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仕事

[スピード仕事術!] 重要度を見極めてポイントに集中する

井上高志(ネクスト社長)

2013年05月10日 公開 2022年12月21日 更新

『THE21』2013年5月号(4月10日発売)より》

ポイントを押さえ集中して取り組む

 掲載物件数国内No.1の不動産・住宅情報サイト「HOME'S」を運営する〔株〕ネクスト。創業者である井上高志氏は、社会人5年目にして独立・起業。29歳で現在の会社を設立してからは、創業9年目で東証マザーズ上場、その4年後には東証一部への上場を果たすなど、常に速いスピードで成長を遂げてきた。きっと若手の頃から自身の日々の仕事も速いに違いない。そう思って話をうかがうと……。 <取材・構成:塚田有香/写真:まるやゆういち>

 「私はもともと仕事が遅く、段取りも悪い人間でした。社会人になって1~2年目くらいのときは、仕事がなかなか片づかず、多い時はひと月の残業時問が200時間を超えたこともあります。

 しかし当然ながら、それでは気力・体力がもちません。そこで、いい意味で手を抜くにはどうすればよいかを考え始めました。仕事のできる先輩たちを見ていると、「ここさえ押さえれば大丈夫」というポイントの見極めがうまいことがわかってきた。それをお手本に、自分なりに仕事を速くする工夫をしていったのです。きっと誰もが最初から質の高い時間の使い方ができるわけではなく、ある時点で量を質に転換させる必要に迫られ、そのための訓練を積むことになるのではないでしょうか。

 現在の私は経営者という立場ですから、次々に案件が飛び込んできますが、それを全部引き受けていたら、自分の許容量を超えてしまう。重要なのは、その中で何が大事かを選び、それ以外のものは捨てること。重要度が低いと判断した仕事は思い切ってやらないと決める、あるいは自分でなくてもできる仕事は他人に任せるのです。

 仕事の取捨選択をする上で大事なのは、目標まで到達するための最短ルートを描き、それまでに絶対にチェックすべきポイントはこことここ、というイメージが持てるかどうかです。

 最近は、「HOME'S」のサイトのフルリニューアルや料金モデルの改訂など、複数の大型プロジェクトが平行して走っている状態でした。どれもスタートから3年近くの時問をかけ、数百人の人間が同時に動くような規模でしたから、ゴールへ到達するまでのチェックポイントは無数にあるわけです。それをすべて私一人でやるわけにはいきませんから、『ここは絶対に社長の自分かやらなくてはいけない』というものを優先的にスケジュールに入れて、あとはどんどん他の人に任せました」
 

時間の予実管理で仕事を効率化する

 では、押さえるべきチェックポイントが見えたら、具体的にはどうやって日々のスケジュールを管理すればよいのか。

 「私か実践しているのは、時間の予実管理です。大規模プロジェクトが始動するとしたら、『時間の50%は社長業、残りの50%はプロジェクトを統括する事業本部長としての仕事に充てる』と予測を立てます。さらに後者の50%についても、定例会議に10%、プロモーション関連に10%、というようにブレイクダウンしていき、それに沿ってスケジューリングをします。

 先々の予定については、グループウェアを使い、インターネット上で管理します。そして1カ月経ったら、秘書に頼んで、実際には時間をどのように使ったかという内訳を円グラフにしてもらいます。すると、『プロジェクトの仕事に50%を充てるつもりだったが、差し込み案件が多くて、実際には40%しか使えなかった』といったことがわかります。その差し込み案件が何だったかを振り返ると、人事の問題が起こり、その対応で時間を取られてしまったのだとする。だったら、今後は私か直接対応するのではなく、人事部長に間に入ってもらおう、などと対策を立てればよいわけです。

 こうして予測と実績を比較し、目標を達成できていない場合はその原因を明らかにし、新たな対策を立てるという予実管理を繰り返すことで、自分がイメージしたとおりの時間の使い方を実現していけるようになります。

 ちなみに、いくら予測をしても突発的な差し込み案件は入ってくるものですから、毎週月曜の夜は必ず空けておき、緊急事態に対応できる体制にしてあります。予定をかっちり入れるのは総時間の90%程度にとどめ、つねに10%くらいのゆとりを残すのがコツですね」

 こうしたスケジュール管理のノウハウを知ってもなお、「仕事が速い人」に変われないビジネスパーソンも多い。井上氏は、「結局は、仕事の重要度のラベルをつけられるかどうかが、仕事が速い人と遅い人を分ける差になるのでは」と話す。

 「最初にも言いましたが、仕事が速い人は、重要なポイントを押さえるのがうまい。会議で新規事業のプレゼンをする時も、仕事が速い人はまず結論を示し、『なぜ我々はこの事業をやるべきか』という点だけを押さえて非常に簡潔に説明ができる。一方、仕事が遅い人は、まず市場分析から入って、その解説が延々と続き、最後にようやく『こんな計画でいかせてほしい』と結論が出る。何かの建物を造るとしたら、仕事が速い人は、まず柱と連結のポイントだけを押さえて一気に組み上げていくのに対し、仕事の遅い人はレンガを1個1個積み上げるイメージですね。だからものすごく時間がかかってしまう。

 それは要するに、立体的な設計図を描く力がないということ。造り上げるべき建物の完成形をイメージし、そこに最短で到達する方法を想像できないから、本来はレンガを積む必要などないかもしれないのに、それをゴツゴツと続けてしまう。つまり、重要なことも重要でないことも、同じように時間をかけてやろうとしてしまうのです。

 その差は結局、その人がビジネスパーソンなのか、サラリーマンなのかの違いかもしれません。優れたビジネスパーソンは、自分の仕事の本質的な目的を理解しているから、そこへ最短で到達することだけを考える。一方のサラリーマンは、目の前に与えられた仕事しか見えない。『今年度の君のチームの目標数字はこれだ』と言われたら、ひたすらその数字に向かってレンガを積み上げるだけです。

 しかし、それが本当にその人のやるべきことでしょうか。極端なたとえになるかもしれませんが、大きなメーカーで働く人が、数ある自社の製品群の中で斜陽と言われる部門のリーダーを任されたとします。これからユーザーが減る一方なのは明らかなのに、会社からは『すでに製造してしまった製品があるし、既存の顧客も残っているから、最低限の売上げだけは維持してくれ』と言われている。でも、会社の将来を考えれば、それはあまりにも無意味な仕事です。だったら、その人がリーダーとしてやるべきことは、会社にその事業の撤退を提案することでしょう。そして『そのぶんの人や予算を将来性のある部門にシフトすることが、会社の成長を実現するためには必要です』と提言できる。これが、ゴールが見えている人間の判断であり、本物のビジネスパーソンとしての振る舞いだと思います」
 

失敗を恐れなければすぐやる人になれる

 また、やるべきことを先送りしてしまう理由としては、「失敗を恐れる気持ちがブレーキをかけてしまうケースもあるのだろう」と井上氏は推測する。

 「私自身は、リクルートを辞めて独立した時も、『失敗したらどうしよう』とはまったく考えませんでした。私はよく社員たちに向けて、かの『薩摩の教え』を引用し、挑戦することの大切さを語っています。人として1番価値があるのは、“何かに挑戦し、成功した者”である。2番目が“何かに挑戦し、失敗した者”であり、3番目が“挑戦した人の手助けをした者”である。とにかく、どんな結果やかたちであっても挑戦することが大事であり、たとえ失敗しても、挑戦を続けなければ人も組織も成長しないというのが私の考えです。

 そこには個人の性格も影響するかもしれませんが、性格だって変えることは可能だと思います。なぜなら、私自身にその経験があるからです。

 学生時代までの私は努力が嫌いで、責任を取りたくないからとリーダー的な役割からはいつも逃げていました。その場を要領よくやりすごすことばかりを考え、『やるか、やらないか』と躊躇する場面があれば、いつも「今回はやめておこう」と判断するタイプだったのです。

 しかし、ある会社の就職活動でそれを見抜かれ、指摘されたことがありました。そのときにようやく自分の中身が空っぽだと気づき、そんな自分を変えようと決意したのです。『躊躇したときは、一歩前へ出る』『険しい道と易き道があったら、あえて険しい道を選ぶ』など、意識的に自分の思考と行動のパターンを180度変えました。リクルートに入社後は、『5年以内に会社を創って独立する』と周囲に宣言して、自分にプレッシャーを与え続けました。おかげで4年後、ほんとうに目標を実現することができたのです。

 目指すゴールを宣言し、自分を追い込むという有言実行型の改革はお勧めです。たとえ仕事の遅い原因が性格的なものであったとしても、自分の意思でそれを変えられるという自信を、皆さんにも持っていただきたいですね」

 

井上高志

(いのうえ・たかし)

〔株〕ネクスト社長

1968年、東京都生まれ。1991年、青山学院大学卒業。〔株〕リクルートコスモス入社後、〔株〕リクルートに向。1995年に退社し、独立。1997年、「人と住まいのベストマッチング」という目的を掲げて〔株〕ネクストを設立。同社が運営する不動産・住宅情報サイト「HOME'S」は、国内ナンバーワンの掲載物件数を誇る。2006年、東証マザーズ上場。2010年、東証一部に市場変更。


<掲載誌紹介>

THE21 2013年5月号

[今月号の読みどころ]
先が読めない時代は、自ら問題を発見し、アイデアを出し、解決できる人だけが生き残れる時代です。そのためには目の前にある仕事を早く片づけるだけでなく、仮説から検証まで、仕事のPDCAを高速回転することが不可欠です。しかし、「仕事が多すぎて、考える余裕がない」「段取りが苦手で、雑事に振り回される」などの悩みを抱える人も多いようです。そこで今月号の特集では、各界の最前線でご活躍されている方々に、仕事の効率化から「すぐやる人」に変わる方法、賢い24時間の使い方までをうかがいました。これを読めばできるビジネスマンに変わること間違いなしです。

 

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