加賀谷きよいさん
2026年6月23日、優れたファンタジー小説の書き手を発掘してきた「日本ファンタジーノベル大賞2026」の贈呈式が開催されました。本賞の選考委員は、作家の恩田陸さん、森見登美彦さん、漫画家・文筆家・画家のヤマザキマリさんの3名です。受賞作には、加賀谷きよいさんの『朱天の都』が選ばれました。本稿では、贈呈式の様子をレポートします。
鬼を魅力的に描いた『朱天の都』

選考委員を代表して講評を行った森見登美彦さんは、まず本作の舞台について説明しました。
物語の舞台は、疫病の流行や武士の台頭により、貴族社会が揺らぎつつある平安時代中期。そうした不安定な時代を背景に、人間と敵対しながらも、都のあちこちに鬼たちが姿を見せる世界が描かれています。
選考会で特に評価された点は、鬼のキャラクター造形。なかでも重要な存在である、酒呑童子をモチーフにした「朱天童子」について、一般的に想像される恐ろしい鬼の姿とは異なり、男性のようでも女性のようでもあり、恐ろしくも美しく、傷ついた子どものようにも描かれていると語りました。
森見さんは「鬼の側にも人間のようなところがあり、人間の側にも鬼のようなところがある」と述べ、善悪を単純には分けられない構造に、本作の読みどころがあるとしました。そのうえで「キャラクターの魅力とストーリーの面白さで引っ張っていってくれる小説」と評し、講評を締めくくりました。
加賀谷きよいさん「物語の力が持つ可能性と、鬼に込めた思い」

左から加賀谷きよいさん、恩田陸さん
続いて壇上に立った加賀谷さんは、受賞について「感無量で胸がいっぱい」と喜びを語りました。
創作の原点として振り返ったのは、子ども時代の読書体験です。読書好きだった母親の本棚に親しみ、本や漫画を読みながら空想を広げていたといいます。
「本と漫画に囲まれて、空想の中でどこにでも行けて、何にでもなれた」
加賀谷さんは、そうした幼少期の原体験が、現在のファンタジー創作の根底にあると話しました。
酒呑童子を題材に選んだのは、岡山を訪れた際、桃太郎伝説ゆかりの神社で目にした絵馬がきっかけ。そこに描かれた鬼の姿に「恋をしてしまった」という加賀谷さんは、帰りの新幹線の中で物語の構想を膨らませていったといいます。
酒呑童子伝説では、源頼光が毒を盛って酒呑童子を倒す場面があります。加賀谷さんは、酒呑童子が最期に「鬼に横道なきものを(鬼は嘘をつかないのに、騙したのか)」という言葉を残すことに触れ、そこに「鬼よりも人の方が卑怯だ」という書き手の視点を読み取ったと語りました。
そこで本作では、鬼を一方的な悪として描くのではなく、人間と鬼の立場が変われば善悪がまるごと入れ替わってしまうような、多角的な視点を描きたかったといいます。
「人が過剰に排他的になる理由の一つには、知らないことからくる恐怖心があるのではないかと思います。そこで本作では、鬼にその恐怖心を重ねて書いてみました」
差別やいじめ、身の回りにある軋轢も、悪意以前に「正体がわからなくて怖い」という意識から起きているのではないか。加賀谷さんは、そうした視点を意識しながら執筆したといいます。
最後に「今後も現代社会や未来につながるさまざまなテーマを書き続けていきたい」と決意を語りました。








