月丸々、誰も連絡がつかなくなる会社があること」なんて想像もつかないわけです。そしてたとえ先方の会社の誰かと連絡がついたとしても、それは別の業務を担当している管轄外の人ということがあるので、結局はいつもの担当者が何週間に渡る夏休みから帰ってくるまで「待つ」しかありません。
そんなわけでウテさんは、8月になると毎年のように「○○はまだですか」「対応が遅い」という日本の会社からのクレームの対処に追われる日々だったのだとか。
お正月もお盆も会社が営業していないのは日本独特
「日本に赴任してきたばかりの外国人」が日本の慣習に戸惑う場面も多々あります。例えば、日本では暗黙の了解で1月の第1週に仕事で重要な案件は入れないものですが、それはお正月を多くの人が家族と過ごし、1月の1週目は会社によってはそもそもお休みにしているからです。
ところが日本のカレンダーを見ると、「祝日」は「1月1日」だけだということがありますから、新しく日本にやってきた外国人は「1月2日からバリバリと仕事をしようとする」わけです。それを「いや、ちょっと待ってください!」と止めるのは周囲の日本人ということがあります。
ちなみに私もかつて1月2日に暴走しようとするドイツ人上司(人を面接に来させようとした)を止めたことがありますが、最初は怪訝な顔をされたものです。でも「1月1日や2日に日本のお宅に電話をするのは、ドイツ人のお宅にクリスマスイブに電話するようなものですよ」と言ったら、わかってくれました。
それでも「カレンダーを見ると、祝日は1月1日だけなのに、1月の最初の何日間も会社が営業していないのは納得できない......」と嘆く外国人にビジネスの面ではよく出くわします。
お正月と似ているのが8月の「お盆」の時期です。何年か前に「山の日」という祝日ができるまでは、それこそ日本の「8月」のカレンダーに祝日はありませんでしたが、暗黙の了解でお盆の週には仕事の大事な予定は入れませんし、2、3日はお盆休みで営業していない会社もあります。
ただお盆に関しては「8月」ということもあり、「日本人も夏休みなのかな?」と外国人に理解してもらえることが多く、1月のお正月ほど驚かれませんでした。何はともあれ、国による文化の違いや、考え方の違い、コミュニケーションの仕方の違いなどはさまざまなところであらわになることがありますが、まずは「カレンダー」につまずく人も多いわけです。「カレンダーの祝日と実際のその国の人の動き」というのは必ずしも一致しないのは面白いですね。
ドイツ企業は会社のイベントも社員の休暇に配慮する
ウテさんの会社では、クリスマス会も忘年会も毎年12月15日か16日あたりにおこなわれていたのだとか。理由は「ドイツ人の従業員が、クリスマスを母国のドイツで過ごすために12月の中旬を過ぎると長期の休暇に入るから」です。
このエピソードから見えてくるのは、ドイツで「長期休暇」は「毎年のルーティン」であり、仕事はもちろん、クリスマス会や忘年会などのイベントも、休暇と被らないように、あらかじめ時期に配慮して開催されるということです。
仕事はちゃんとする一方で、毎年のように長期の休暇も必ず取る。ドイツ人は「昨年は長期で休んだから、今年は仕事を頑張る」とは考えません。それはどんなに仕事に対してやる気があっても、仕事を中心とした日々が続けば心も体もそれなりに疲れることを知っているからです。
疲れてくると、人間はパフォーマンスが落ちます。疲れた心と体を回復させるためには「定期的に休む」しかありません。例えば「2週間、仕事を休むこと」は、パッと聞いたら「効率が悪い」ように聞こえるでしょう。でも、実際はどうでしょうか?
3年間、仕事に追われて休みなしで働いた人が心身ともに不調をきたし、出社できなくなったり、バタンと倒れて帰らぬ人になったら......?「休むのは人間的」というのもそうですが、何よりも「休むことはパフォーマンスを上げるために必要」であり、効率がいいのです。







