1. PHPオンライン
  2. 生き方
  3. 尾崎世界観さんが悩みを相談する瞬間「誰かに話すのは、確定させにいくため」【第1回】

生き方

尾崎世界観さんが悩みを相談する瞬間「誰かに話すのは、確定させにいくため」【第1回】

尾崎世界観

2026年08月21日 公開

尾崎世界観さんが悩みを相談する瞬間「誰かに話すのは、確定させにいくため」【第1回】

悩みは人に相談するほうだという、クリープハイプの尾崎世界観さん。ただし、それは解決のためではないといいます。月刊誌『PHP』でのお悩み相談連載をまとめた『尾崎世界観のおなやみ天国』を刊行した尾崎さんに、読者の悩みを受け取ってみた感想や、自身が誰かに悩みを打ち明けるときのことを聞きました。

 

お悩み相談連載をやってみたかった

――月刊誌『PHP』でのお悩み相談の連載は、尾崎さんの発案とうかがいました。どうしてお悩み相談をやってみようと思ったのですか?

【尾崎】以前からお悩み相談を読むのが好きで、その類の本をよく手に取っていたんです。それで、自分が相談に乗って文章を書いてみたらどうなるかが気になって、連載をやってみようと思いました。

――どうしてお悩み相談を読むのがお好きだったんですか。

【尾崎】お悩みの回答から何かを得ようというよりは、悩みを相談している側と、それに応える側のやりとりを読み物として楽しむ感覚が強かったですね。そこまで答えは出ないんだけど、言葉を交換し合って、読み終わった時に少し気持ちが変わるというか。

だから、悩みは"読者のためにあるもの"という感覚が強くて。悩んでいる方も、それに答える方も、読者のために悩んだり答えたりしている。それを楽しんでいました。

――今回の書籍に収録されたお悩みも、答えを出すというよりは、一緒に考えたり、時には厳しい言葉も投げかけたりしている印象がありました。その辺りは何か意識されたのでしょうか。

【尾崎】そうですね。書いていて、寄り添おうという気持ちは当たり前にあるんですけど、その悩みによって、まだ知らない自分の言葉が引き出されていく瞬間がありました。それも面白かったです。

自分自身、文章をうまく書きたいけど書けないという悩みを抱えていて。読者からのお悩みに応えているようでいて、常にその自分の根本的な悩みにも向き合っていましたね。

――ご自身の文章の悩みに向き合われた、と。

【尾崎】書きたいけど、プロの作家のようなペースでは書けない。ミュージシャンとして本業もやっているので、もどかしさは常に抱えています。その中でどうしたらいいのかをずっと考えていました。

 

悩みに寄り添いたいし、読者に良くも思われたい

――お悩みに答え続けてみて、何か影響を受けたことや、変化はありましたか。

【尾崎】だんだん答えていく上での自分の型のようなものができてきて、このあたりでまとめよう、となっていくんです。でも、それが良いのか悪いのかはわかりません。そこで固定されてしまうという悩みもまた生まれてくるので。

――友達に謝ったのに許してくれない、というお悩みに対して、尾崎さんの方からストレートに「それは違う」と言われていたりして、そこまでは寄り添おうとしていたのが、途中から切り込んでいく感じになっていたのが印象的でした。

【尾崎】お悩みを選ぶときにいろいろ考えるんですけど、いざ書き始めると選んだ時の感覚とは全然違ったりもするので難しいです。悩みがずらっと並んでいるのを見ている時の自分と、いざ答えようとする時の自分と、それを書こうとする時の自分がそれぞれ違うので、途中で無理だと思って別の悩みに変えることもありました。

あと連載を通して不思議だったのが、一人のお悩みに答えていても、それを誌面で読む方が何人もいるので、一対一というよりもっと広いところに向けて書いているような、ある種のねじれを感じたことです。

もちろん悩みに寄り添いたいという気持ちはあるんですけど、読者に良く思われたいという気持ちも生まれてきて、葛藤がありましたね。もしかしてこれは、悩んでいる本人以外に向けて書いてしまっているんじゃないか、と書きながらまた考えてしまいました。

 

人に相談することで、悩みを確定させたい

――ちなみに、尾崎さんご自身は誰かに悩みを相談されますか?

【尾崎】相談をすることもあるんですけど、そんなに考えが変わることはないですね。自分の中で答えは決まっているので。

悩みを解決したい時よりも、悩みをより悩みたいというか、あえてもっと深刻な方に持っていくために相談することが多いです。それを確定させたい、早くそこに触りたいという感覚があるので。悪くなりきった方が、どこまで深刻なのかを知ることができる気がするんです。

40年以上生きていれば、自分の中の器はもう決まっているので、「悩みの大きさはこれぐらいかな」と思ったら早めにそれを確定させたくて、人に相談しながら手伝ってもらう感覚です。

そうやって話すことが自分の中ではすごく大事なんです。何に悩んでいるのか心の中でモヤモヤしたり、傷ついたりするのは、まだ言葉になっていない状態だから。それを組み立てて言葉にすることで、よりはっきりと悩みが見えてくる。

――多くの人は悩み相談というと、解決するためのものというイメージが強いと思うのですが、尾崎さんは言葉にすることに意味を感じているのですね。

【尾崎】心の風邪みたいなものだと思っているので。ある程度いってしまえば、症状はどんどん和らいでいくはずです。

――早めに何の風邪かだけわかっておく、みたいな。

【尾崎】検査するような感覚ですね。何かひどいものじゃないか、一応見てもらう。風邪をひいた時も、病院に行くだけで、あとは不思議と治ってしまうことがありますよね。

――確かに、原因不明よりも。

【尾崎】他人から認めてもらって、正式にそういう病状の自分になれるというか。悩んでいる時も、それを悩んでいることを誰かに打ち明けることで、いよいよ確定する。悩み相談は、そんな風に使っています。

そしてそれは、この連載を通して気づいたことでもあります。

(取材・構成:PHPオンライン編集部 片平奈々子)

プロフィール

尾崎世界観(おざき・せかいかん)

ミュージシャン、作家

1984 年東京都生まれ。2001年結成のロックバンド「クリープハイプ」のボーカル・ギター。2012年アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。2016年初小説『祐介』を上梓し話題となり、2021年に『母影』、2024年『転の声』で芥川賞候補となる。エッセイに『苦汁100%』『苦汁200%』『泣きたくなるほど嬉しい日々に』『尾崎世界観の書かなかったこと日記』、歌詞集に『私語と』などがある。

関連記事

アクセスランキングRanking

前のスライド 次のスライド
×