テレビやSNS、人づきあいなどを通じて流れてくる大量の情報に疲れている人も多いのではないでしょうか?戦略コンサルタントの山本大平さんが、情報社会をかしこく生き抜く方法をお伝えします。
※本稿は、『PHPスペシャル』2026年1月号より内容を抜粋・編集したものです。
思い込みを手放して
私たちは情報過多の時代を生きている――。それを否定する人は、おそらくいないのではないでしょうか。
実際、私たちは江戸時代を生きた人の1年分、平安時代の人であれば一生分に相当する情報量を、たった1日で浴びていると言われています。DNAはほとんど変わっていないのに浴びせられる情報だけが膨大に増えたわけですから、すでに処理能力の限界を大きく超えていると私は思っています。
情報というとネット情報やテレビや新聞などの媒体からの情報を思い浮かべがちですが、「何かを判断し、行動する際に参照する」ものはすべて情報です。そこには、他人の意見や人そのもの、さらには自分自身の感情や思い込みなども含まれます。
「新しい情報はちゃんとキャッチする必要があるし、SNSでつながる人の数は多ければ多いほうがいい」と、あなたは思っているかもしれません。
でも、新しいかのように思える情報の中には、単に新しそうな名前をつけただけのものも多いですし、SNS上での多くの人たちとのつながりは、情報過多の最大の原因と言っても過言ではありません。つまり、情報やSNSに対する思い込みも、あなたを振り回す無駄な情報なのです。
こうした無駄な情報は、意図せず勝手にどんどん入り込んできます。だから誰もが情報の洪水に晒されて、余計なことに時間を取られたり、体や心がどっと疲れたりするのです。
この状況から抜け出すには、「情報を捨てる力」を身につける必要があります。もっと言えば、不要な情報そのものを捨てるだけでなく、情報を捨てることを阻む習慣も捨てなければいけません。それこそが、自分にとって本当に必要な情報を手に入れる第一歩になります。
正しい情報を得るために、捨てるといいもの
次のことを手放して、必要かつ正しい情報を効率よく手に入れましょう。
●メモを捨てる
人の本音は、社交辞令で飾ることができる言葉よりも、表情や声のトーンのほうに強く現れます。何でもかんでも書き留めようとすると、視線がメモばかりに向いてしまい、表情を読み取ることができません。また、声のトーンへの感度も落ちるので、本音をキャッチすることが難しくなります。
本当に重要な情報を取りこぼさないためにも、メモを取るのは最低限に抑え、視線を相手に向けて、そこから発せられるさまざまな情報をしっかり受け取るようにしましょう。
●また聞きを捨てる
私がかつて勤めていたトヨタ自動車では「現地現物」が重視されていて、聞いた話をそのまま報告しようものなら、「自分で見てきたのか」と一喝されました。「誰か」を媒介した伝聞情報は、正確とは限りません。
そうした情報を「事実」として受け取ってしまうと、茹で上がったカニしか見たことがない子供が、海にいるカニも赤いと思い込むのと同じことが起こってしまいます。本当に確実なのは、自分の目で確かめた情報だけ。無駄骨を防ぐという意味でも、「また聞き」の情報は潔く捨ててください。
●コメンテーターを捨てる
NHK紅白歌合戦の途中に挟まれるニュースのように、淡々と事実だけを伝える番組は貴重になり、最近はニュースがエンタメ化され、解説やコメントが必ず添えられるようになりました。それ自体の是非はともかくとして、忘れてはいけないのは、コメンテーターの発言は1つの見解または感想にすぎないということ。鵜呑みにすると、勝手な思い込みが増えるだけです。
「事実だけを受け取り、解釈は自分で行なう」という意識を持つだけでも、余計な情報に振り回されにくくなります。
「優しさにつながる情報」は捨てないで
家族や友人はもちろん、同僚や上司など、周りの人が抱える事情を慮る気持ちは大切にすべきです。体調が悪そうな様子や仕事を抱えすぎている気配、助けを必要としている状況のような「優しさにつながる情報」には、決して目をつぶらないようにしましょう。
ストレスから解放されるために、捨てるといいもの
人とのつながりを見直すことで無駄な情報が減り、もっと生きやすくなります。
●友達を捨てる
ここで言う「友達」とは、SNSでつながっている人たちのことです。安易な気持ちでつながった瞬間から、「いいねを押さなかったらどう思われるか」といった余計な気苦労が生まれます。
そもそもSNSでつながる友達がストレスの元になるのは、自分が本当に関わるべき人がどこまでなのかを決めるのが難しいからです。リアルな友達関係であれば、つきあいの濃淡が自然につき、人間関係のストレスは大幅に軽減します。そういう意味でSNSに参加しない、SNSをやめるという選択もありだと思います。
●即レスを捨てる
LINEの既読機能が生まれたあたりから、「即レスしなければ」と思い込む人が増えたように思いますが、本来すべてのメールやメッセージにすぐ返事をする必要はありません。重要度の低い連絡にまで即座に反応していたら、自分の時間はあっという間に奪われてしまいます。
あなたにはあなたの優先順位があるはずで、それを守れるのはあなただけです。明らかに即レスすべき案件とそうでない案件の境界線を引き、内容によっては堂々と無視するくらいの姿勢を持ってもいいでしょう。
●インプットを捨てる
情報というストレスから解放されるには、時にインプットそのものをすべてやめることも必要です。パソコンが定期的なシャットダウンを必要とするように、私たちの脳にも休息の時間が欠かせません。
充分な睡眠をとるのは大前提ですが、心身の疲れを強く感じるときは、あえて「ぼーっとする時間」を持つことを心がけてみてください。時間は5分でも30分でもかまいません。意識的に何もしない時間を持つことで心身がリセットされ、活力も自然と湧いてきます。
●覚えておかないとを捨てる
いい話や新しい言葉を聞くと「覚えておかないと」と反射的に思いがちですが、それはストレスの元になります。そもそも本当に必要な情報なら、無理に覚えようとしなくても自然と記憶に残るもの。また、あなたの記憶から抜け落ちたとしても、誰かの脳には残っていることが多いので、必要になったときにその人に聞けば済む話です。
「覚えておかないと」と焦る代わりに、忘れたときに頼れる人間関係をしっかりと構築しておきましょう。そうすることで心に余裕が生まれます。
よりよい人生を送るために、捨てるといいもの
後悔なく生きるために、今に目を向け、自分の価値観を大事にしましょう。
●人の意見を捨てる
周囲からもらうさまざまな意見の中には、根拠が薄いものも結構あり、単なる思い込みや偏見でものを言ってくる人も決して少なくありません。耳を傾けるべきアドバイスかどうか判断に迷ったら、「なぜ、そう思うのか」と相手に繰り返し尋ねることが大切です。
「なぜ」と5回ほど質問し、すべてに明確な答えが返ってきたら、それは聞くべき意見と言えるでしょう。「人の意見を捨てる」とは、すべての意見を無視するということではなく、根拠のない意見や思い込みによるアドバイスを聞き流すということです。
●成功体験を捨てる
成功の多くは偶然の産物であり、前提条件が1つ変われば結果は大きく変わります。小さな違いで、未来はまったく別のかたちになるのです。
ですから、過去の成功パターンをなぞったつもりでも、再現性は決して高くありません。同種の結果を求めても、うまくいかない可能性が高いでしょう。一方で、失敗には再現性があります。それゆえに、成功体験はその場限りのものとしてリセットし、同じミスを繰り返さないために失敗体験にこそ目を向けることが大切なのです。
●人生経験を捨てる
「思い通りの人生を送れている」という人は、ほとんどいないでしょう。大谷翔平選手は高校生のときに描いた人生計画通りに人生を歩んでいると言われますが、彼の人生にもイレギュラーな出来事は起き、それにきちんと対応してきたはずです。
統計学的にみても、予定外のことは必ず起きますし、人生というのはそのときそのときの選択によってつくられるもの。だからこそ、人生計画に縛られたりせずに、目の前のことに一生懸命取り組み、目の前にいる人を幸せにしようと努力することが大事なのです。そうすれば、自ずと幸福な未来を引き寄せられます。
情報を捨てた先に集中すべき1%がある
私たちが日々触れる情報の大半は、本質を見失わせるノイズです。それに振り回されている限り、本当に大事なことは見えてきません。だからこそ、余計な情報を潔く手放すことが大切なのです。
その先に残る重要な1%に意識を向けられたとき、自分に必要な行動が自然と浮かび上がり、成果も出しやすくなります。そして、その積み重ねが人生をより前向きで、真に豊かなものにしていくのです。
あなたにとっての集中すべき1%を、ぜひ大事にしてください。
【山本大平(やまもと・だいへい)】
F6Design株式会社代表取締役。京都大学大学院エネルギー科学研究科を修了後、トヨタ自動車に入社。その後TBSに転職し、マーケターとして活躍。アクセンチュアにて経営コンサルタントの経験を積んだのち、2018年にF6Designを創業。数多くの企業のコンサルティングを行なう。『消耗せずに成果が出る「情報の捨て方」』(三笠書房)など著書多数。
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