マッチングアプリに「工業社会のロジック」が潜んでいる? 減点主義を手放した先の“評価軸”
2026年11月06日 公開
人気Podcast番組『学校では教えてくれない"見えない力"の授業~「大人の非認知能力」~』でパーソナリティをつとめる、株式会社OnLine代表の白石慶次さん。同番組に、教育改革やソーシャル・イノベーションに長年取り組み、東京大学や慶應義塾大学で教鞭をとり「すずかん先生」の愛称で知られる鈴木寛教授がゲスト出演しました。テーマは「AI時代、大人は何を学ぶべきか?『大人の教育改革』」です。
収録後、お二人に追加でお話を伺いました。今回のテーマは「評価」と「仕組み」です。学びに意味や成果を求めてしまう大人の感覚から、減点主義を変える評価制度、マッチングアプリにも潜む「工業社会」のロジックまで、語っていただきました。
※全3回の3回目です
学習=試験が刷り込まれている
――学びというと、それをもって何かに応用しなきゃという感覚が強いです。
【白石】何かに活かさなきゃみたいな。それ、昔のOSですね。
【鈴木】学びというと、必ず試験されるというイメージがあって、それがもう刷り込まれているんですよ。共通テストで。
私はもう毎週のように教員研修をやっているんですけど、「新しい学びの探究の評価はどうするんですか?」という質問ばっかりなんです。評価なんかしなくていいじゃないですか、と。
【白石】やはり評価を意識してしまうんですね。
【鈴木】なんで評価が必要なんですか?と思います。もう思い込んでいるんですよね。昔は必要だったんです。なぜかというと、人口が多い時は倍率があったから、振り落とさなきゃいけなかった。客観性をもって振り落としているということを、落ちた人に説明しなきゃいけなかった。でも、もう全入時代なんだから、別に評価なんかしなくていいじゃない、と。
――評価のない学びは、何につなげていく意識を持てばいいんでしょうか?
【鈴木】自分が面白かったらいいんですよ。興味のあることをただ学んでいくと、意外と現実の問題を解決するのに役立つというのも、面白いんです。
【白石】それが一番ですよ。つなげようとか、考えなくていいと思うんです。
【鈴木】悩んでいたことが学問で改善したら、それでいいじゃないですか。他人がどうこう言う話じゃないです。使えた、と。それで、学問って案外使えるんですよね。聞きかじりの学問でもね。ちょっと使ってみるだけで、面倒くさい上司をうまくかわすことができたりとか。
【白石】何かの役に立てたいとか、何かのゴールに無意識に向かわないといけないと思っているんでしょうね、多分。
――そうかもしれません。学びに、つい意味を求めてしまう自分に気づきました。
【鈴木】でも、そこも問題視していいんですよ。なぜ自分、および自分の世代は、学ぶことに過剰な意味を求めてしまうのか。
【白石】いい問いですね。
【鈴木】それを問いにして、探究していくわけです。そうすると、0歳の時はそうじゃなかったわけで、自分の人生を振り返った時に、何歳の時のこういうエピソードがそのきっかけになって、それが強化されたのはいつか。必ず人生のいろんなエピソードがあるんですよ。それは母親からだったり、学校でのことだったり、担任からの一言だったり。それをちゃんと、まず自己分析するんです。そういう価値観ができあがったという、自分史をまず認識するのも、メタ認知の方法の一つなので。
そうすると、これとこれとこれが自分の今の価値形成につながっている、と発見できる。じゃあ、母からの一言だった場合、母はなぜこういう発言をしたのか?なぜこういう価値判断をしたのか?そういう行動を分析して、分析して、分析して、やっていくと何か答えが見つかります。
――メタ認知って、本当にいろいろなところに使えるんですね。
【鈴木】使えるんですよ、本当に。
探究の時代に新しい評価制度を取り入れるなら

――日本社会は減点方式になりがちだとおっしゃっていましたが、これから新しい世代が社会に出てきて刷新されていくためには、評価制度なども変わっていかなきゃいけないように思います。上層部やマネジメント層の思考を転換するには、どうすればいいのでしょうか。
【白石】凝り固まった人たちの頭を変えるのは、ハードルが高いと思っています。でも、評価の仕組みが変われば、従わざるを得ません。私が有効だと思うのは、「対人コスト」という評価軸です。この人に反対意見をどのくらい言いやすいか、どのくらい気を使っているかを数値化して、気を使わせる人は評価が下がり、使わなくていい人は上がる。そうすれば、おじさんたちも「そんなに気を使わせてたんだ」と、自分を客観視できます。鈴木先生、いかがでしょうか。
【鈴木】いいと思いますね。
――下から上の人のことも評価していく。
【白石】言いやすいですか、この人に、と。感じのいい人の評価が上がっていって、感じ悪い人は評価が下がっていくとなると、もう感じよくせざるを得ないじゃないですか、強制的に。じゃあどうやったら感じよくなれるかな、と。やっぱり、人生は感じがいい方がいいと思うんです。感じ悪いのはつらいじゃないですか。
【鈴木】コストと反対のギフトみたいなのもありますよね。ちゃんとギフトを受け取れるかどうか。「この人がくれた」みたいなことを評価して。
【白石】ああ、そうですね。ちゃんと受け取れるか。それもいいですよね。仕事に直接関係ないところで助けてくれたとか、利害関係がなくても助けてくれたとか、そういった部分も評価軸に入れるのもいいですよね。
あとは社会関係資本が測れるとすごくいいなと思っています。この人は、社内だけじゃなくて、社外とのネットワークが構築できていて、メリットがなくても助け合える関係性を持てているのか、とか。もし測定できるのなら、その人材はめちゃくちゃ価値が高いので。
――確かに、他者との関係性や信頼などは見えづらいですよね。
【白石】「俺、社会関係資本大きいぜ」と言っている人ほど怪しい、という側面もありますので、ちょっと難しいんですけどね。そういうのが測れたら面白いですけど。いかがですかね。
【鈴木】世の中を変えるには、ルールを変える方法と、ロールを変える方法と、ツールを変える方法があります。今の対人コストを評価に入れるというのは、ツールを変えるという話で、それは素晴らしいと思います。
あとは、ロールを変える、ロールを増やすというのが重要だと思います。ロール、つまり役割ですね。例えば今、人事部長が全部採用しているとしたら、人事部長だけにそのロールを与えるのではなく、1年目の新入社員だったり、いろんな人たちに、人を選んでもらう。「この人と仕事したいか」と。
人事部長は、いろんな課のことをイメージしてやっているんだけど、人間だからわからない部分も大きいはずです。勘もありますし、好き嫌いもありますし。だからそれは、むしろ多元化して、この採用権を、そういういろんな人に、と。一部だけでも、1年目が採用した人だったら、とても面白いと思います。そうするとね、人事部長が勉強になるんですよ。「俺はこいつを取らないのに、1年目の評価が高い。あれ、20代の評価は高いんか、こういう人が」と。
マッチングアプリは工業社会のロジックになっている?
――能力を数値で測るというよりも、人との関わりを見る、ということでしょうか。
【鈴木】そこが大事なところで、客観的な基準で測るというのは、工業社会の価値観なんです。メートル原器というのがあって、1メートルは世界中同じなんですよ。それで、あなたは身長168センチですと決められる。これが工業です。そうしないと、ネジが合わないから。世界一律に、1センチは1センチでなければ困るんです。
偏差値もそうです。だから、スタンダードを決めて、分散を決めて、分散をなるべく縮小する。これが工業社会のロジックなんです。でも、人間社会には、一つの聖人君子のスタンダードなんてないんですよ。みんな不完全な人間なんだから。結局ここの相性なんだよね、要は。絶対的な水準があって、それに近いとか遠いとかいう話じゃない。
――感覚的なものと言ってもいいのでしょうか?
【鈴木】感覚的なものでもあるし、相対的なものです。僕、最近おかしいなと思っているのが、マッチングアプリなんですけど。「三高」とか言っているでしょう。
――いまは三高はあまり言われてないかもしれないですけど、ハイスペなんて言葉は聞きますよね。
【鈴木】そうそう、同じですよ。基本的にスペックを分解して、それぞれの偏差値が出て、それでマッチングしているわけでしょう。それは「スペック」と言っている段階で、工業社会的ロジックなんですよ。だって、人間は品質じゃないんだから。スペックにして、標準化して、偏差値化して、マッチングしている。これもナンセンスの極みなんです。人間をむしろ工業製品にしているという、そういう話で。好きとか嫌いとかは相性なので、スペックじゃないんです。
【白石】あれは、スクリーニング機能なんですかね。最低限この条件を満たす人じゃないと、私は選びませんよ、と。
――そうだと思います。年収いくら以上とか。
【鈴木】だけど、ダメダメ男が、昔は惚れられたりしたじゃないですか。
【白石】ありましたよね。「なんでお前を選ぶんだ?」「なんでお前が選ばれるんだ?」みたいな。マッチングアプリでは…。
【鈴木】ないですね。それが文学作品になったりしていたわけですよ。
フランス映画『髪結いの亭主』のように、妻が全部稼いで、夫はヒモみたいな。でもそれで幸せなんだから、お互いに。何が悪いの、と。その亭主は暇だから子煩悩だったりして、いい子が育って、それが幸せ、ウェルビーイングという見方もできますよね。出来の悪い亭主で、ロースペだけど、家のことをやってくれる。これは、今のスペック論からしたら、全然出てこない。
家庭だけが、工業社会から侵食されていなかったのに、スペックを持ち出したら、「あんた年収いくらなの? 私が勝った」みたいな話になる。
シャドウ・ワークが、それによって全部排除されてしまうし。育児とか家事とか介護といったシャドウ・ワークは大事なんですよ。特に育児は、めちゃくちゃ重要ですよね。1つの会社を経営することも大事だけれど、1人の子どもを育て上げるというのも、それに匹敵する仕事ですよね。その子がものすごい偉人になることもあるし、大犯罪者になるかもしれないから。
【白石】もちろんですよ。子育ては本当に大切です。
【鈴木】子育ては重要、という話になった時にマッチングアプリのアルゴリズムはおかしいと思うんです。フィロソフィーとコンセプトが間違っている。
【白石】フィロソフィーが間違ってそうですね、確かに。前提がちょっとおかしそうですよね。
――フィロソフィーが相性によるマッチングだったらいいかもしれません。
【鈴木】そうそう、それだったら。そうすると、スペックという言葉は出てこない。
【白石】みんなPCCP※をやれたらいいですね。登録時に。
――志が合うかどうかを確かめる。
【鈴木】そうそう、価値観が合うかというのはあります。経済的価値はほどほどで、世のため人のために頑張るということについて、それが合っているということが大事ですからね。その度合いが。
――確かに、本当に数値化されてしまっていますもんね。
【鈴木】工業社会なんですよ、マッチングアプリって。
――今は、そこから脱出しようとしている段階ということですよね。
【鈴木】まさに「Beyond GDP」(GDPだけで豊かさを測らない考え方)で、ウェルビーイングに取り組んでいるところです。数値で測れるものもあれば、測れないものもあります。数値にできないものにも価値を見いだし、大切にしていこう、ということです。
【白石】日本が世界に先駆けてその潮流をリードしていかなければいけませ
※PCCP:鈴木寛先生が提唱するプロジェクトや政策の設計モデル。Philosophy(理念)、Concept(基本概念)、Contents(内容)、Program(実行計画)の4つの要素から構成される。









