12月刊行の最新著書『悪口を悪く言うな!』(Gakken)では、「ダサいサッカーファン」「自称お笑い好き」など、ファン文化に対する鋭い視点を展開したウエストランド・井口浩之さん。
SNSで誰もが自由にコメントできる今の時代、ファンの存在も多様になりました。井口さんは"にわか"の盛り上がりは歓迎しつつも、表に立つ人にあれこれ指示を送る「指示厨」の存在には、少し不穏さを覚えると話します。
森保監督へ悪口を言った人はちゃんと謝るべき
――新刊『悪口を悪く言うな!』の中で、井口さんはサッカーファンとして「ダサいサッカーファンにもイラッとくる」と書かれていましたよね。「海外にしか興味がない」「日本のサッカーを下に見るだけ」の人について言及されていました。
【井口】いや、だからバカなんですよ、あいつらは! ネットとかで海外サッカーを見られるようになって、急にイキりだして。ゲームの「ウイニングイレブン」が象徴的ですけど、あいつらゲームの知識だけで語ってるんですよ。海外に行って直接見てるわけでもなく、ゲームの知識でね。
で、それっぽいYouTuberが戦術だなんだと語るから、「わかった気」になって。何でもないんだから、そんなの! それで代表監督の森保(一)監督の悪口だけは言うでしょ。やってること、マジでやばいですよ。あんなの、サポーターでもなんでもない。本当にどうしようもない。
昔「岡ちゃん、ごめんね」って流行語があったじゃないですか。代表監督だった岡田武史さんをボロクソに叩いて人たちが、ワールドカップで結果を出したときに「ごめんなさい」って。あの頃はまだ、ちょっとリテラシーがあったんですよ。"謝る面白さ"というか、「本当に申し訳ない」という感覚が。
今はもう、森保監督と代表チームが結果を出しても「いやいや、運が良かっただけでしょ」「でも実力的には〜」とか言うだけ。で、負けたら「ほらね」って。ずるいんですよ、なんでも言えるから。
――そう考えると、かつてと比べて現在はあまり良くない方向に行ってしまっているのでしょうか...
【井口】まあ、そうかもしれませんね。にわかファンがいないと盛り上がらないから、にわかはたくさんいた方がいいんですよ。でも「知った風な口をきく奴」が増えすぎた。戦術がどうとか、データがどうとか、どうでもいいんですよ、そんなの。結局、大事なのは"気持ち"なんだから! いろいろ言っている人は、たいしてスタジアムにも行っていないんだと思いますよ!
評論したがるお笑いファンは、基本的に"皆目見当違い"

――ファンといえば、お笑いファンも"推し活"の対象として芸人を追いかけたり、M-1の季節になるとSNSにお笑い関連の動画やツイートが一気に増えたりしますよね。本の中では「自称お笑い好き」への厳しいコメントも書かれていました。お笑いファンが"評論家化"している状況については、どう思われますか?
【井口】まあ、いろいろ言うのも一つの楽しみなんでしょうね。そこまでは別にいいと思うんですよ。ただ、基本的には"皆目見当違い"ですからね! 本当に。
僕、M-1で優勝したときに、お笑いファンに向かって「お前ら皆目見当違いなんだよ!」って言ったんですよ。それを「面白い!」って笑ってくれて、そこからファンになってくれた人が、3年くらい経ったら同じような"評論家目線"になってる。
「お前、それを突っ込んだ僕を好きになったんじゃなかったのかよ!」って。なんでお前もそっち側に行ってんだよ! とは思いますね。
最近だと「指示厨」みたいな人たちもいますよね。ゲーム配信とかを見ながら「ここはこう動け」「ああしろこうしろ」と指示してくるタイプ。
あれがもう一般化していて、テレビ見ながらも「もっとこうすればよかったのに」とか、SNSに書く人が増えている。あれはちょっとヤバいと思います。
――"指示してくるファン"ですね。
【井口】そう。面白さがどうこうじゃなくて、「こうした方がいい」「もっとこうすればよかった」って、わかってないやつが言ってくる。そういうのが増えてる実感はありますね。
評論というより"指示"なんですよ。「こうしろ」「ああしろ」って。
でも、ファンにビビる必要なんか全くないですからね。本当に。
むしろ、全芸能人、ファンをもっと教育してほしいくらい。「何をそんなにビビってるんだ?」って思います。特に芸人なんて。
後輩のファンが僕の悪口を言っていたから「注意してよ」と言っても、何もしてくれないんですよ。意味わかんないでしょ。
――芸人さんにも、ファンにビビってしまう方は多いと感じますか?
【井口】みんなビビってるんじゃないですかね。なんでかは本当にわかんないですけど。
――最近は「平場」「ニン」みたいな言葉も、一般のファンが普通に使うようになってきました。こういう"ちょっと専門っぽい言葉"が広がる現象についてはどう見ていますか?
【井口】まあ、そうやって広まっていくもんなんじゃないですかね。だって、歌舞伎の言葉だって、今は僕らが普通に使ってたりするわけでしょ。
それに近いものはあると思いますよ。「使ってみたい」んでしょうね、そういう言葉を。
まあ、気楽に楽しんでくれる分には別にいいと思います。
――そういう専門用語を武器に、"評論"っぽいことをする人も多いですよね。
【井口】うーん......それを異常に嫌がる人もいるでしょうけど、僕はそこまでではないですね。どうせ全然違うし。
根本的に間違ってるんですよ、言ってることが。だから「恥ずかしいな」とは思いますけどね。「恥ずかしい人だな〜」って。
ただ、それより怖いのは、ファンとして楽しんでいるうちに、「僕が言ってないこと」をSNSに書いちゃう人ですよ。
さっきみたいに、僕が「若者全員ダメだ」とか、あえて主語を大きくして言ったとするじゃないですか。それを聞いて、「井口が誰々の悪口言ってた」とか書いちゃう人がいる。
きっと"良かれと思って"書いてるんでしょうけど、その誰かがエゴサーチして見つけたら、「井口、なんでこんなこと言ってたんだ?」となる。
お笑いなんて気楽に見てるから、一言一句覚えてるわけないし、「面白かったな」で終わればいいのに、余計なことを書いてしまう方がよっぽど怖いです。
――そういう人たちは、勝手に解釈してしまっているんでしょうか。
【井口】まあ、そうなんでしょうね。どこかで記憶が改ざんされて、「これも井口が言ってた気がするぞ」みたいになっていくんでしょう。
僕が言ってないことが、いつのまにか"僕の発言"になってる。そこは気をつけてほしいですね。
(取材・編集:PHPオンライン編集部 片平奈々子)








