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キャリア養成の最先端は女子校にあり

杉浦由美子(ノンフィクション作家)

2013年03月18日 公開 2022年12月07日 更新

他県からの志願者も増加

そのスキルを身に付けるために女子大では、女子に適性がある専門職の資格が取れるカリキュラムなども行なっているが、女子校(中学校・高等学校)は生き抜くための力をどう育てていくことができるのか。

女子校も女子大同様、現在は「良妻賢母」を育てようという学校はなく、社会で活躍できる人材の育成を目的として、「キャリア養成」にシフトしている。ベストセラーになった辛酸なめ子氏『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)で「良妻賢母型」に分類された女子校の教諭が、「良妻賢母型なんてとんでもない。うちは自立した社会人を育てる教育をしているのに」と怒った、という話もある。

このキャリア養成の流れに、日本最古の女子校で「ごきげんよう」の発祥の地とされる跡見学園(東京都文京区)も対応している。

「手を動かしなさい、といいます。掃除で手が動いていない子がいれば、『ほら、手が動いていないわよ』といいます」というのは、跡見学園の清水裕子教諭。

このキャリア教育というメッセージがきちんと伝わっているか否かが、現在の女子校の人気の分かれ目といえる。

キャリア教育の打ち出しが成功しているといわれるのが、女優・広末涼子氏が通っていたことで知られる品川女子学院(東京都品川区)。企業から講師を招いての講演、グーグルやソニー生命保険株式会社などの企業への見学、起業のワークショップなどを通して、広く社会を学ぶカリキュラムを行なっている。

品川女子の卒業生(25歳)はいう。

「就職活動の際に、品川女子学院からOGを紹介してもらって会いに行きました」

つまり、生徒を大学に入れることだけを目的としておらず、卒業後もキャリアに対するフォローをしているのだ。

このような積極的なキャリア教育が評価されてか、品川女子学院は1997年度偏差値が44(結果R4)だが、2013年度では51(予想R4)と大幅にアップしている。

品川女子学院も進学校として注目されているが、さらに偏差値的に上をいく学校をみてみよう。

東京の女子校を牽引する御三家は、桜蔭(2013年 予想R4偏差値69)、女子学院(同67)、雙葉(同64)。この御三家を抜く勢いで進学実績や偏差値が上昇しているのが、池袋にある豊島岡女子学園(同66〈2月2日〉)。

それに続くのが、経堂(世田谷区)の鴎友学園(同59〈2月1日〉)、溝ノ口(神奈川県川崎市)の洗足学園(同59〈2月1日〉)、そして西荻窪(武蔵野市)の吉祥女子(同59〈2月1日〉)だ(注:日付は受験日。受験日によって偏差値が変わる)。この3校を、日能研では「キャリア3校」と呼んでいる。日能研の志望校調査によると、鴎友学園と吉祥女子は、埼玉県からの志願者も増えており、人気の程がうかがえよう。

 

大学の付属高校は人気ナシ

女子校離れがいわれるなかで、志願者数や偏差値、進学実績も上り調子の学校の共通点は、「大学の付属校ではない」ということだ。

ベビーブーム世代が大学受験を迎えた1980年代は、大学の付属校であることが女子校の人気の秘訣であった。当時の保護者は「女の子には大学受験の苦労をさせたくない」と、エスカレーター式に大学に進学できる女子校に娘を入れたがった。

だが現在、そう考える保護者は減ってきている。理由は、社会の変化だ。『日本経済新聞』(2012年12月12日付)の「付属校上がりはダメ? 驚く採用の新基準」という記事のなかでは、「難関大学の学生を採用しても学力もコミュニケーション能力もないケースがある。それを避けるために大学受験をサバイバルしてきていない学生……付属校あがりやAO入試組は排除したい」という主旨の考えをもつ企業採用担当者を紹介している。

このような社会や企業の評価を感じてか、「いまは慶應義塾と早稲田以外の付属校の生徒は、外部受験をしたがる傾向が強い」(都内の学校関係者)という状態だ。

そのため、大学の付属校や系列校も、進学校化が生き残りのカギとなっている。女子大の付属の女子校では、早い時期から進学校化を進めた大妻中学高等学校(東京都千代田区)は勝ち組といわれ、現在、上の女子大にそのまま進学する生徒はごくわずかである(ちなみに同じく、大妻の系列校の大妻多摩中学高等学校からの2012年度の内部進学はゼロであった)。

大妻は1997年度の偏差値が60(結果R4)、2013年度は56(予想R4)と、さほど変化がない。一方で、聖心女子学院(東京都港区)は過半数が高校から聖心女子大学に進学する。聖心女子学院の中学入試の偏差値は、1997年度が54(結果R4)で、2013年度は46(予想R4)と8ポイント下降している。吉祥女子の萩原茂広報室長はいう。

「受験生の保護者の方は、わが校に『付属校じゃないから子供を入れたい』とおっしゃいます。厳しい社会で生き抜いていくためには、まず大学受験ぐらい自分の力でクリアできなければ、と考えられるんです」

また、吉祥女子では時代に合わせたわけではなく、かつてから「キャリアガイダンスをやってきて、生徒たちに将来どうやって社会人としてやっていくのかを考えさせてきました。それが時流に合ったということです」という。

これは豊島岡女子学園も同じであろう。豊島岡女子学園はもともと裁縫学校であり、女子が経済的な自立のための手に職をつけるための教育をしていた。1980年代の豊島岡女子学園は、偏差値的には都立高校の滑り止めの位置にあったが、当時校長であった二木友吉氏は自ら教壇に立ち、年間800枚ものオリジナル教材プリントを配っていたという。校長がそこまでやるなら、ほかの教員も努力せざるをえない。この地道な努力と、もともとの学校がもつ「社会人養成」の教育方針が時流に合ったことで、いまの豊島岡女子学園の隆盛はあるのだ。

 

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著者紹介

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)

ノンフィクション・ライター

1970年、埼玉県生まれ。日本大学農獣医学部卒業後、会社員を経て、2005年よりライターに。『AERA』『婦人公論』などの雑誌やWEB上で、主に団塊ジュニア世代以降の女性の消費、ライフスタイルなどについての取材・執筆を幅広く行なっている。著書に、『腐女子化する世界』『ケータイ小説のリアル』(ともに中公新書ラクレ)など多数。

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