装画:WAKICO
最新作『女の子がハッピーに生きるための3つのこと』の著者・福木はるさんは、元小学校教員という経歴を持ちます。なぜ、大人向けの小説ではなく「YA(ヤングアダルト)」というジャンルで執筆を始めたのでしょうか。そして、創作の根っこにある想いとは。年齢を問わず、心が疲れたすべての人に届いてほしい、YA小説の持つ「癒やし」の力について語ってもらいました。
児童書の作家は、「君たちを幸せにしたい」という祈りのような魂で書いている

――福木さんはもともと、小学校の教員だったそうですね。YA小説の作家になられたきっかけは何だったのでしょうか?
【福木】教員をしていた頃、体調を崩してしまって。もう何もできないと思って、閉じこもっていた時期がありました。このままではいけないと思って選んだリハビリの場所が、図書館だったんです。子どもの頃から通っていた地元の図書館へ、車を走らせて向かいました。
つらい時期って、細かい字を追うのが難しくなるんですよね。長い小説にも没頭できなくて、「せっかく来たのに読めないな」と思いながら児童書を手に取ってみたら、不思議とするっと読めたんです。そこから週に2、3回通って読み続けるうちに、児童書の持つ力の大きさに気づかされました。
児童書やYAを書いている大人たちは、「子どもたちを幸せにしたい」という思いを込めて書いているのではないかと感じています。優しくてふわふわとしたものだけが児童書ではありません。暗くて重たいものを、子どもを侮ることなく手渡す。そうした大人たちからの信頼もまた子どもにとっての幸せだと思います。とにかく、その祈りのようなものが伝わってきて、「自分はこのまま生きていてもいいんだ」と思えた。そうやって本に救われた経験がありました。
ずっと読んでいたら、頭の中で誰かが語りかけてくるような感覚になってきて、「このままにしておくとまずい」と思い、言葉を一気に書き出したんです。そして、「これが物語を書くということなのかもしれない」と気づきました。ちょうど読んでいた作家さんの多くが講談社児童文学新人賞の出身だったこともあり、自分も応募してみようと思い立った、というのがきっかけです。
年齢的には少し遠回りをしたかもしれない、という思いもあります。それでも、教員時代に「目の前の子どもたちを幸せにしたい」と願いながら向き合ってきた日々は、今の自分の根っこになっている。そう考えると、あの時間は決して無駄ではなかったのだと、今は感じています。
YA小説を書くことの意味
――大人向けではなく、YA小説を書かれていることに理由はあるのですか?
【福木】一般小説にも青春小説はありますよね。それとYA小説の違いは、大人に向けて書かれているのか、それとも当事者である世代の読者に向けて書かれているのか、という点にあるのかなと思っています。
YA世代のティーンの子たちは、物語の中に自分を投影したり、ロールモデルを探したりしながら読んでいる部分がある。だからこそ、その子たちに直接届く形で書きたいという思いが強いです。これまで子どもたちと関わってきた経験もあって、彼らを大切にしたいという気持ちが、自分の中にずっとあるんです。
昔は、テレビをつければ子ども向けの番組がたくさんあって、夜の7時台でも子どもが楽しめるコンテンツが普通に流れていましたよね。コンプライアンスの面では社会は大きくアップデートされたと思いますが、その一方で、「子どもを楽しませたい」という空気そのものは、少し弱くなっているのではないかと感じています。
その影響もあってか、最近言われる「漫画離れ」のような現象も起きているのではないかと感じていて。子どもたちが、大人たちからその存在をまるごと祝福されながら成長できる社会が健全だと思うのですが、今は少し違う方向に進んでいるのではないか、という感覚があります。もちろん、少子化の影響もあって、商業的には大人向けの方が成立しやすいという現実も理解しているのですが...。
――よく考えてみると、話題のアニメや漫画も大人向けなものが多いですね...。
【福木】かつては子ども向けの作品を大人も一緒に楽しむという構図が多かったと思いますが、今は大人向けのコンテンツを子どもが共有している、という逆転した状況も生まれているように感じます。だからこそ、子どもたちに向けた作品をしっかりと作り続けることに意味があると思っています。
大人にとってもYA小説が果たす役割は大きい

――私も以前より『ピーチとチョコレート』を拝読していましたが、YAの読者は大人にも広がっていると言われています。その理由はどのようにお考えですか?
【福木】先ほども少しお話ししましたが、私自身、大人になってからYAに強く励まされた経験があります。YAって、「子どもたちを幸せにしたい」という祈りのような思いが詰め込まれている作品が多いと思うんです。
そのまっすぐさが、しんどい時に大人の心にも届くことがある。あるいは、過去に置き去りにしてきた子どもの頃の小さな傷と向き合うきっかけになったり、それが癒やされたりすることもある。そういう意味で、YAは大人にとっても大きな役割を持っているのではないかと感じています。
もともとは子どもたちのための物語として書いていますが、大人が読んでも得るものは大きいと思いますし、実際に私自身も読み続けています。だからこそ、年齢に関係なく、もっと多くの人に手に取ってもらえたらうれしいですね。
――仕事で疲れているときなど、長い文章を読むのがつらい場面もありますし、そういう意味でも児童書の役割は大きいと感じます。YAのテーマには、トレンドや変化のようなものはありますか?
【福木】はっきりと「昔はこうで、今はこう」というふうに整理できるわけではないのですが、今の社会を反映した作品は多いのかもしれませんね。セクシュアルマイノリティの問題だったり、『女の子がハッピーに生きるための3つのこと』で書いたような子どもの貧困だったり、社会の課題がリアルタイムで物語に刻まれている。
子どもたちは大人の影響をダイレクトに受ける存在なので、自然とそうしたテーマが浮かび上がってくるからではないかと思います。
YAを読む時期というのは、それまでの「自分中心の世界」から少し外に出て、他者もまた自分と同じように大切な存在だと気づき始めるタイミングでもあります。そこから、人との関わりや、さらに広い社会との関係へと視野が広がっていく。だからこそ、その時代の社会が物語に反映されやすいのだと思います。
――今後もYAを書かれる予定ですか? 今から次回作が楽しみなのですが、構想はあったら教えてください。
【福木】YAも引き続き書いていきたいですし、もう少し低い年齢に向けた物語にも挑戦してみたいと考えています。これまでは女の子を主人公にした作品が続いたので、次は男の子が主人公の物語を書きたいと思っています。
対象年齢に関わらず、読み終えたときに「ああ、楽しかった」と思ってもらえること。そして、読んでいる途中に、親が「ご飯だよー!」と声をかけても「もう少しだけ読ませて!」と思ってもらえるような、夢中になれる物語を届けていきたいです。









