部下のやる気が上がらないのはなぜ? 上司が語るべき、仕事の「本当の意味」
2026年04月09日 公開
「それが仕事だから」「とりあえず頑張ってみよう」――こんな言葉を部下にかけたことはありませんか。部下のやる気は、上司が何気なくかけた一言によって大きく左右し、仕事の意欲を奪ってしまうこともあると、人材開発に長年携わっているピョートル・フェリクス・グジバチさんはいいます。
では、上司のどのような行動が、部下のやる気を上げることに繋がるのか――本稿では、世界の一流の上司が実践する「やる気を引き出す実践的なアプローチ」について解説します。
※本稿は、ピョートル・フェリクス・グジバチ著『世界の一流は「部下」に何を教えているのか』(クロスメディア・パブリッシング)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
部下の「やる気」を上げる言葉、下げる言葉
世界の一流の上司には、際立った共通点があります。日常の様子を冷静に観察することで、部下それぞれに見合った「やる気」に火をつける作戦を展開していることです。
1週間に一度の1on1ミーティングや空き時間の雑談などを通して、部下が抱えている不安や不満、ストレスやジレンマに目を向け、必要と思われる「言葉のエネルギー」をチャージすることで、部下のモチベーションを高めているのです。モチベーションの研究で知られるアメリカの作家ダニエル・ピンクは、人が「やる気」を出すためには、次の3つの要素が欠かせないといいます。
①「自律性」:自分の意思で課題を決める
②「熟達」:高みを目指して経験を積む意識
③「目的意識」:会社や社会への貢献などのやりがい
これら3つの要素が欠けている状態では、たとえ周囲が「頑張れ」と励ましの言葉をかけたとしても、本人の中に持続的な動機が生まれることはありません。3つの要件を満たして部下のモチベーションを高めるためには、上司と部下が自分たちの会社や仕事の「本質」を共有することが不可欠です。
世界の一流の上司は、そのためのアプローチを3つの戦略に分類して、適切と思われる情報を部下に提供しています。
「会社の存在意義」「仕事の意味」を伝える
【戦略①】会社の「存在意義」を教える
自分たちの会社は、何のために存在しているのか?誰に対して、どのような価値を提供しているのか?こうした根源的な価値観を共有することは、新入社員や若手社員だけでなく、キャリアを重ねたベテラン社員にとっても、重要なエネルギー源となります。
目先のタスクに追われる毎日を過ごしていると、「自分は何のために、この会社で仕事をしているのか?」と考え始めて、目的意識を見失うことがあります。仕事の方向性がわからなくなって、独善的な判断に走ることもあります。
自分たちの会社には、こういう世界観があって、こんなに素晴らしいプロダクトやサービスをしている......という価値観を折に触れて確認することは、部下のモチベーションに大きなインパクトを与えることになります。
【戦略②】仕事の「意味」を教える
仕事に追われる毎日を過ごすビジネスパーソンであれば、多忙を極めていたり、疲れていたりする時ほど、「この仕事に、どんな意味があるのか?」と考えるようになります。自分が納得できる答えが見つからないと、疲労感が一気に増して、余計なストレスを溜め込むことになります。部下のメンタルが不安定であることに気づいたら、世界の一流の上司は、部下に対して自分たちの仕事の意味を伝えています。
膨大な請求書の作成に追われている経理部の部下が、「自分は毎日、何をしているのだろう?」と悩んでいたとします。会社にとって、大事な役割であることは理解していても、「なぜ自分がやる必要があるのか?」という素朴な疑問が浮かぶこともあります。
上司が「それが君の仕事だ」と突き放して説明を終えるのは簡単ですが、そのひと言は部下から意欲を奪い、業務を機械的な作業へと変質させてしまいます。世界の一流の上司は、仕事の意味を伝えて、部下の「やりがい探し」をサポートしています。
部下が正確に整えているお金の流れがあるからこそ、会社は顧客に対して継続的に価値を届けられるのだ、と業務の意義を具体的に伝えています。目の前の仕事の背後にある構造を丁寧に示せるかどうかが、指示を遂行するだけの実行者を育てるのか、自ら考えて判断できる人材を育てるのか......という大きな分かれ道になるのです。
「部下のエンゲージメント」を高める
【戦略③】部下の「エンゲージメント」を設計する
エンゲージメントとは、会社の進むべき方向性と自分自身の成長が、互いに矛盾なく結びついている状態を指します。自身の持てる力を発揮することが、組織の具体的な成果に直結していると実感できた時、個人は誰に指示されることもなく自発的に動き出します。
こうした状態は、個人の根性や気合といった精神論によって生み出されるものではありません。組織としての仕組みを整える「構造」と、相互理解を深める「対話」を積み重ねることによって、初めて構築されるものです。
部下のエンゲージメントを高めることは、モチベーションのアップや自発的な行動を促すことにつながって、生産性の向上や離職率の低下にも効果が期待できます。世界の一流の上司は、次のような取り組みを通じて、部下のエンゲージメントを高めています。
・「企業ビジョン」の共有
・「柔軟な働き方」のサポート
・「キャリア成長」支援
・「評価」の透明性と公平性の担保
日本企業では、上司が独断で部下を評価して、それを人事部や社長に申告するのが一般的ですが、欧米企業や外資系企業には「キャリブレーション」と呼ばれる評価規範があります。キャリブレーションとは、複数の上司が集まって部下一人ひとりの評価結果を議論し、評価基準のズレを調整する「目線合わせ」のシステムを指します。
この仕組みの最大の特徴は、評価を一人の上司だけで完結させない点にあります。具体的には、複数のマネジャーが公開の場で、個々の評価が妥当であるか、あるいは他部署と比較して甘すぎたり厳しすぎたりしないかを相互に検証します。こうしたプロセスを経ることで、評価を「密室」から引き出し、組織全体での透明性と公平性を確保しています。
評価の偏りを防ぐことは、部下が不必要なストレスを抱えることなく、前向きな姿勢で仕事に打ち込める環境を整えることにつながります。部下にとって、上司から正当に評価されていないと感じる瞬間は、やる気を喪失させる決定的な要因となります。
上司による評価は、単なるフィードバックの結果ではなく、時には本人の成長を加速させる原動力となり、時にはその歩みを止めるブレーキともなります。多くのグローバル企業では、評価の透明性や公平性を、個人の意識の問題として片付けるのではなく、揺るぎない制度として設計しているのです。







