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「アニメ文化外交」が日中友好を実現させる

櫻井孝昌(コンテンツメディアプロデューサー)

2013年07月25日 公開 2022年07月07日 更新

中国における現在の総合覇権アニメは『名探偵コナン』

2012年現在、中国で幅広い年齢層にもっとも人気のあるアニメといえば、まちがいなく『名探偵コナン』である。

2010年11月、分団長として参加した日中青年交流事業訪中団ポップカルチャー分団が北京で交流しているとき、こんな出来事があった。

私たちは、日本でいえば宝塚音楽学校のような舞踏を教える女子校を訪問した。冒頭、団長としてスピーチを仰せつかったが、目の前には小・中学生と思しき100名ほどの女子たちが座っている。

「みなさん、名探偵コナン好きですよね?」

「はい!」

中国人女子たち全員から大きな返事が返ってきた。

「では、あの有名なセリフをみんなでいってみましょう。いいですか?」

「はい!」

コナンの話題が出ているのが、みな嬉しくて仕方がないという感である。

「いきますよ~。1、2、3、はい」

「真相只有一个」(真実はいつもひとつ!)

日本の団員たちの驚いた顔が忘れられない。

「では、みなさんは中国語で、日本のお兄さん、お姉さんには日本語で『真実はいつもひとつ』をいってもらいましょう」

「真実はいつもひとつ!」

日本と中国の若者たちが、アニメの台詞で"ひとつ"になった瞬間だった。

交流終了後、こんなふうに聞いてくる日本人団員がいた。

「櫻井さん、いつの間に彼女たちに仕込んだんですか?」

もちろん"仕込んだり"などしていない。

2010年1月から中国で本格的に文化外交活動を始め、また、訪日団の高校生たちに講演する機会も多くなった。彼らとの交流を通じて、『名探偵コナン』が中国の幅広い層に愛されていると確信するようになった。

大学生に比べると高校生は、日本のアニメ全体に対する知識量に差がある。だが、『名探偵コナン』の場合は、高校生でも認知度100パーセント。というより、全員が大好きという感じだったのだ。

「真実はいつもひとつ」の中国語はかなり発音が難しい。私が中国語でいうと、多くの場合、相手は〈???〉という顔になる。

だが、そのあとすぐに、それがコナンの台詞とわかると、「ああ、『真実はいつもひとつ』ね」と嬉しそうな顔を浮かべ、台詞を繰り返してくれる。

そこからは即席の中国語発音講座だ。このやりとりが、とにかく楽しい。

「真実はいつもひとつ」と同じくらい有名なアニメの台詞がある。あまりにも有名な『美少女戦士セーラームーン』の「月にかわっておしおきよ」。

中国内陸の湖南省の省都・長沙でランチをしながら、訪中団の大学生ボランティアスタッフに発音を習っていると、通りかかったホールスタッフの若い女性に、こう発音するのよとばかりに、笑顔でお手本を示されたりもした。要は誰でも知っているのだ。

やはり訪中団で会食した市の30代後半と思しき要職者に、最近覚えた中国語として「月にかわっておしおきよ」を披露しようとすると、「月にかわって」と口にした途端に、「おしおきよ」を彼が中国語でつないでくれた。

世界が理解し合うことがいかに難しいか、誰もが痛感していると思う。だが、アニメという価値観を通して世界が理解しあえるなら、「アニメ文化外交」の可能性は大きいと思うのだ。

友人のある中国人女子が、日本のアニメやマンガが好きな理由を、一人ひとりの人間の考え方や世界観が明確にあるから、と答えてくれた。

アニメ文化外交の目的は、日常レベルでの「価値観の共有」にあると私は考えている。だから私の中国での文化外交活動において、「真実はいつもひとつ!」と「月にかわっておしおきよ」を拙い中国語で話すことは欠かせない。

たったこれだけのことで壁を乗り越えられる体験を、身をもってしてきたからだ。

この小さな事実は、中国の若者たちと日本人の距離を縮める大きな事実でもある。

 

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