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家庭用のお米がそのままパンになる海外展開も視野に入れた「GOPAN」

滝口隆久(三洋電機コンシューマエレクトロニクス(株)家電事業部副統括部長)

2010年11月08日 公開 2022年08月17日 更新

家庭用のお米がそのままパンになる海外展開も視野に入れた「GOPAN」

 2010年11月10日、三洋電機は家庭にあるお米から手軽にパンをつくることができる世界初のライスブレッドクッカー「GOPAN」を発売する。お米を粉にしてパンにするのではなく、ペースト状にして焼き上げる、というかつてない手法だ。現状は注文が殺到し、発売を1カ月遅らせるという嬉しい事態が起こっていて、日本のみならず中国やシンガポールなど海外メディアからも取材を受けた。しかし、その開発の裏には大きな苦労が絶えなかった。

 もともと三洋電機は「お米」にこだわってきた。炊飯器事業が大きな柱の一つであり、10万円以上の炊飯器の市場シェアはほぼ5割にのぼる。そのような「お米を大事にする」という発想から、2003年に日本で初めて米粉パンベーカリーを、2005年には小麦アレルギーの方向けに、小麦ゼロの米粉パンをつくることのできる改良版を発売した。

 いずれも喜ばしい反応をいただいたが、その過程で新しい悩みが生まれた。グルテンを含まない米粉パンをつくるためのミックス粉が、一般のスーパーではなかなか手に入らないのだ。そこから家庭にあるお米やスーパーで手に入る食材からパンができないか、という目標が生まれたのである。

 まずはお米を米粉にしよう、と技術担当が細かい粉にするためミル刃の素材を変え、さまざまな試作をつくった。ようやくパンらしきものができたにもかかわらず、試食するとセラミック刃が削れ、見栄えはよいが口に入れるとジャリジャリするパンになってしまう。そのような実験を3年間ほど続けたが、最後は技術担当も「もうこれ以上、できない」と音を上げてしまった。

 しかしそこで長年、炊飯器開発を担当してきた「飯炊きおじさん」と呼ばれる技術者が、「一度水に浸けた状態で、砕いてみるのはどうだろう」というアイデアを出したのだ。

 そこから一気に展望が開けた。さらに試行錯誤を重ね、先に述べた米ペースト製法を確立した。2008年春のことだった。

 その後は家電事業部のなかで組織を融合させながら、開発・設計を進めた。そうやって技術の横串を刺せたことが、世界初の商品を生み出す原動力になったのだ。

 逆にいえば、おそらく世界でも、このような融合が行なえるのは三洋電機くらいではないか。そこにはいまだ、日本メーカーの「総合力」が脈々と生き続けている。

日本の食生活に「彩り」を

 そこから時を経て、いまや11月の発売を待つばかりとなった。僭越かもしれないが、「GOPAN」が大きな話題を呼ぶことで、日本の「食」がもっと豊かになれば、と思っている。

 わが国の主食は「米」にほかならない。しかし昨今、食料自給率の低下が叫ばれる一方、農家は新米がとれても倉庫に残った古米を食べなければならない、という「米余り」に悩まされている。たとえば今日の夜はごはん、明日の朝は「GOPAN」、という生活を送っていただけるなら、お米を中心とした食生活はより彩りあるものになるだろう。

 事実、農家の方々には大きな関心を抱いていただき、表参道のアンテナショップ、GOPANcafeにお越しいただくのも地方から出張してきた農業関係者、地方自治体の勤務者の方々が少なくない。いずれもお米の消費拡大について、真剣な視線を向けているのだ。

 さらにはそのようなコンシューマー向けはもちろん、街のパン屋さんなどいわゆるBtoBビジネスにも大きな需要が出るだろう。現在、炊飯器は600万台市場、ホームベーカリーは42万~45万台市場だが、炊飯器に迫るような商品に成長させたい。

 あくまで量的な試算だが、日本の全家庭でひと月にゴパンでパンを一斤食べていただくと、食料自給率が1%上がる。「GOPAN」の普及で少しでも日本の食をめぐる状況がよくなることを願ってやまない。

 もちろんこれは世界初の技術だから、販売戦略は、お米を主食にしている国への展開も視野に入れている。各国の食文化はまったく違うものだから、中国や東南アジアのおかずに合うパンとはどのようなものか、というリサーチは欠かせないだろう。

 そうやって「GOPAN」が世界中に広まれば、日本のモノづくりの「技術」によって世界の食がまた豊かになっていく。そのような無限の可能性をいま、「GOPAN」に感じている。

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